表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

才能の正体

 結果発表の翌日。


 レッスンルーム。


 静かな空間に、音楽だけが流れていた。


 鏡の前。


 神崎レイナは一人、踊っていた。


 正確に。


 繊細に。


 感情を乗せて。


 ――止まる。


「……違う」


 小さく呟く。


 もう一度。


 再生。


 踊る。


 止まる。


「……これも違う」


 完璧なはずの動き。


 でも。


 何かが足りない。


 レイナは鏡を見る。


 そこに映る自分。


「再現できない……」


 思い出しているのは――


 昨日のステージ。


 あの“一瞬”。


 ミライと噛み合った瞬間。


 空気が変わった、あの感覚。


「理屈はわかる」


 一拍。


「でも再現できない」


 それは致命的だった。


 表現とは再現性。


 技術とは安定性。


 でも――


「……あれは違う」


 レイナは静かに言った。


「現象だ」



 その時。


「おはよー!」


 元気な声。


 振り向く。


 星宮ミライが入ってきた。


「レイナ早いね」


「……普通」


「え、私が遅い?」


「そう」


「えぇ」


 ミライは笑いながらストレッチを始める。


 いつも通り。


 変わらない。


 まるで昨日のことが何もなかったみたいに。


 レイナはじっと見る。


「ミライ」


「うん?」


「一つ聞く」


「いいよ」


「昨日のあの瞬間」


 一拍。


「どうやったの?」


「え?」


「中盤のシンクロ」


「……あー」


 ミライは少し考えて。


「なんか、来たから合わせた」


「……」


 沈黙。


「それだけ?」


「うん」


「……」


 レイナは額に手を当てた。


「やっぱり説明不能」


「ごめん」


「謝らなくていい」


 一拍。


「確信しただけ」


「え?」


 レイナはまっすぐ言う。


「あなたの才能は“技術”じゃない」


「うん?」


「“再現できない何か”」


「……?」


「もっと正確に言うと」


 一拍。



「あなたは“人の感情を動かすトリガー”」



「トリガー?」


「きっかけ」


 レイナは続ける。


「私がやっているのは“操作”」


「うん」


「感情を設計して、誘導する」


「すごいね」


「でもあなたは違う」


 一歩近づく。


「あなたがそこにいるだけで」


「うん?」


「感情が動く」


 ミライはきょとんとする。


「……そうかな?」


「そう」


 即答。


「しかも」


 一拍。


「無自覚」


「……」


「だから制御できない」


「うん?」


「だから再現できない」


「うん?」


「だから――」


 レイナは言い切る。



「対策ができない」



 その言葉に。


 空気が少しだけ重くなった。


「……すごいの?」


 ミライが聞く。


 レイナは少しだけ考えて。


「最悪」


「えぇ!?」


「敵に回したくないタイプ」


「ひどい!」


 でも。


 レイナはほんの少しだけ笑った。


「でも同時に」


 一拍。



「一番、壊れやすい」



「え?」


「条件があるから」


「条件?」


「“楽しい”こと」


 ミライが止まる。


「……」


「あなた」


 一拍。


「楽しめなくなったら終わる」


 その言葉は。


 静かだったけど。


 確実に重かった。



 一方その頃。


 別のレッスンルーム。


 鏡の前。


 一ノ瀬アリスが立っていた。


 無音。


 その空間で、ただ立っている。


 桐生ユナが言う。


「珍しいね、止まってるの」


「……考えてる」


「なにを?」


 一拍。


「星宮ミライ」


 ユナが笑う。


「気に入った?」


「違う」


 即答。


「分析してる」


 アリスは鏡を見る。


「技術はある」


「うん」


「でもそれ以上に」


 一拍。


「ノイズ」


「ノイズ?」


「予測できない」


「へぇ」


「だから評価がブレる」


 ユナは腕を組む。


「でも負けたよ?」


「うん」


 あっさり認める。


「だから対策する」


 その目は完全に冷静だった。


「どうやって?」


 一拍。


 アリスは言う。



「“楽しませない”」



「……は?」


「条件を潰す」


 淡々とした声。


「感情で動くなら」


「うん」


「感情を封じる」


「それできるの?」


「やる」


 言い切る。


「ステージを“戦場”に変える」


 一拍。


「楽しむ余裕なんて与えない」


 ユナが少しだけ笑う。


「えぐ」


「勝つため」


 アリスは鏡の自分を見る。


 その目は、完全に研ぎ澄まされていた。



 夜。


 寮の部屋。


 ミライはベッドに寝転がっていた。


「……楽しい、かぁ」


 レイナの言葉を思い出す。


「楽しくなくなったら終わり……」


 天井を見る。


 少しだけ。


 ほんの少しだけ。


 胸がざわつく。


 でも。


 すぐに笑った。


「ま、いっか」


 そう言って目を閉じる。



 この時。


 まだ誰も知らない。



 星宮ミライの才能が。



“最強”でありながら、同時に“最も脆い”ことを。



 そして。



 一ノ瀬アリスが。



その弱点を、正確に突きに来ていることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ