朝ごはん
朝。6時きっかりにケータイのアラームが響く。今日も僕の一日が始まった。頭の奥がぼーっとする。
2階の部屋をでて、1階のリビングに向かう。重い足取りで階段をどすどすと降りた。そして、ドアを開ける。
すでに母は起床済みで、テレビでは朝のニュースが放映されていた。そして、そのテレビを食い入るように見つめる、白い物体・・・。
(そうか、昨日から宇宙人を飼いはじめたんだっけ・・・。)
僕は昨日の出来事を走馬灯のごとく思い出した。
例の宇宙人は今、女子のようにペタンとカーペットに座り、テレビを食い入るように見つめている。その大きな黒い目に、テレビの映像が反射して見えた。そんなにテレビに興味があるのだろうか・・・?
「あら玪、おはよう。朝ごはんできてるわよ。」
母がキッチンから声をかけてきた。僕は朝食の席に足を向ける。
食卓にはトーストとバターが用意されていた。僕はコーヒーを淹れると、トーストに注意深くバターをのばし、熱いうちにかじった。
「うーたんは何を食べるのかしらねぇ。」
母が素朴な疑問を口にした。そんなことを知る者は、おそらく地球上に存在しないだろう。
「・・・そもそも、地球の物を口にするのかな?」
次は、僕の疑問を投げかけてみる。
それらの会話が聞こえていたのだろうか。うーたんはてこてこと食卓の方に歩いてきて、椅子によじ登り、僕の隣の席に着いた。
「うーたんも朝ごはん食べる?」
母は笑みを浮かべながら優しく尋ねた。コクリとうなずくうーたん。
とりあえず母は、ちょうど焼きあがったトーストをうーたんの前に出した。
初めてトーストを見たのだろうか。うーたんは皿を持ち上げ、さまざまな角度からトーストを眺める。そして、トーストをかじっている僕の方を見た。
その時、僕は気付いた。
(よくよく考えてみれば・・・うーたんって口がない――――――――。)
これは由々しき事態である。緊急事態である。全く何も考えずに出してしまったが、口のない生物に食物を与えるのは、よく分からんが、とても失礼なことのような気が・・・。何となく罪悪感が込み上げてきた。
と、その瞬間。
シュオオォォォォォォォ――――――――――
目の前にいる宇宙人から、光が溢れた。激しく何かが吸収される音が響く。僕はその眩しさに目を細める。母も驚いて、目を閉じた。
数秒後、その光が止んだ時。僕らが目を開いた。と同時に、僕は戦慄した。
「こ・・これは・・・。」
僕らは唖然と口を開けた。
うーたんの目の前にあったはずのトーストは―――――枯れた。その表現が最も的確なような気がする。皿の上にはしわしわに、カラカラに枯れたトーストの残りかすが残っていた。
「こ・・これは・・・」
母が口を手で覆い、目を丸くした。
「これは・・・畑の肥やしになりそうね。」
・・・肥やしとは、残りかすに残っている養分を利用するはずだ。しかし、この枯れたトーストには、微塵も養分など残っていないだろう。そんな気がした。
うーたんの食事は養分だけを吸収するようだ。うん。謎だらけだが、そういうことにしておこう。
うーたんは食事に満足したらしい。表情がないので確信はないが、何となくオーラ的なものを感じる。まるで背後に花が咲き誇っているようだ。
「あら、うーたん。バックにお花が咲いてるわねぇ。」
どうやら、母にも見えているらしい。
うーたんは椅子から降りると、無重力レベルにふわふわとスキップしながらテレビの前に向かった。そしてまた女子のごとくへこたって座り、ご機嫌に横揺れしながら朝のニュースを見つめていた。
僕は残りのトーストを口に運んだ。
ご不明な点があっても、作者に聞かないでください。作者も地球人なので分かりません。