01序章
西暦二〇二〇年。突如地球に接近した月を破壊する為、核ミサイルが月に発射された。
しかしそれは月を半分に砕くことしか出来ず、半分に割れた月の一つが地球に衝突した。月の破片は流星となって地球に降り注ぎ、大地を砕いて地平線の彼方まで亀裂を走らせた。
地殻変動による地震は海を暴れさせ、巨大な津波は世界を二週したも言われている。
溶けた氷は海面を上昇させ、多くの街が水の中に沈んでいった。人の歴史は成す術も無く葬られ、こうして世界は終わりを迎えた。
それから二十五年。大地には身を寄せ合いしがみつくように生き続ける、僅かな人の姿があった。
しかし世界は大きく変わっていた。月の引力が消え、海は湖のような静寂に包まれていた。深層まで達する亀裂からは強力な磁場が発生し、人類が築き上げてきた文明のほとんどは機能出来なくなっていた。
宇宙に漂う月の破片は太陽の光を遮り、空一面を覆う黒の群雲が晴れることは無い。雲の隙間から僅かに覗く光を、人は仰ぐことしか出来ない。
滅んだ世界で生を望んだ人々は、希望も見出せないまま、ただ刻を重ねていた。瓦礫を漁って命を繋ぐ者。それを奪って生きる者。自ら死を選ぶ者も少なくは無い。秩序は消え文化は記憶の彼方に置き去りにされた。
厳しい世界の中で生きる人々は、果たして人と間と呼んでよいものか定かではない。ただ、今日を生きているだけ。時の過ぎるままに命を繋いでいるだけだった。
崩れた山に沿うように住宅が並んでいた。住宅といってもその殆どは瓦礫で、地震により下層部分が崩れているもの、鉄筋が屋根を貫いたもの、土砂よって埋まり一部を覗かせているというような状態のものばかりで、形を保っているものは数える程度となっていた。
津波で耐え残った建物は、マンションや学校といった中階層の建造物だけで、超高層のビルは半分に折れて崩れていた。
山から伸びる一本の長い道路。坂を下ってすぐの所には海が広がっていた。道路と海を区切るように、水の中で「止まれ」の文字が揺らいでいる。
強烈な磁気嵐により科学や当時の技術は機能していない。古い時代の道具が重宝され、時代遅れの技術が利用されている。だがそれも、燃料の枯渇によって動きを封じられ、機能する物は多く無い。
大人達は言う。世界は終わった。そしてもう始まることは無い。壊れた歴史が始まり、そして静かに終焉を迎えるだろう。
築き上げた文明も、限界を知らない技術も。宇宙への可能性も、人々の栄光も、顧みるのは過去の歴史。全てを置き去りにして地球は回っている。
地球の新しい歴史、壊歴二十五年。
二十六年前に生まれた者は幸せだと言う。一度はあの青く澄んだ大空を見ることが出来たのだから。
世界が壊れた後に生まれた者は不幸だと言う。この世の終わりしか見ていないのだから。
しかし子供たちは知らない、ただここで生まれただけ。この場所で生きているだけ。
世界の終わりが何処なのかは判らない。目の前に広がる世界が、ただ唯一の世界なのだから。