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悲しみからの決意

またまた更新に間があきました。

そんな白兎のシンデレラにお付き合い頂きありがとうございます。

これからもぜひよろしくお願いします。

 13.


 コツコツと規則正しい音が石畳に響く。

 今日は屋敷に帰る気にはならなかった。

 すぐに招集されても動けるように自室をもらったのだが最低限の荷物しか置いておらず、鞄の中身がなくたって暮らせる。

 かといって、借りているアパートに戻る気にもならなかった。

 「最悪な気分だわ」

 ぽつりと滴が落ちる。

 空を振り仰ぐと顔に落ちてきた。

 「まるで、アタシの為に降ってきたみたいね」

 一度は止まったはずの涙が溢れる。

 いつだってそう。

 大切なものを失くす時には雨。

 「母様、アタシ強くなれません」

 心無い言葉に耐えられる程強くなれない。

 人を切り捨てるほど冷酷になることもできないでいる。

 弱い、あまりにも脆い刃だ。

 涙で錆びてしまったのだろうか。


 「お兄様」

 「何だ、アン」

 何だも何もないではないか。

 「恐れながら…その態度はあんまりですわ。侍女達が怖がって世話につく者がおりません」

 明らかに不機嫌な態度が下に筒抜けなのだ。

 「お前はそんなことを伝えに一週間ぶりに来たのか」

 もともと厳しい人だがこれではあんまりだ。

 事情を知る私ならまだしも知らない者達にもこの態度では寄り付かないのも仕方がないというものだ。

 「…報告です、当主」



 「…全く、何やってるんだ」

 そこにいたのは自分を含め三人。

 遠目から見てもやつれた表情の女と車椅子に座る男。

 雨に濡れたのだろうか、女の髪と服は体に張り付いていた。

 報告通りなら一週間近くあそこにいることになる。

 


 「ノアール」

 気が付くと体を濡らす雨が遮られていた。

 「…」

 「ここにいたのか」

 久しぶりに見たその顔はさらに老けたように感じる。

 「母様に会いに、来たんです」

 町から外れ、荒れた墓地。

 それが現在地だ。

 「父様も母様に会いに来られたのですよね」

 凭れていた場所を開けて、父の後ろに回る。

 「あぁ…ただ、体が言うことを聞いてくれなくてね。最近は来れていなかった」

 そこにはくすんではいるが手入れされた墓石がある。

 荒れきった周りのものと比べるとそこだけ浮いているように見えた。

 周りのものより新しいことも理由かもしれないが。

 「報告は受けている」

 「…申し訳ありません、代理とはいえ主を危険に晒しました」

 

 しばらくの静寂のあと、

 「ミアはこんなこと望んでなかった」

 母、ミアリルは穏やかな気性で愛情深い人だった。

 そんな人が危険を伴うことを娘に望む筈もないことは分かっていた。

 それでも、

 「アタシは家族を、この家を愛しているのです」

 そして、母を死に至らしめた人物に屈するわけにはいかないのだ。

 「分かっている。私がこんな状態でなければ、お前にこんな苦労をさせやしなかった」

 私は母が死ぬ瞬間に全てを悟ってしまった。

 この国に立ち込める黒い霧に。

 大事なものをソレに奪われたことで、気付かされたのだ。

 「今尚、王家の守り手は狙われているのです。遅かれ早かれ、私も外界へ出たことでしょう」

 失ったものは戻らない。

 ならば、次は守り、そして根源を絶つまでだ。

 「さぁ、一度屋敷へ帰ろう。顔色が悪い」



 二人が出口へと、つまりこちら側へ来るのが見えた。

 なんとなく、顔を合わせる気にならなくて顔を背け、踵を返す。

 眼の端に人の良さそうな、しかし、俺の目が間違っていなければ面白がっているようだった。

 「全く、俺は何やってるんだろうな…」

 報告書を握りしめ、雨に打たれる。

 




ノア父登場です。

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