袋の鼠、捕らえるは…
続読ありがとうございます。
今回はノアとジストールを追いかけます。
8.
「どこまで行く気だ?」
かなりの速さで駆けているのに息も切らさず隣を走る男を見やり、笑う。
「どこでもないですけど何か?」
何もかもが気に入らない。
王宮にいることも、この姿でいるのも、最悪な相手に出会ったことも、隣に並ぶこの男も。
だから、自分はすこぶる機嫌が悪い。
「なんなら、ここで白黒つけてもかまいませんが」
足を止め振り返る。
「どうせ相手は三流ですし?」
元々何かおかしいと思っていた。
武器になりそうなものは限られているが、幸いなことにいつもと同じ、守るのは一人。
周りは人気の無い廊下。
散らばるはガラス片。
壁には王家の紋章を彫った実用には向かない銀の盾と矛。
「あーあ、こんなことしたらまたお説教ものだよ…」
躊躇いもなく矛を掴み、盾を若旦那に投げた。
危なげもなく受け取る様子に舌打ちしたくなる。
あちこち走りまわり、何度も同じような道をノアに先導されながら走る。
何度も頭上で割れるガラスをものともせずどんどん先へ進んでいく。
王宮にはよく来るのだが、こんな場所は歩いたことは無い。
それをコイツは確かな足取りで走る。
「どこまで行く気だ?」
隣を走りだしてからこちらを向くことの無かった、ノアが笑った。
深く帽子をかぶっているせいで口元しか分からないがとても暗い笑みだった。
元から変わった奴で、仮にも主である俺に皮肉気に笑う。
そんなもの大したことではなかった。
今、彼女は怒っている。
こちらとて敵意をここまで見せられるとは思わなかった。
『気付いてやがる』
腹に一物持った人間だとは思っていたが、ここまでとは。
甘く見ていたようだ、〈認識を改めるべき〉とノアール=フェリトリアの調査票に書き込む。
「なんなら、ここで白黒つけてもかまいませんが」
足を止めた彼女は壁にかかっていた盾を俺に投げた…少しばかり、恨みが伝わってくるようだった。
ガラス片を見やり、笑った。
「派手にやってくれたね、暗殺者共」
拾ったガラス片を強く握り、窓の桟を避け、投げる。
カサリと何かが動く音がした。
少しすると、外が騒がしくなり人の声が聞こえた。
「お前たちは袋の鼠だよ」
獣の声が聞こえ、悲鳴が聞こえる。
それとともに何かが壁をこする音がした。
矛を構え笑う。嗤う。
「せいぜい、後悔しなよ」
私を怒らせたこと。
這い上ってきて二メートル以上の高さの窓から人が落ちてきた。
「ひっ」
実用的ではないとはいえ、刃は本物。
切っ先を向けられたソイツは固まった…様に見えた。
「入ってこい、中にいるのは餓鬼一人!外よりましだっ!!」
あちこちから音が響く。
きっと、全員がこちらに入ってくる。
「多勢に無勢だ。さぁ、おちびさんはどうするかな?」
勝ち誇ったソイツに顔を強張らせた。
全員で5人。
一人で、しかも隙ができやすい矛では勝ち目がない。
その場に緊張が走った。
あえて、ピンチで終わらせます。
ドキドキしながら読んでもらいたいシーンなのですが力不足です、ごめんなさい。
ノアは色々普通じゃない令嬢です。
濃すぎるかなぁ…と思うこの頃です。




