苛立ち
「何か、御用でございますか?」
――無いだろう、そんなもの。と言うのが本音だが、ソレは伝わるだろうか。
「まぁ、ご気分でも悪いのですか?震えていらっしゃるわ」
伝わる筈がない、伝える気がないのだから。
まるで木枯らしに怯える様に、か弱い温室の花を演じて見せよう。
常日頃の様子はなりを潜めさせる。
身を飾るだけしか能の無い令嬢などこれでやり過ごしてしまえばいい。
立場が違うのだから。
罵りたいだけ罵り、見下すだけ見下し、優越感に浸らせてやればどこかへ行く。
「外の風に当たってこようと思っていますの。私のようなものには煌びやかな世界は場違いみたいで」
こんなところで油売ってるよりも、外に出てカードを集めた方が有意義なのに。
馬鹿な振りして情報を集めるのも結構骨が折れるものだ。
ひたすら、演技。
ちらりちらりと他のグループから視線が寄せられているのに気が付いているだろうか。
視線には様々な種類がある。
侮蔑の眼、好奇の眼、品定めするような眼、中には同情の眼もある。
まぁ、これだけでも十分な収穫か。
目は涙で潤ませ、胸の前で組まれた手は私は抵抗なんてできませんと雄弁に偽りを語る。
「それにしても身の程知らずではないこと?」
「ですわよねぇ……どうやって誑し込んだのかしら」
先程まで私の姿が貧相だとか、名ばかりの爵位だとかのお決まりの嫌味だったのだが、急に様子を変えた。
どうやら、出世頭の伯爵のエスコートで現れたことによるものらしい。
確かに、王子の教育係は未来の宰相となる可能性が高いし、若い代理伯爵が王の信頼をも勝ち取っている様はご令嬢からすれば、良い婿候補だろうし。憧れを抱く人もいるのではないか。
今日はこっちの方が本題かな、とげんなりする。
予想通りだからって嬉しくない。
「王子殿下の生誕パーティの招待状が当主代理の私にも届いているのです」
なので休暇を頂きたく思います。
それで許可が下りて終わりだと思っていた。
「その必要はない」
即答で却下され、
「俺と一緒に行けば問題ない」
爆弾投下。
令嬢たちに目の敵にされる面倒な状況が目に見えていた為に断ろうとも思ったのだが。
「これは決定事項だ」
一週間の休暇は何の為だと思うか?とまで言われると、嵌められた感が否めない。
「私達の話、聞いていましたこと?」
正直、聞いていない。
……帰りたい。
「彼女が、何か粗相でもいたしましたか」
完全に別行動だと思っていただけに突然現れた若旦那に、何をしに来たのだろうか、としか思うことができない。
まるで、壁にでもなるように令嬢と私の間に入る。
今まで見たことのないくらいの笑顔。
「あまり、良い雰囲気では無いようですが」
その仮面で隠す感情は苛立ち、何にそんなに苛立っているか知らないが。
令嬢達の表情は若旦那の背によって見えない。
先程から、囲まれているノアから目を離せない。
「失礼」
会話の途中ではあるが頭には苛立ちしかない。
何故、言い返さないかなんて頭では分かっているのだが。
つい、いつもと違うノアに苛立つ。
「俺には口答えしてばかりの癖に」