家族がふえた日。
「見て見て、お兄ちゃん!公園で拾ったんだ!」
高校での一日を終え、玄関のドアを開けた時であった。目を輝かせながら、弟は無邪気にはにかむ。それなりに大きな段ボールを抱えながら。
『それなりの大きさの段ボール』+『公園で拾った』=『捨てられた動物』という等式が、瞬時に僕の脳裏をかすめた。
「おい、動物はダメだって言われてるだろ?お前、アレルギーなんだから。」
「ううん、これは大丈夫そうなやつだよ!」
「・・・。」
弟は前々からペットを欲しがっていた。兄としては弟の願いを叶えてやりたかったが、アレルギーともなればどうにもならない。当然、母はペットを飼う許可を出すはずもない。
そんな弟は今、目の前でとても嬉しそうにしている。念願の夢は、すぐそこにあるのだから。だが・・・。
「・・・アレルギーが大丈夫そうな動物って・・何だ?」
動物系のアレルギーと言えば、よく分からんが毛がダメなんじゃなかったか・・・?となると、毛のない動物・・・?まさか、ハダカデバネズミ!?
いやいや、そんな動物がちびっ子たちの神聖な遊び場たる公園で捨てられているはずがない。そもそも、ネズミが捨てられてるってどんな状況だよ・・・。
「フフフ、なんだと思う?」
軽くパニックに陥りそうな兄に向って、ドヤ顔をかましてくる弟。そんな可愛らしい、年の離れた弟を、僕はとりあえず写メった。
カシャッ。
「あー、今写真撮ったでしょ!もう、お兄ちゃんには教えてあげない!!」
怒って階段を駆け上っていく弟。そんな弟もなかなかいいもんだ、と思った僕は、再びその後ろ姿を写メった。
で、結局あの段ボールの中身は何だったのか。
ま、母さんが返ってくれば分かるか。
気を取り直して、靴ひもをほどいた。
午後7時。母、帰宅。
「ただいまぁ~。」
「おかえり、母さん。」
弟は結局あのまま部屋にこもってしまった。
「おい、硝!母さん帰ってきたから夕食だぞー!」
2階に向けて叫んだ、数秒後。ものすごい勢いで階段を下りる音が響いた。
「お母さん!これ、飼っていいよね!」
そう言った弟の腕の中には―――――――――白い物体があった。
五体はある。きちんと二足歩行していそうな、ヒトに近い形だ。だが、何と言うか・・・のぺっとしている。ウ〇トラマンのような大きな目はサングラスのように黒光りしているが、人のような鼻があるわけではなく、ごく小さな穴が2つあるような感じだ。さらに、ヒトのような口がない。
これは、まさしくアレだ・・・SFに出てくる――――――――。
「宇宙人なら大丈夫だよね!ねえ、飼っていいでしょ!」
弟よ、これはアレルギー云々《うんぬん》の問題ではないのだ。気付いてくれ。こんなわけのわからんものをペットとしておけるわけがないだろう。
「あら~。いいわねえ!経済的にもリーズナブルな感じだし。」
両手を合わせて、「あ、その手があったか!」みたいな言い方をする母。
何を食すのかも分からんモノをリーズナブルと言ってしまっていいのか?そもそも、リーズナブルってなんだよ!そんな理由で異星の住人を居候させていいのか!?
「やったー!いいって!これから僕らは家族だよ!うーたん!」
そう言って、宇宙人を抱く腕に力を込める弟。宇宙人の『うーたん』・・・なんて端的な名づけ方なんだ。まあ、弟の言うことならよしとしよう。
まさか、宇宙人が家族になる日が来るとは。
かくして、僕等の奇妙な生活が始まると同時に、僕の価値観が正しいのかどうか分からなくなっていった・・・。
次回は口のないうーたんの貴重なお食事シーンが・・・!