一位の意味
ステージが終わったあとも。
ざわめきは消えなかった。
「さっきの何?」
「意味わかんないのに、すごかった」
「え、でも完成度はさ……」
「アリスの方が上じゃない?」
「でも目が――」
言葉がまとまらない。
それが全てだった。
⸻
私は椅子に座っていた。
「……ふぅ」
水を一口飲む。
「楽しかったなぁ」
それが一番の感想。
隣で。
レイナが黙っていた。
「レイナ?」
「……一つ聞く」
「うん?」
「あなた」
一拍。
「さっき、合わせた?」
「え?」
「中盤のあの瞬間」
「あー」
私は少し考えて。
「なんとなく?」
「……なんとなく」
「うん」
レイナは目を閉じた。
そして小さく息を吐く。
「やっぱり理解できない」
「えぇ」
「でも」
一拍。
「だからいい」
私は笑った。
「よくわかんないけどありがとう」
⸻
会場。
全員が集められる。
前に審査員が並ぶ。
空気が張り詰める。
「これより結果発表を行う」
静寂。
誰も動かない。
「今回の審査は“ペア評価”」
一拍。
「技術・構成・表現、総合的に判断した」
誰かが息を飲む。
「まずは――」
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第三位
⸻
名前が呼ばれる。
歓声と悔しさが混ざる。
でも。
誰も本命はまだだとわかっている。
⸻
第二位
⸻
一瞬の静寂。
「一ノ瀬アリス、桐生ユナ」
⸻
ざわめきが爆発する。
「えっ!?」
「嘘でしょ!?」
「なんで!?」
ユナが目を見開く。
「マジ?」
アリスは――
動かなかった。
ただ。
ほんのわずかに。
眉が動いた。
「……理由を」
静かな声。
審査員を見る。
鋭く。
「なぜ二位なのか」
会場が静まり返る。
一人の審査員が口を開いた。
「完成度は間違いなく一位だった」
「……」
「だが」
一拍。
「視線が奪われた」
アリスの目が細くなる。
「観客の意識が、もう一方に引っ張られた」
「……」
「それが決定打だ」
沈黙。
数秒。
アリスはゆっくり息を吐いた。
「……理解した」
でも。
その声は少しだけ低かった。
⸻
そして。
「第一位」
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スクリーンが光る。
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星宮ミライ × 神崎レイナ
⸻
歓声。
どよめき。
混乱。
全部が一気に押し寄せる。
「またあの子!?」
「なんで!?」
「意味わかんない!」
私はぽかんとしていた。
「……え?」
「一位?」
レイナが小さく言う。
「当然」
「え、そう?」
「ええ」
一拍。
「悔しいけど」
少しだけ笑う。
「納得はしてる」
⸻
その時。
視線。
振り向く。
一ノ瀬アリス。
真っ直ぐこちらを見る。
今までと違う目。
冷たいだけじゃない。
その奥に。
はっきりとした“感情”。
アリスが歩いてくる。
一歩ずつ。
静かに。
「星宮ミライ」
「うん?」
「一つ聞く」
一拍。
「自分が上だと思う?」
私は少し考えて。
「うーん」
そして。
「思わない」
即答だった。
周りがざわつく。
アリスの目が揺れる。
「……理由は」
「だって」
私は普通に言う。
「アリスの方がすごいし」
沈黙。
数秒。
空気が止まる。
でも。
私は続ける。
「でもね」
一拍。
「楽しかった」
「……」
「それだけ」
アリスはじっと私を見る。
まるで理解しようとするみたいに。
でも。
理解できない。
そして。
小さく笑った。
「……気に入らない」
一歩近づく。
「でも」
一拍。
「面白い」
はっきりと言い切る。
「次は勝つ」
「うん」
「絶対に」
「うん」
私は笑った。
「楽しみにしてる」
⸻
アリスは背を向ける。
その表情は誰にも見えない。
でも。
その手はわずかに握られていた。
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審査員席。
「あの子は何なんだ」
「技術じゃない」
「理論でもない」
「だが惹きつける」
一人が呟く。
「“一位の意味”が変わるぞ」
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この日。
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“勝つ”という定義が。
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静かに壊れ始めた。
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そして。
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星宮ミライという存在が。
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アイドルの基準そのものを書き換え始めた。




