想定外インシデント
間が空きに空いてしまいました。
再び訪れてくださった、貴方に感謝です。
14.
「あぁ、そうだ。コレを渡してくれと言われていたんだ」
渡された封筒の一つを開けると今一番会いたくない男の名で括られていた。
しかし中身はと言うと。
「久しぶりの有給なんだろう?少しくらい話に付き合っておくれ」
普通ならあり得ない一週間の有給許可だった。
そして、それは今日が最終日だという。
全く何を考えているのかよく分からない人だ。
どちらにしてもクビにならずに済んだのだし、明日から仕事に励むだけだ。
…どうにも気まずい。
「昼食をお持ちしました」
いつも通りに振る舞う彼女はやはり優秀なようだ。
「そこに置いておいてくれ」
「畏まりました」
こちらに走らせる視線に沿って目線を上げ、聞く。
「他に何かあるのか」
「はい。若旦那もご出席なさると思いますが―――」
「どうして、こうなっちゃったのかしら……」
頭を掻き毟りたい衝動に駆られるが、そんなことをすれば今までの時間は無駄になる。
ただの休暇を貰うだけではなかったのではないか?
天敵の王子どころか腹の裡の読めないジストール=クジェトリム。
前門の虎、後門の狼とでもいうのか。
「まったく、いつも通りメリーアンと行きゃぁいいのよ!」
招待状を握りつぶし、千切って燃やせるのは夢の中だけであって、現実は皺ひとつない。
「くぅっ、屈辱だわっ」
「上手く化けたな」
そんなこと言って、彼女が心の裡で盛大に自分を罵っているのが想像できるし、実際にやってるだろう。
……おくびにも出さないが。
赤みのある髪にはフェリトリア家の色、夕陽色の花が飾られ、若葉色の細身のドレスと相まって一輪の花のようにも取れる。
周りのご令嬢に比べれば華やかさに欠けているという評価がくだるかも知らないが、彼女の目的には合っているだろう。
「褒め言葉として受け取っておきますわ」
所作もどこの令嬢にも劣らない。
「では、お手を」
戦争は始まっている。
パートナーに手を差し出し、彼女はその手を当然のように乗せた。
「…ぶしつけな視線ばかり」
貴族は私を蔑むのだ。
爵位に見合う財産も無い、名ばかりの貴族、と。
国民から絞りとって、私腹を肥やしているばかりの癖にと何度罵ったことか。
私の呟きは聞かなかったフリをしてもらえたらしい。
内容は違えど、内心は似たようなものだろう。
羨望、嫉妬、利益の計算。そんなところだ、貴族社会なんて。
「王子殿下、この度はご生誕おめでとうございます」
このような場所に来るのは久しぶりなことだ。
「あぁ、ノアールか。久しいな」
こんな場では、と付けられた言葉に顔が引き攣る。
この前無理やり連れてこられた時のことだろう。
「そんなに私に口説かれるのが嫌か?」
えぇ、嫌ですという本音を乗せて、
「そうやってお戯れを仰るのはおやめ下さい、殿下」
他の誰かに聞かれたらどうするおつもりですか。
私は目立ちたくは無いのですよ。
挨拶があんまりにも長ければ後が面倒だと、早々に引き揚げ、壁の花を決め込む……予定だったのだが。
「どうしてこうなっちゃうのかしら」
政治など分かりません、を決め込むので話に混ざれないのは良いのだが、ご令嬢に囲まれなきゃいけないのでしょう。
「想定内だけど想定外だわ」
想定内と想定外の出来事です。
ここで一波乱起こそうと思うのですが。