彼の始まり
続読ありがとうございます。
やっとお話が動きます。
2.
「何だこの項目は」
頭を抱えずに何をしろと?
ー玩具ー
正確にはストレス発散用の女中。
彼女の給料は一般の女中達と一桁違う。
…与えすぎではないか?
歴史だけは長いクジェトリム家の存続に力を入れているお、ゴホン僕としては非常に頭が痛い。
だいたい、母姉の無駄遣いが家が傾く最大の理由なのだ。
夜会の度にドレス、宝飾品を買い、着飾る。
二度目に袖を通すこともないのに最高級品をほしがるのだ。
「…今日こそ」
「仕方ないわ、家は没落しかけてるもの」
何でこんな目にあっても仕事を続けているの、という質問に答える。
「頑張るしかないのよ、家族を愛しているから」
だから、辞めるわけにはいかないの。
「失礼いたします」
ドアの前に立ち止まり、中にいるであろう奥様に声をかける。
「?」
カツカツと足音がする。
おかしい、普通なら入室の許可が口頭ですぐに下りるのに。
今日はいつもと違う。
「どうぞ、お入りください」
飛び込んできたのは空に輝く銀。
柔らかな物腰は気品を漂わせる。
品定めする目、皆が私を見る目、けれどどこか違うその目で執事の姿をしていた男は油断なくこちらを見ていた。
しかし、私の仕事は奥様の夜食の給仕をすることであって、この男は全くもって関係ない。
「奥様、準備ができました」
自分が見ている中、完璧な所作で夜食の準備を終えた彼女は俺の姿が見えないかのように振る舞う。
予想外だった。
動きの一つ一つが洗練されている。
予想外だった筈の俺に気を散らすこともなく。
下働き(と言っても母や姉の世話をしている時点でただの下働きではない。扱いは下働きより酷いようだが)で終わらせるのには惜しい。
「奥様、私はこれで下がらせて頂きます」
これまた美しい礼をして扉へ歩いてくる。
「 」
「!?」
あぁ、おもしろい。
ここで終わらせるには惜しい奴だ。
『私は合格ですか、若旦那様?』




