開幕のベルが鳴る
続読ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけたら嬉しいです。
今回は何か黒いものを感じます…。
3.
本日のお勤めもつつがなく終えたと言える。
予想外の人が現れた以外は。
「いつか来るとは思っていたけれど」
反って遅かったくらいだが。
クジェトリム伯爵邸では夜勤の女中の為に部屋を貸している。
その部屋も落ち着いた色調で品がある。
そういう当主(といっても若旦那様の計らいだ)の気質も気に入っている。
金持ちは自分の価値を高く見せるために飾りがちだが、品の良さとはき違えている節がある人間が多い…色々な貴族のもとで働いてきた中で感じてきたものだ。
そして、他に気にしていることがある。
「すっごくガードが堅いのよ、ここの人達」
女中達が皆、洗練されている。
それもきちんとチェックが入れられているからだが。
その情報源が分からなかった。
まさか当主が全ての女中を見張れる筈がない。
誰かいる筈だ。
彼の右腕…きっと今日を選んで動いている。
確信はノック音で固まった。
「ノアール=フェリトリア、起きていますか?」
「はい。…侍女長様」
「身支度をして付いてきなさい」
軽く女中服を整え、立ち上がり、扉を開いた。
侍女長の後ろに付いて行きながら、目線は隅までいきわたらせる。
調度品の良さからおそらく向かうは当主の部屋。
相手は私に気が付いている。
私は彼のどこまで気が付けただろう?
今までのお屋敷ではもっと力を抜いていた。
けれど、あの銀は読めない。
引き下がるわけにはいかない。
引き下がるには早すぎる…負けてはいけない。
侍女長が立ち止った扉には獲物を狙う猛獣の鋭利さ、人を惹き付けずにはいられない力を併せ持った銀色と温かみのある中に強さをはらんだ亜麻色のオッドアイを持った豹が彫られていた。
その扉を侍女長が叩き、一歩下がった。
「入れ」
扉を開いた先にいたのは銀の瞳。
「ジストール様、私は下がらせていただきます」
「あぁ。今日はもう休んでくれていい」
静かに礼をした彼女は私を中に促し、後ろへ下がった。
やはり、侍女長ではない。
「ノアール=フェリトリア、お前の目的はなんだ」
単刀直入な物言いに驚く。
噂では慎重な性格と聞いていたのだが。
「フェリトリア家の建てなおし…言葉だけではあなたと大差ありません」
言葉を隠さない物言いに思ったより馬が合いそうだと思う。
「お前は女にしとくにはもったいないな」
この人も色々調べたに違いない。
雇い主として知りえぬ場所まで…彼女に指示して。
「もったいないお言葉ですわ」
「あの母姉に使われるのも非常にもったいないとも報告を受けた」
この人は退屈している。
もちろん、本気で伯爵家の建てなおしを目指している。
けれど、この人はゲームをしている。
私と一緒の目的を持ちながら、獰猛な、何も失うものは無いという目をしている。
ここにいたら、彼の駒になるんだろうな…と思い当った。
すぐここを離れれば逃げられるとも思う。
不思議とそうする気もないが。
「私をどうしたいのですか」
聞けば戻れない。
もとより、戻る道はない。
「アン、出てこい」
目の前には温かみのある亜麻色。
昼は茶に見えたが、揺れる蝋燭の前では亜麻色に輝いていた。
オッドアイの豹を見た時からちらつく影の本体が姿を現した。
平民と思っていたあの娘が彼の右腕。
間違いなく、ここから出られなくなった。
ゲーム終了の音が鳴るまで走り続けるのだろう。
なんか重くなりましたが…ギャグってこんなんじゃないような。
キャラ達が先走りして、それを打ってる状態ですね!?
色々軌道修正しながら頑張っていきます。
…なんか飼い犬に散歩させられてる飼い主な気分です。