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夢野  作者: 秋瀬あい
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箱の上の少女と「ジルバート」

俺達がその悲鳴があがった現場に着いた時、初めに見たものは…≪モウオウ≫の餌である干し草の入った餌箱の上に立つ奇妙な出で立ちの少女と、餌を食べるモウオウ達だった。


「…なぁ、マックス。あれは何だ……」


疑問とも呟きともとれるようなギルバートの声が聞こえたが、むしろ俺が聞きたい。騎士になって何年か経つがこんな光景を見るのは初めてだ。


「一応聞くが、彼女は危険な状態で、俺達は彼女を助けるべき…なんだよな…?」


「……私はそう認識したが。」


後ろにいた部下の何人かの兵士達も動揺しているのが分かる。本来なら厳しく注意するべきなんだろうが、俺も酷く困惑しているせいかそこまで考えが回らなかった。


「……おい、マックス!あの子、あのままじゃ落ちるかもしれねぇぞ!?」


確かに彼女の足場はぐらついていて今にも落ちそうに見えた。

それを確認した瞬間、俺は気付いたら駆け出していた。モウオウは草食の動物で人間に危害は加えたりはしないが、モウオウ達の長く鋭い角は時として人間に致命傷を与えることもある。

彼女があそこから落ちてモウオウ達の角に当たったりでもしたらただでは済まないだろう。

俺は走りながら鞘から剣を抜き去り、素早く呪文を唱えた


「『世界を駆け巡りし風の精霊達よ、我に精霊の力を貸し与え下さい』」


剣を軽く横に振るい、風の精霊の力を借りて風圧でモウオウ達を吹き飛ばした。…因みに、勝手に乱用すると減給ものの技だ。


俺は、彼女が地面に着くすれすれで彼女の身体を受け止めた。すると彼女は何が起きたか分からないのか、俺の腕の中で黒い瞳を大きく見開き俺を見つめてきた。

彼女の深淵のように深い瞳で見つめられると何かに嵌まりそうで心がざわついたが…嫌な気持ちはしなかった。


「おい君、大丈夫か…?」


「〜?〜?〜〜〜〜…?」


彼女がたどたどしく紡ぐその言葉に微かに聞き覚えがあったが、俺達が普段使う耳慣れた言葉ではなかった。


「…その言葉は!?君はいったい…?」


彼女はそのまま瞼を落とし、すぐに深い眠りに落ちてしまった。

…俺は騎士として彼女の言語の事を考えるでもなく、出で立ちを訝しがるわけでもなく、…ただ彼女の瞳が見えなくなってしまったことが残念で、またじっくりと見たいなどと無意識に思っていたことに気付いた時、すごく自分に驚いた。今まで女性に対して…いや誰に対してでもそんなことを考えたことすらなかった俺が、今日初めて会った女の子にこんな感情を抱くなんて……。



「おいマックス!感傷に浸ってるとこ悪いけどよ…、」


「何だ?」


ギルバートは盛大な溜め息をついた後、親指で背後を指差し



「あの吹き飛んだ家畜の弁償どうすんだよ?」



…今日の自分はどうやらかなり頭が回っていないらしい。







目が覚めると、まず木目の天井が目に入った。微かに黒ずんでいて長年大事に住んできたのがよく伝わってきた。…だけど、


「ここ…どこ?」


身体をゆっくりと起こし辺りを見渡すと、壁に寄りかかって書類のような物を読んでいた背の高い外人さんと目があった。

…さっき私を助けてくれた人かな?


「…〜!〜〜〜?」


…うわ、さっぱり解らないや…!英語だったら授業で習ったから、少しは分かるはずなんだけど…んーでもこれは英語じゃないよね…。


「ご、ごめんなさい…。解らないです…」と言って首を横に振ると、相手も通じないと分かったのか少し寂しそうに項垂れてしまった。この人には悪いかもしれないけど、首を横に振るというジェスチャーが共通みたいで助かった。先生から聞いた話だと、外国では日本とは違う意味でとられてしまうジェスチャーもあるらしいから。


外人さんはすぐに気を取り直したかと思うと、自分自身を指差し「ジルバート!ジルバート!」としきりに言い始めた。…この人の名前かな?


「…ジルバート?」


と私が呟くと、彼は首を音がするほど横に振り「ジルバート!」とまた言い始めた。

…え、何が違うの…?!


その後みっちり15分以上も2人で汗が浮かぶまでジルバート?ジルバート!とずっと言い合っていると、唐突に扉が開いた。


青い目が綺麗な外人さんだった。…そうだ、この綺麗な瞳には見覚えがある!この人が私を助けてくれた騎士サマだ!

じっくりと見てもやっぱり綺麗だなあ…。瞳もそうだけど黒い髪の毛も私と同じ色の筈なのに全然違うように見えるよ…


私が不躾にジッと見ていると、青い瞳の騎士サマは心配そうに話しかけてきた。


「…〜〜〜〜?」


「え、えっとー…?」


私はさっぱり意味が分からず、ジルバートに助けを求めるように視線を移す。…まぁジルバートの言葉も分からないけどさ…。


ジルバートは、苦笑したかと思うと何事かを青い瞳の騎士サマに言った。騎士サマはやはりと言うように神妙な面持ちで頷くと私に向き直り泣きそうな顔で私の頭を撫でた。


「…も、もしかして私、可哀想な子認定されたの…?!」


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