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夜が訪れると、道路の両端からは壁がせり上がり、規則的に並ぶ照明に明かりが灯った。じじぃの話だと、あれは事故を防止する為の装置で、暗くなると自動的に作動する仕組みになっているそうだ。
電気が供給されているおかげで、ここまでの道に障害物は一つも無く、車の調子も至って良好だった。
一定の距離を過ぎるたびにレストエリアを見つけたが、どの場所も荒らされた様子で、とても立ち寄れそうな場所では無かった。だが休息をとろうと入った七つ目のエリアは、幸いにも施設の状態は良く、休むには丁度いい場所となっていた。
ずっと車の中で座っていただけとはいえ、速度を出した状態での運転は神経を使う。俺は地面にへたり込むようにして倒れると、寝転がったまま、車に積んであった食料を口に放り込んだ。ビスケット菓子のような食感だったが、干した野菜の味がする。
じじぃは車の後ろへ回りエンジンの具合を確認していた。『車屋ってのは自分の事より車の方が気になってしょうがない』と口にし、疲れた様子も見せずにあちこちを確認していた。
二本目のビスケットの野菜を食べていると、じじぃが前方の扉を開き何かを取り出した。
「ツバメ、あまり使えるモンでは無いが武器を渡しておこう」
「銃があるのか?」
「銃は無い。もしもの時に備えて猟銃はハチクマに渡してしもうたからな。使えそうな物は少ないかもしれん」
俺は立ち上がって車の荷室を覗き込んだ。狭い空間にはごちゃごちゃと、見た事のない物がたくさん詰め込まれていた。
「とりあえずこれが一番使えるじゃろう。ここを押すと電流が流れる、ほれ持ってみろ」
手のひらに収まる小さな機械には、赤いボタンが一つだけ付いていた。ボタンを押すと機械の先からは細い電気が流れ、バチバチと音を発して青色の火花を散らせた。
「スタンガンじゃ」
「ふぅん、これ強いのか?」
「まぁ相手は一撃で倒れるじゃろう。次はこれじゃ」
次にじじぃが渡してくれたのは、カラフルな絵が描かれた小さな缶だった。
「なんだこれ?」
「なんじゃ読めんのか? お前、ニネットから漢字を教わっとったじゃろう」
「でもよ、これ難しい字だぜ? ええっと、この字はなんだっけな……おこ、かん、げき、たい?」
「ふぁっはっは、面白い読み方をするもんじゃ、それはチカンと読む。痴漢撃退スプレー、唐辛子成分が入っとるから、そいつを目に吹き付けてやると相手は悶絶もんじゃ」
「やばそうな武器だな」
「他には……ううむ、使えそうな物はそれぐらいか?」
じじぃは乱暴に荷室をかき回し、役に立ちそうも無い物は外へと放り出した。
「しばらく物置にしとったからな、奥には余計な物が入ったままじゃったわい」
そう言いながら、じじぃは次々と物を捨てていく。武器になりそうな物はないと言っていたが、じじぃが投げ出した物の中に、俺はとんでもない代物を見つけてしまった。
ずっと昔にハチクマに見せて貰った本に載っていたのだが、その本は新共和国への変遷を描いており、暗黒の思想を持つ集団を、正義の力を持つ騎士が討ち果たすという物語を記したものだ。
騎士は悪に立ち向う術として理力を扱い、雷光と呼ばれる剣を携えていた。雷光の剣は青や緑の光刃を発生させるのが一般的だそうだが、これは一体どのような色を持つ剣なのだろうか。
俺は頬を伝う汗を拭い、僅かな緊張を感じながらそれを拾い上げた。それは思ったよりも軽く扱い易さが伺える。親指の位置には起動スイッチが有ったので、俺は恐る恐る雷光の剣を起動させてみることにした。
手に伝わる静かな振動、剣の芯からは静かに光が浮かび上がる。光は血よりも深い真紅の輝きを見せていた。
「マジかよ、これって暗黒面のライトセ――」
「ん? それは交通整理に使う光る警棒じゃ」
「え、騎士の剣じゃないの?」
「何を訳の分からんことを言っとるんじゃお前は」
「なんだ……違うのか」
騎士の剣ではない事に落胆しつつも、僅かな期待を抱き俺は何度も光る棒を振り回してみた。試しに柱を斬りつけてみたが、光る棒はあっけなく割れてしまった。
俺はスタンガンとスプレーをポケットにしまい込み。ナイフの位置を確認した。銃を持つ相手にこれだけの武器では心もとないが、何も無いよりはマシだ。
じじぃは一通り車の点検を済ませると、一言『寝るぞ』と言いすぐに横になってしまった。
時間は無駄に出来無い。俺も早く眠った方がよさそうだ。
翌朝、俺たちは早朝から車を走らせていた。巡航速度とやらは三百キロを超え、エンジンは唸りを上げている。
画面に映された位置を示す青と赤の点はもう随分と近くなっていた。あくまでじじぃの予測だが、それらが交差するのも残り僅かだ。
俺はじじぃの静止を聞き流しながら、可能な限りの速度でアース・リザレクターの後を追っていた。
「そうじゃ、プロフェッサーの記事を読んで感じた事があったんじゃが」
「感じたこと?」
「奴はどうも月に執着心があったようじゃ、遺伝子の研究と月、まったく関係の無いこの二つが結ぶ点とは一体なんじゃろうか」
「月って地球に落ちてきた隕石の事だろ? お偉いさんだから、月の落下に気付いてなんとかしようとしたんじゃないのか?」
「今の目的を考えると、そういう前兆を知っていたのかもしれんな」
「じじぃは世界を救うって話はどう思う? 俺はイッカクやニネットの事が無ければ賛成していたんだ」
「世界を救うか……行動としては文句は無い。老い先短い年寄りには関係のない話じゃが、お前たちが生きる未来は輝かしいものであってほしいと願っておる。これだけ狂った世界じゃ、奴等の行動が正しいと考えられなくもないが……どうしても人は感情で動く生き物じゃ。お前たちは銃を向けられ、ニネットは連れ去られた。奴等に対する恨みも大きいじゃろうが、お前はどうしたいのじゃ?」
「そりゃあプロフェッサーは許せないさ。でも、ソニアとホレスはあの時戸惑っていたようだし、俺だって全部が憎い訳じゃないんだ。ニネットを助けた後の事は正直何も考えちゃいないよ」
「会ってみない事には何も始まらんか」
「じじぃはどう思うんだ?」
「地球の復活……果たして本当にそんな事が出来るのか? ワシはそれ事態に疑問をもっておる。月の落下に気付いた各国政府は対応策を練っておったそうじゃが、異変から落下まではたった一ヶ月しか無かったと言われておる。月に核爆弾を発射する事で地球には何の害もないと報道はされておったが、結局月は半分に割れ、その半分は隕石となって落下してしまった。世界的な権威とは言え、たかが研究者一人で何が出来るのじゃろうてな」
「うぅん、難しい事は分かんね――」
その時、遠く道の向こうで黒い影が揺れた。
「どうしたツバメ」
とうとう見つけた。斑陽に入る度に、トレーラーの荷台が銀色に反射する。
「奴等のトレーラーか!?」
「ああ、やっと追いついた! 行くぜじじぃ!」
俺は返事も待たずにアクセルを全開にした。速度を示す針は一瞬にして赤いラインを超える。
「ツバメ、でかぶつの足を止める。一度トレーラーの前に出るんじゃ、その後ワシが合図したら一気に奴等の前に出ろ!」
「わかった!」
俺はあっという間にトレーラーを抜くと、ハンドルを切って道を塞いだ。するとじじぃは窓を開け、トゲが付いた丸い玉のような物を撒き始めた。
「よし、行け!」
アクセルを踏むと同時に、後方ではタイヤが破裂する音が聴こえた。トレーラーは蛇行し、荷台を大きく揺らして道の中央に止まった。異変に気付いたのか、前を走る二台が速度を落とす。
「うぉぉらぁぁぁぁぁ!」
俺はレクシアス、ハンヴィーの順に二台を追い越すと、急ブレーキを踏みハンドルを大きく回した。勢いのままに車を反転させ、車両の前に対峙する。
「ニネット、待たせたな」
ヴェイロニアの扉が両手を広げるように上部に稼動した。それはまるで、この先を一歩も進ませないという、俺の意思が伝わったかのような出で立ちだった。




