感情のかたち
結果発表のあと。
会場の空気は、どこか歪んでいた。
「なんで一位あの子?」
「アリスでしょ普通」
「意味わかんない」
小さなざわめきが、ずっと続いている。
その中心にいるのは――たぶん私だ。
「……居づらいなぁ」
思わず呟いた。
その時。
「気にする必要はない」
静かな声。
振り向く。
黒髪の少女が立っていた。
長いストレート。
涼しげな目。
感情をあまり表に出さない顔。
「え?」
「評価は結果」
一拍。
「周囲の反応は本質じゃない」
「……そっか」
不思議と、すっと入ってくる言葉だった。
「ありがとう」
「別に」
少女は淡々と続ける。
「あなたのパフォーマンス」
「うん」
「理解はできない」
「え」
「でも」
一拍。
「目が離せなかった」
私は少しだけ照れた。
「そ、そう?」
「うん」
短く頷く。
「私は神崎レイナ」
「星宮ミライ」
「知ってる。一位」
「……うん」
やっぱり言いづらい。
その時。
空気が変わった。
ざわ、と。
視線が一斉に動く。
一ノ瀬アリス。
その隣には、ショートカットの少女。
軽い足取り。
でも目は鋭い。
「桐生ユナ……」
誰かが呟く。
アリスは真っ直ぐこちらを見る。
冷たい目。
でもその奥に、はっきりとした感情。
「へぇ」
小さく笑う。
「もう仲良し?」
「え?」
「随分余裕だね」
私は慌てて首を振る。
「ち、違うよ!」
でもアリスは興味なさそうに視線を外す。
「まあいい」
一歩だけ近づいて。
「どうせ結果は同じ」
言い切る。
迷いなく。
ユナが楽しそうに笑った。
「アリス、それ言いすぎ〜」
「事実でしょ」
冷たい一言。
私はその背中を見て思った。
「……やっぱりすごいな」
本気でそう思う。
完成されてる。
全部が。
その時。
レイナが小さく言う。
「あなた、悔しくないの?」
「え?」
「あの態度」
一拍。
「完全に見下されてる」
「……うーん」
私は少し考えて。
「でも事実だし」
「……は?」
「アリスの方がすごかったし」
レイナが一瞬黙る。
「……あなた」
「うん?」
「本気で言ってる?」
「うん」
即答だった。
レイナはじっと私を見る。
まるで何かを測るみたいに。
「……なるほど」
小さく呟く。
「それがあなたの“普通”」
「?」
よくわからない。
⸻
その日の最後。
審査員が前に出る。
「次の審査内容を発表する」
全員が静かになる。
一拍。
「次は――」
⸻
「ペアパフォーマンス」
⸻
ざわめきが広がる。
「ペアは既に決定している」
スクリーンが光る。
名前が映し出されていく。
私は目で追う。
そして――
止まった。
⸻
星宮ミライ × 神崎レイナ
⸻
「……え」
思わず声が出る。
隣を見る。
レイナもこちらを見ていた。
「よろしく」
静かな声。
「う、うん!よろしく!」
少し緊張する。
でも。
なんだか安心感もあった。
その時。
別の場所でざわめきが起きる。
⸻
一ノ瀬アリス × 桐生ユナ
⸻
「最強じゃん……」
「終わったな」
「勝てるわけない」
そんな声が聞こえる。
私は二人を見る。
アリスは余裕の表情。
ユナは楽しそうに笑っている。
「すごいなぁ……」
本気でそう思った。
その時。
レイナが言う。
「一つ聞く」
「うん?」
「勝つ気はある?」
一拍。
「この審査」
まっすぐな目。
感情は薄いのに、奥が熱い。
私は少し驚いて。
でも。
すぐに笑った。
「あるよ」
だって。
楽しそうだから。
レイナは一瞬だけ目を細めた。
「……そう」
「うん」
「なら」
一拍。
「合わせる必要はないかもしれない」
「え?」
「あなたは“あなたのまま”でいい」
私はきょとんとした。
「いいの?」
「たぶんその方が強い」
小さく言う。
その言葉は、まるで確信みたいだった。
⸻
遠くで。
アリスがこちらを見ていた。
静かに。
冷たく。
そして。
わずかに、楽しそうに。
「面白い」
小さく呟く。
⸻
この時。
まだ誰も知らない。
このペアが――
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感情を操る者と、感情を溢れさせる者。
⸻
交わらないはずの二人が。
ステージで。
⸻
“奇跡的に噛み合う”瞬間が来ることを。
面白かったらぜひ評価⭐︎5お願いします、、、!




