変人たちの台頭 後篇
その指は、この2-Eの教室にいる女子生徒を指した。
「え?わたし?」
彼女は出席番号36番・春野ましろである。栗色のフワフワした髪がトレードマークの少女だ。
「簡単な推理さ。君の胸章についている、その未知の生命体のストラップ・・・君が未確認生物に興味のある証拠だろう。」
「ち・・違うよ!これは――――――!」
「ハッ!苦し紛れの言い訳かい?僕の鋭い勘をなめないでほしいな。」
軽く前髪を払いながら微笑む。
推理と勘は真逆の関係ではないのかという疑問を、なんとか喉もとでとどめ、彼女にちょっとした罪悪感を感じた。
「さあ、僕と一緒に来るんだ。そして、興味深い話を聞かせてもらおう。」
そう言って、彼女のもとに歩み寄る変人。
「あの、不可思議な話をしていたのは僕なんだけど・・・。」
流石に申し訳ない。関係ない女子を生贄にするほど、僕は下衆ではないつもりだ。僕は自ら申し出た。
「な・・・何!?そんなはずはない。」
「いや、そんなはずあるよ・・・。」
僕は鞄のポケットから携帯を取出し、待ち受け画面を見せた。そこに映るのは、かわいいかわいい弟と、その弟に抱きかかえられたうーたんだ。
「こ・・・・これは―――――――――!」
つかの間、この変人は石造のごとく動かなくなった。手を振る等々してみたが、反応はない。
二分たってもそのままなので、徐々に教室内はいつもの空気を取り戻しだした。もはや、この変人に触れようという勇士は現れないらしい。(むろん、僕も例外ではない。)
「ごめんね、春野さん。」
「ううん、大丈夫だから。」
そう言ってほほ笑んでくれる春野さんは、マイナスイオンを放出しているかのようであった。周りの男子たちも、なぜか照れ出すほどに。
不意に、夏目がひょこっと顔をだし、文月の肩をたたいた。そして、小声でささやいた。
「あのさ、春野さんのあのクマさんのストラップ。あれは侮辱しないほうが身のためだぞ。」
(クマさん・・・。)
僕は春野さんの胸元にあるストラップに目をやった。正直ストラップというよりは、手作りの人形的なアレにストラップのひもの部分を無理やり合体させたという感じだ。何とも言えないグロさを醸し出すそれは、とてもクマさんには見えなかった。
何ともいい感じのタイミングで、チャイムが響いた。
「クッ、もう時間か。そこの君!私は君を逃さないからな。覚悟しておけィ!」
そんな捨て台詞を吐いて、文月は颯爽と教室を去って行った。・・・嫌な奴に目を付けられたもんだ。
「夏目、どうしてあれがクマだって分かったんだ?」
「ああ、オレも似たようなの持ってるから。」
そんなこんなで、午後の授業がはじまる。