再生数「0」
私の動画の再生数は――
0だった。
スマホの画面を更新する。
くるくると読み込みマークが回る。
そして表示される数字。
再生数:0
「……もう一回」
更新。
0
「もう一回……」
更新。
0
私はスマホを持ったまま、ベッドに倒れ込んだ。
「……だよね」
天井を見上げる。
見慣れた白い天井。
その横の壁には、アイドルのポスターが貼られている。
笑顔。
ライト。
ステージ。
全部、キラキラしている。
「やっぱり夢って……難しいなぁ」
スマホを見る。
動画タイトル。
『【歌ってみた】はじめてのアイドルソング』
昨日撮った動画。
部屋で。
一人で。
歌って、踊って。
何度も撮り直して。
やっと投稿した。
楽しかった。
すごく楽しかった。
ただ、それだけでやった。
でも。
「再生数0かぁ……」
私は少し笑った。
ちょっとだけ、期待してたのかもしれない。
その時。
ドアが開いた。
「ミライまた動画撮ってたの?」
妹が顔を出す。
「どう?」
「……」
「え、どうしたの?」
私はスマホを見せた。
「0じゃん」
「知ってる!」
私は枕に顔を埋める。
「言わなくていいから!」
「ごめんごめん」
妹は笑う。
そして。
少しだけ真面目な顔になった。
「でもさ」
「うん?」
「なんで伸びないの?」
「え」
「だって普通に」
一拍。
「上手すぎない?」
「……え?」
私は首を傾げた。
「そんなことないよ」
「いやあるよ」
妹は即答する。
「歌もダンスも普通じゃないし」
「いや普通だよ」
「顔もいいし」
「それ妹補正」
「違うって」
私はカメラを開いた。
映る自分。
長い黒髪。
少し大きめの瞳。
白い肌。
……うん。
「普通だよ」
私は言った。
妹は呆れたようにため息をつく。
「それ本気?」
「うん」
私はポスターを見る。
あの人たちは特別だ。
私とは違う。
そう思っている。
その時。
ピコン。
スマホが震えた。
「……ん?」
通知。
コメントが一件。
私は固まった。
初めてだった。
少し震える指で開く。
⸻
『歌は上手い』
⸻
「え」
妹が覗き込む。
「おお」
⸻
『ダンスも上手い』
⸻
「……え?」
⸻
『ビジュアルもいい』
⸻
私は言葉を失う。
でも。
次の一文。
⸻
『でも、それじゃ評価できない』
⸻
「……え?」
意味がわからない。
さらに続く。
⸻
『基準が当てはまらない』
『点数がつけられない』
⸻
心臓が少しだけ強く鳴る。
⸻
『上手いとか下手とかの枠にいない』
『完成しているわけでもない』
『未完成とも言えない』
⸻
私は画面を見つめた。
⸻
『ただ一つ言えるのは』
⸻
一行空いて。
⸻
『目が離せない』
⸻
息が止まる。
⸻
『人を惹きつける』
『それは技術じゃない』
『才能だ』
⸻
私は動けなかった。
妹も黙っている。
最後の一文。
⸻
『もし本気なら』
『このオーディションを受けてみなよ』
⸻
リンクが貼られている。
私はタップした。
ページが開く。
⸻
IDOL RISE PROJECT
⸻
応募者。
20万人
合格者。
30人
その先。
⸻
RISE ACADEMY
⸻
私は画面を見つめる。
応募ボタン。
指が止まる。
怖い。
でも。
少しだけ。
ワクワクしている。
テレビを見る。
アイドルが笑っている。
楽しそうに。
その瞬間。
胸がぎゅっとなった。
私は小さく言った。
「……一回だけ」
妹が言う。
「え?」
「挑戦してみる」
そして。
私はボタンを押した。
妹が叫ぶ。
「えええ!?」
私は少し笑った。
震えながら。
でも。
ちゃんと言った。
⸻
「私、トップアイドルになります」
⸻
この時の私はまだ知らない。
自分がどれだけ規格外なのか。
そして。
その才能が――
⸻
「評価できない才能」だということを。
⸻
再生数0の少女は。
まだ知らない。
自分が――
⸻
“点数の外側にいる存在”だということを。
面白かったら評価をいただけると幸いです。




