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大分間が空いてしまいました。ごめんなさい。

懲りずに足を運んでくださった方、本当にありがとうございます。

 12.


 金属と金属の触れあう音が甲高く響いた。

 喉下すれすれに刃はずらされていたためだ。


 「ようやくお出ましですか、メリアンティ嬢」


 僅かながら、眉が動く。

 世間話をするように穏やかに語りかけてはいるが、内側は身を焦がすような怒りで溢れている。


 「流石、虎の血を引く方。女性でも十分に通用されるのですね」


 相手に放つ言葉は自分自身にも傷を残した。


 背の高い私なら、彼女を押しつぶすことも可能な筈だが槍を引き、一歩下がった。

 「殺してやろうと思いましたけど、諦めましょう」

 槍を捨て一歩前へ進み出る。

 足はアンの前で止まることは無く、男の前まで歩く。

 「     」


 ぱんっ


 乾いた破裂音がこれでもかと響いた。

 「!」


 「殿下、先に御前から退出させていただきますわ」

 普通なら、許されるものではないが、誰も口を挟むことは無かった。

 「…許可する。ノアール、ご苦労だった」



 彼女が出て行った後の沈黙を破ったのは殿下だった。

 「ああなったら、最後だ。しばらく会うのは避けるしかない」

 「…しばらく会って無かったから、こんな別れ方はしたくなかったんだけど」

 二人の苦い表情は珍しかった。

 しかし、あまり気にならなかった…ちらつくのはここにいない彼女だ。

 いつも前しか見えていないかのように強い光を宿す彼女の瞳は揺れていた。

 思わず、目線を下にずらす。

 別に平手打ちに動揺したわけではない。

 むしろこれだけで済んだことに驚いているくらいだ。

 微かに色を変えた深紅に目が離せなかった。

 きっと、同じ理由からアンも動けないでいるに違いない。

 今まで星の数見てきたそれは、感慨も無く、一瞬にして流れて記憶から薄れていくものだと思っていた。

 今まで、目の前で涙を流すものを敗者だと思い、嘲笑ってきた。

 なのに、今感じるこれはとても苦い。

 立ちつくしたまま、動くことが出来なかった。



 「シューテ、何であんなこと言ったの」

 責めるような言葉に振り返る。

 「お前なら分かると思うが」

 ノアものノアでブラコンだが、ブランもブランでシスコンだ。

 「…姉さんは自分から言ったりしないよ」


 ノアは強い少女ではなかった。

 いつだって、泣いていた。


 『帰りたい』


 初めて涙を見たのは5歳の時。

 ノアは6歳。

 自分の傍に控える為に呼ばれた存在。

 俯きがちだったノアは与えられた部屋で泣いていた。


 『帰りたい』


 そんな彼女に二回だけ、実家に戻ることを許された。

 一度目は城に来て一カ月後。

 ノアは食事に手をつけなくなり、寝込むようになったから。

 二度目はノアの母親がブランを宿した時。

 それがノアと母親の今生の別れだった。

子供だったノアは母親との面会を嬉しそうに語っていた…母親が危険な状況にあるとも知らずに。

それからしばらくして、泣き虫だった彼女はいなくなった。

城からも、この世の中のどこにも。


 「甘やかすから、変われないんだ」


 あの表情を見るのは久しぶりだった。

 よく泣いて、時たま嬉しい時に笑い、単純素直だった彼女が表情を消すようになって久しい。


 そのノアが泣いた。


 何度も会うたびに怒らせようとからかって、泣かせてやろうと嫌味を言った。

 その度に笑って受け流していたあのノアが泣いたのだ。

 ジストールを突き飛ばしたのは間に合わなかったからだ。

 笑ってなどいなかった。

 身を呈して守る人間に笑う余裕なんてあるはずがない。

 あれ程、変えようとしたのに、顔色一つ変えなかったのに。

 彼女が何を見たのかは分からない。

 ただ、『おもしろくない』と思った。

 凍ってしまった彼女を変える何かを見つけた、そのことに。



実は王子と顔見知りだったりしました。

何故、ノアがここに来たくなかったのかは残念ですが盛り込めませんでした。

原因はこの王子様ですが。


今回も足を運んでくださったあなたに感謝です。

少しでも面白いと思って頂けるよう頑張りますので次回もよろしくお願いします。

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