1日目-1
日記を書こうと思ったのは、ただの思い付きでしかない。
何があったわけじゃなく、本当になんとなく、日記でも書いてみるか~って気になっただけ。
いや、それは嘘だ。
事件があった。
だから日記を書こうと思ったわけではないけれど、今日は大事件が起きた。
今日俺は、信じられない美少女と出会った…。
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今日もいつもの時間に、俺こと佐藤敏男は「ペッパー」として『new World online』の世界に降り立った。
もちろん異世界に来たわけでもなく、単純にいつも通りゲームにログインしただけだ。
『new World online』通称『nWo』は話題の超大作VRMMOだ。
話題と言っても、やることは在り来たりなファンタジーモノで、剣と魔法でモンスターを倒す!
まぁ、VRMMOが珍しく無くなった今では、それだけで話題にはならないんだが…。
超大作と言うだけあって、それなりに凄いシステムになっている。
凄いシステムについては、追々書いていくとして。
忘れていたけど、「ペッパー」は俺のキャラクターの名前だ。
今日はギルドメンバーがまだ誰もいないようなので、一人でフィールド探索に行くことにした。
俺はソロの時は、低LVの狩場で素材採集をしていることが多い。
というのも、そもそもソロで狩りが出来るほど強いビルドでは無いからだ。
俺のキャラは、所謂バッファー、またはエンチャンターなんて呼ばれるビルドをしている。
味方を強化魔法で強化して、敵を弱体魔法で弱くする。
そんな補助魔法メインなビルドをしている俺のキャラは、ソロではあまり強くない。
っと、ここでちょっとこのゲームのシステムについて触れておこうと思う。
このゲームには所謂職業というものが存在しない。だから職業がバッファーなわけではなく、スキルの育て方でバッファーに分類される。
このゲームはスキルを使うと、その系統のスキルが育っていく。
例えば剣を使えば剣スキルが育って、新しい剣スキルを覚える。
弓を使えば弓スキルが育つし、体術スキル、盾スキルなんてのもある。
どの武器を使っていても、ある程度スキルが育つと属性付きのスキルを覚える。
属性付きスキルを使うと、武器スキルとは別に属性スキルも上がるようになる。
これまた例えば、風属性の刀スキル『鎌鼬』で敵を攻撃すると、刀スキルの他に風属性スキルが育っていく。
魔法の場合は攻撃魔法スキル、回復魔法スキル、補助魔法スキルで分かれていて、それプラス属性スキルが育つようになっている。
さて、俺のキャラはというと、言うまでもなく補助魔法スキルをメインに育てている。
メインにというか、ぶっちゃけ補助魔法スキルしかほとんど育っていない。
普通はバッファーと言っても、補助魔法スキルをメインにその他に武器スキル、または攻撃魔法スキルを育てるのが一般的だ。
その方がソロでも狩りが出来るからだ。
そんななか俺はというと、補助魔法スキル以外では生産系スキルを育てている。
最初は俺も攻撃系スキルを育てようと思ったんだが…。
一緒に始めた友達が戦い方が上手すぎて、自分が戦うより補助してた方が良かったんだよね…。
結果徹底的に補助に走ろうと決めて、補助魔法+生産系スキル、というキャラが出来上がった。
だからソロのときはあまり強い狩場には行けず、低LVの狩場で生産に使う素材集めをしていることが多い。
今日は街の近くのちょっとした林で、ザコモンスターと戯れつつ素材採集をすることにした。
しばらく林の探索を続けた結果、現在ここはフォレスト・オークの棲み家になっているらしい。
前に来たときは、植物系モンスターがいたのに。
これがこの『nWo』が話題の理由─『生態系変化システム』
プレイヤーが狩りをすることで、ポップするモンスターが変わっていくのだ。
最近ではどうやら狩りをしなくても、徐々に変わっていくらしいことがわかっている。
このゲーム製作者曰く、
「最近はネットを使っての情報伝達が速く、ドキドキする冒険はアップデートから長くても数週間しかない。冒険とはもっとドキドキするものであるべき!」
だそうな。
そして俺もそう思う。
そういったプレイヤーから人気を博し、『nWo』は一気に話題作となった。
なんせ同じ場所で狩りをしてても、いつ新しいモンスターと出会うかわからない。
先行している高LVプレイヤーが探索した後のフィールドでも、新しいモンスターと出会うかも知れない。
これほどドキドキするMMOが今までにあっただろうか。
またこのシステムは、今までのMMOが抱えてきた、一部の狩場だけがやたらとこみ合うという問題も解消した。
なんせ、経験値効率の良いモンスターがいる、良いレアを出すモンスターがいるなんてウワサが流れた日には、一週間もすればそのモンスターは狩り尽くされて、違うモンスターに変わるのだ。
一部の狩場に引きこもる意味が無かった。
そしてこのシステムは、生産好きなプレイヤーにも大いにウケた。
新しいモンスターが見つかる度に新しい素材が増え、新しいものが生産出来るのだ。
生産出来るものがどれだけあるのか、もう既に誰にもわからない状況だ。
「そして汎用素材をドロップするプラント系モンスターは、見事に絶滅したのです。ってか。」
俺はフォレスト・オークを倒しながら、そんな独り言を呟く。
なんか変だとは思ってたんだ。
前来たときは、ここの林もっと人いたし。
どうやら汎用素材を出すために、金策に向くプラント系モンスターは狩り尽くされてしまったらしい。
そしてこのLV帯の森では良くポップする上に、大して旨味のないフォレスト・オークになった今、この林は完全に過疎っている、と。
「まぁ、俺は素材採集に来ただけだから、空いてる方が良いんだけどね~」
って、一人なのになんで俺は言い訳みたいなコトを言ってるんだ。
元々本当に採集目的だし、別に悔しくなんて無いし。
って、だから俺は誰に言い訳を…。
なんてモヤモヤしながら、各種薬の汎用素材になる『大葉薬草』を採集する。
さっきから何度もフォレスト・オークを倒しちゃいるけど、特にレアドロップなんかも無く。
たまにファング・ベアって名前の牙の生えた熊も出てくるけど、こっちも大したドロップは無く。
大したドロップは無いけど、ファング・ベアってどれくらいメジャーなモンスターなんだろ?
倒す度に『熊の牙』が手に入ってるから、レアなドロップでは無いんだろうけど。
存在自体がレアな場合もあるから、このゲームは油断ならない。
これで一攫千金!
だったら良いな~。
なんて考えてたら、悲鳴が聴こえた…ような気がした。
気のせいかも?って思ってたら、
「シロ、クロ、頑張って!!」
なんて威勢の良い女の子の声が聴こえてきた。
どうやら気のせいなんてことも無いようだ。
声の感じからして、そこまでは遠くなさそうだ。
今まで誰とも出会わなかったこともあり、ちょっと覗いてみることにした。
-別に女の子の声だったからなんてこと、ちょっとしかないし。
小走りになりながら、声のした方を目指す。
急に視界が開けた。
どうやらちょっとした広場になっているらしい。
そこには美少女が─が…。
白い二本足で立つ豚がいた…。
いや、悪口とかじゃ無いよ?
そんな酷いこといわないよ?
本当に二本足で立つ豚がいただけで。
さっきまで倒していたフォレスト・オークがまさに二本足で立つ豚なんだが、色は緑色だ。
多少濃さに違いはあっても、全部緑色だった。
でも今見つけたのは真っ白だ。
名前はフォレスト・オークと表示されている。
─突然変異個体。
きっとあれは突然変異個体だろう。
これもまた『生態系変化システム』の特徴だ。
稀に突然変異個体といわれる、所謂レアモンスターがポップするのだ。
見た目がちょっと違って、強さとドロップが変化する。
強さは必ず強くなる訳じゃなくて、弱い個体になることもある。
あの個体は…
と、観察していたら、一匹の黒い犬が白い豚に飛びかかった。
特異フォレスト・オークがその攻撃を避ける。
その拍子に、フォレスト・オークの向こう側に女の子が見えた。
…良かった、ちゃんと女の子がいた。