彼女は玩具
プロローグを読んでまた来てくださった方、ありがとうございます。
より楽しく読んでいただけるよう頑張っていきますのでよろしくお願いします。
1.
純白が美しかった絨毯を見てため息をつかざるを得ない。
「これ、洗うのは別にいいんだけど…」
仕事だもの。
「拾い食いは、アウトよね…」
それを分かっててやってるのよ、あの方たちは。
女中に与えられる昼食時間は交代制。
今の時間は2時。
お腹も空く頃なのだが…。
「パンがないと思ったらこんなところに」
目の前には靴跡が残るパン。
おろおろと見ているのは偶然休憩が同じになった平民の女の子。
貴族様が支配するこの世界は爵位と金が全て。
それはこのお屋敷に入った時点で誰もが分かっている。
私も、勿論彼女も。
だから見ているだけなのだ。
怨むべくは名ばかりの爵位、愛すべき父の手腕の無さ。
「あの、お口に合わないでしょうけれど…」
平民の子が私に話しかけてくれる筈がない。
「って…え?」
「少しでも食べておかないと…出しゃばってごめんなさいっ!!」
今まで、話したこともないのに。
「どうして?」
彼女だってお腹も空いているだろうし、家計が苦しいから奉公に来ている筈。
半端モノって笑わない?それは、どうして?
『名ばかり貴族が来ましたわよ』
『見て、あのドレス。一昔前のものでなくて?』
『執事、女中も皆解雇したと聞いてますわ』
『あぁ、だからあんな手をしていますのね』
『貴族のくせに』
『あれじゃ私たちの方がましだわ』
『爵位があってもあんな風じゃあねぇ』
『『貴族と平民に属していても半端だわ。』』
「大丈夫ですか?」
まじまじと見つめられ、私も相手を見つめ返す。
茶金の癖毛が健康的な色をした顔にかかる。
明るい茶色が私を見返していて気がついた。
そうだ、この娘にはあの蔑んだような暗い色がない。
「大丈夫よ、ありがとう」
どうしても何も、彼女には普通のこと。
きっと聞いても困らせるだけなんだろうと思った。
「でも、何か食べなくちゃ…今日は私たち夜勤の筈でしょう?」
パンを半分に割り、少々強引に握らせた。
受け取らなければ彼女も食べない。
目が雄弁に物語っていた。
私にとってありがたい申し出でもあるし、素直にいただくとしよう。
「ありがとう」
「私はノアール=フェリトリアよ」
「知ってるわ、よく聞くもの…」
良い噂でないことは知っている。
人ははみだし者の私をこう呼ぶ。
「ストレス発散のための『玩具』でしょう?」




