ツカエルモノ
続読ありがとうございます。
ようやく話が動いた…というか勝手に動き出したというか。
とりあえず、開幕です。
5.
早朝、私は自分の住まいに帰りついた。
夜勤明けの今日は非番だ。
「…これからあの二人と腹の探り合いなわけね」
きっと精神的に疲れることこの上ないだろう。
だるさを感じながらもいつものように机に向かう。
-女にしとくにはもったいないな
言われた言葉をゆっくりと噛み締める。
言われる度に思うのだ。
「そんなことないわ」
皆間違っている。
私は爵位を継いで女子爵になりたいわけではない。
「お姉ちゃん、頑張るからね」
『お母様、林檎持ってきたよ』
窓から目線を外し、私を見て微笑むその表情を見ていると幸せだった。
『ノア』
私の名前を愛おしいそうに紡ぐその声がくすぐったかった。
優しく私の頭を撫でる温かい手が好き。
『もうすぐお姉ちゃんになるのね』
膨らんだお腹を優しく撫でるその手がなんだか寂しかった。
「弟かしら、妹かしら」
-知ってるよ
『守ってあげてね』
-うん、守るから…守るから、
「おはようございます」
用意された制服に腕を通す。
一昨日まで来ていたものとは生地が違う。
今日からどのような扱いになるのか片鱗が見える。
目の前の少女…アンと呼ばれていた彼女が同じものを着て現れる。
「ノア、と呼ぶわね」
「どうぞ」
「今日からあなたはジストール様付きの侍女」
「若旦那様、朝食をお持ちいたしました」
入室の許可が下り、カートを運び入れる。
「ノアール」
「何でしょう?」
不機嫌そうに書類を睨んでいた彼が視線を上げる。
「尊敬の感じられない敬称はいらない」
思わず目を見開く。
「私は貴方様に仕えることを身に余る光栄と思っておりますが…」
「白々しい。ならばこの報告書は何だ」
ひらひらと振ってみせるそれは私が提出したものだ。
「気に入りませんでした?」
夜勤明けの休日に纏め上げさせられたものだ。
出来は上々だが。
「続けてみろ」
「思っておりますが、少々人をこき使いすぎかと」
にっこりと笑う。
「それはこれから苦労をかけるな?」
手は止めず着々と食事の用意は出来ていく。
「なんなりと。誠心誠意お仕えさせて頂きますわ」
二人がにっこり笑いあう冬の朝はブリザードが吹く
お二人さん、何か真っ黒です。
どうして君らはそうなるの、って感じです。
ジストール(若旦那)人使い荒らいですよ、ノアも思うままには動いてやらないという…主従って感じじゃないですね…。
ちなみにタイトルには二つの漢字をあてられます。