評価不能
オーディション当日。
会場を見た瞬間、私は立ち止まった。
「……多い」
人、人、人。
どこを見ても人。
同じように緊張した顔。
自信満々の顔。
スマホで練習してる人。
鏡を見てる人。
その数――
20万人。
「帰りたい……」
思わず呟いた。
その時。
「今さら?」
横から声。
振り向く。
金色の髪の女の子。
真っ直ぐな目。
迷いのない立ち方。
「ここまで来てそれ?」
「……ちょっとだけ」
「ダサ」
「ひどい」
私は少しムッとした。
その子は興味なさそうに言う。
「私は一ノ瀬アリス」
「星宮ミライ」
「覚えない」
「え」
「どうせ消えるから」
「……」
ちょっとイラっとした。
でも。
不思議と怖くはなかった。
ただ。
「すごいな」
と思った。
空気が違う。
明らかに。
「じゃ」
アリスはそう言って歩いていく。
「ステージで会おうよ」
振り向きもせずに。
言い切った。
⸻
最初の審査は。
自由パフォーマンス。
歌でもいい。
ダンスでもいい。
何でもいい。
ただし。
“魅せろ”。
順番が来る。
私はステージに立った。
ライト。
審査員。
視線。
少しだけ緊張する。
でも。
嫌じゃない。
むしろ――
ワクワクする。
「始めます」
音楽が流れる。
その瞬間。
全部が消えた。
人も。
緊張も。
何もかも。
ただ。
音だけがある。
体が動く。
自然に。
考えない。
合わせる。
音に。
リズムに。
感情に。
楽しい。
ただそれだけ。
ステップ。
ターン。
ジャンプ。
表情。
笑っている。
勝手に。
止められないくらい。
楽しい。
曲が終わる。
静寂。
私は少し息を整えた。
「ありがとうございました」
顔を上げる。
審査員を見る。
――誰も喋らない。
「……あれ?」
やばい。
失敗した?
その時。
一人が呟いた。
「……基準が合わない」
別の審査員。
「点数……どうする?」
「つけられないだろ、これ」
「だが落とす理由もない」
私は完全に置いていかれていた。
「えっと……?」
奥に座っていた男が言う。
「名前は」
「星宮ミライです」
「そうか」
一拍。
「以上」
「えっ!?」
短すぎる。
私はよくわからないまま降りた。
⸻
控室。
ざわついている。
「なんだったの今の」
「意味わかんない」
「でも目離せなかった」
「評価どうすんのあれ」
私は椅子に座った。
「……やっぱ失敗?」
その時。
空気が変わる。
「アリスだ」
顔を上げる。
一ノ瀬アリス。
ステージに立つ。
やっぱりすごい。
何もしてないのに。
もう違う。
音楽が流れる。
動く。
完璧だった。
ズレない。
迷わない。
全部が正しい。
全部が“魅せるため”。
私は思った。
「これが……アイドル」
終わる。
拍手。
歓声。
審査員も明らかに納得している。
私は確信した。
「これが一位」
⸻
数時間後。
結果発表。
巨大スクリーン。
名前が並ぶ。
「通過者を発表する」
緊張が走る。
名前が流れていく。
私は目で追う。
あった。
⸻
星宮ミライ――通過
⸻
「……よかった」
小さく息を吐く。
でも。
次の瞬間。
「順位を発表する」
「え?」
順位?
スクリーンが切り替わる。
「第一位」
光る。
表示される。
⸻
1位
星宮ミライ
⸻
「……え?」
思考が止まる。
周りがざわつく。
「誰?」
「見てない」
「なんで?」
私は固まる。
「……間違い?」
下を見る。
⸻
2位
一ノ瀬アリス
⸻
「……え」
ありえない。
絶対に。
その時。
視線。
顔を上げる。
アリスがこっちを見ていた。
真っ直ぐに。
冷たい目で。
そして。
歩いてくる。
「おめでとう」
「……ありがとう」
一拍。
「でも」
空気が変わる。
「納得してる?」
「してない」
即答だった。
アリスの目が細くなる。
「どっちが上か」
一歩近づく。
「わかってるよね?」
「うん」
「なら」
「アリスの方がすごい」
静止。
数秒。
空気が止まる。
「……は?」
「だって完璧だったし」
「……」
アリスは私を見つめる。
じっと。
そして。
小さく笑った。
「……気に入らない」
一拍。
「そのズレ」
目が鋭くなる。
「次で潰す」
「え?」
「証明する」
はっきり言い切る。
「私の方が上だって」
私は少し考えて。
「うん」
頷いた。
「楽しみにしてる」
「……」
アリスは一瞬だけ止まって。
そして背を向けた。
「逃げないでね」
⸻
審査員席。
あの男が呟く。
「評価不能」
一拍。
「だから一位だ」
⸻
この時。
誰もまだ理解していない。
星宮ミライという存在が――
⸻
“点数という概念の外にいる”ことを。
ご評価いただけると幸いです〜!




