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壊れた世界の子供たち  作者: 五葉ノート
五章 壊れた世界の空で
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14終章

 俺たち三人が海を眺めていると、後ろから聞き覚えのある声が聴こえた。

「ほう、波まで出ておるようじゃな、引力が戻ったのかの?」

「えっ! じじぃ、生きてたのかよ!」

「だから勝手に殺すんじゃない。年寄りじゃからと言うて、そう簡単に三途の川は渡らんぞ」

「だってあの時、銃で撃たれたのかと……」

「ホッホッホ、死んだフリをして反撃を狙っておったんじゃが、突然何か硬い物が飛んできて頭にぶつかっての、今の今まで気絶しておったわい」

「なんだよそれ、まぁ生きてて何よりだ」

「よし、よくわからんが解決したようじゃ、帰る準備でもするかの」

 じじぃはそう言うと、ヴェイロニアではなくレクシアスの方へと向かって行った。

 レクシアスのボンネットを開くと、ニヤニヤと笑みを浮かべ車の中を覗き込んでいる。じじぃは本当に車が好きでたまらないようだ。

「そうだ、ソニア。さっきはニネットを助けてくれてありがとう」

「いや、私は何も……それに私はお前たちに酷いことをした。あの赤髪の事もそうだが……本当に済まなかった。お前たちが望むなら私を殺してくれても構わない」

「おいおい、何言ってんだよ。もういいって!」

「しかし……」

「ソニアはニネットを助けてくれたし、それに世界まで救ったんだぜ? もっと堂々としてもいいぐらいだけどな」

 確かに色々あったが、俺はソニアを恨むことはしなかった。ソニアだってあいつにいいように使われていたんだ。それにニネットも助けてくれた。もう余計な事は言いっこなしだ。

「……ふふ、可笑しなものだ、世界を再生させる行いは、世界を破壊させる行為だったのだからな。私は今までに組織として多くの犠牲を生んできた。それが正しい選択だと信じてな。私は所詮、あいつの言うとおり、駒であり道具でしかなかった。最後に良い行いが出来たのはせめてもの救いなのだろうか」

「ああ、そうだよ!」

「にねのこと助けてくれてありがとう!」

「ほら、ニネットだって礼を言ってるんだ。もう気にするなよ」

「そうか、ありがとう。僅かだが心が休まった。ありがとう、ありがとう……」

 ソニアは少し笑って涙を落とした。涙を拭う事無くポケットに手を入れると、何かを握り、決意したように顔を上げた。

「美しい空だ」

 覚悟を決めたソニアは、ポケットから小さなナイフを取り出すと、首元に目掛けて躊躇無く腕を引いた。

「っ!」

 鮮やかな赤が地面を濡らす。

 一面の青空とは対照的で、美しい空に似つかわしくない赤は、ぽたぽたと零れて小さな川を生む。

「何を!」

 ソニアが首を突く瞬間、俺とニネットは同時に腕を伸ばしていた。刃先が喉元に届く直前、俺たちの手は刃を掴んでいた。

「それはこっちの台詞だ、どうしてこんな事をする!」

「私にはもう存在する価値すらない。このまま世界の悪として消えさせてくれ!」

「ばかぁっ!」

 ニネットがソニアの頬を叩いた。ナイフがカラカラと音を立てて転がる。

「イッカクが言ってたもん! 命を大切にしない奴は大馬鹿だって! あなたばかなの! ニネットばかじゃないもん!」

 ソニアは涙を流しながら頬に手を当てた。

「ソニア、よかったら俺たちの家族にならないか? お前みたいな危なっかしいやつ放っておけないぜ」

「ツバメないすアイディア! うんうんそれがいい、そうしよう!」

「か、家族……?」

「ああ、それにニネットとは本当の姉妹なんだろ? それなら別になんの問題なんてないさ、ほら、立てよ、行くとこが無いなら俺たちの所に来いって!」

「わーい! 家族増えたぁ!」

 ニネットが両手を挙げ、喜びながら飛び跳ねた。

「私は……生きて……いいのか?」

「当たり前だろ! 生を望むのなら自分の手で掴むんだ。あ、でも自分の食料は自分で稼げよ? うちは家族が多いから、海でたくさん魚を取らなきゃだめなんだ。食料を集めるのは結構難しいし、生きるっていうのは結構大変なんだぜ」

「そうか、生きるのは大変か。ふふ、私は泳げないが頑張ろう……生きて行く為にな」

 立ち上がったソニアが笑顔を見せた。ニネットと同じで柔らかく美しい笑顔だった。

「えぇー、ソニちゃん泳げないんだぁ。ツバメと同じでタオル係りだ! 役立たずだ!」

「うるせぇ! 俺はそのうち泳げるようになるんだよ!」

「あはは! うそだーうそだータオル係りぃ!」

「何度も言うんじゃねぇよ!」

 三人の笑い声が大空へと響いていた。



 砕けた月が宙に浮かぶ。

 遥か遠い空はまだ暗いのかもしれない。

 それでも見渡す世界は青く輝いていた。

 何が変わったのか、何が変わらないのかは今も分からない。

 それでも俺たちはこの世界で生きていく。

 ただひとつの世界、たったひとつの世界。

 壊れた世界の子供たちと言われようと、俺たちは知ったんだ。

 世界がこんなにも美しいということを。


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