第六話 治療
目を覚ますと、伊月は見知らぬ屋敷の布団に横たわっていた。庭の小池が夕日に照らされて、水面が茜色に輝いている。
(・・・綺麗・・)
それに、ここはなんて静かなのだろう。普段、大勢の人々が集まる宮中の喧噪の中で閉塞感を感じていた伊月には、この静けさが堪らなく心地よかった。
もうどのくらい眠っていたのだろうか。伊月はまどろみながらゆっくりと上体を起こす。
「目が覚めましたか?」
真秀が水柱を手にあらわれる。伊月は驚いて我に返り、布団を強く握りしめた。
「ここは宮中の外にある私の邸宅です。手負いにもかかわらず先ほどは無理をさせてしまい申し訳ありませんでした」
真秀はそう言って伊月の傍に腰を下ろすと深々と頭を下げた。
「そんな!責めを受けるべきは私なのに」
予想外の出来事に、伊月は面喰ってしまう。
「気分はどうですか」
「いいと思います。・・・ウッ・・!」
真秀が差し出した水柱を受け取ろうとすると。腕の火傷がずきりと痛んだ。袖の隙間から、そこに新たに布が巻かれているのが分かる。
「眠っている間に、貴女の怪我の状態を診ました。この前は治りかけていたのに、また新しく火傷や鞭打ちの跡ができていた。それも重症の。薬を塗ったのですが、まだ痛むでしょう?」
怪我を、、、診た?ということは、全てみられたということ?この汚い身体を!
伊月は急に恥ずかしくなり赤くなった顔を両手で覆い隠す。その様子にようやく察した真秀は慌てて説明する。
「大丈夫!特に重傷だった腕しか目視はしていません。あとは以前も服用した妖力補強の薬を飲めば回復するはずです」
「ありがとうございます。・・・でもどうして・・・どうして怪我のことが分かったのですか?今回の毒のことも」
伊月は感謝と共に疑問に思っていたことをぶつけてみる。
「怪我については、ある程度経験を積んだ陰陽師であれば妖の妖力から健康状態を目視することができるというのと・・・」
真秀は一度言葉を切ってまた続ける。
「角折の儀の説明をする少し前から式神をあなたの近くに配置していました」
「ピューウ!!」
真秀が口笛を鳴らすといつか見た鷹が庭の松の木に舞い降りてきた。
「式神の玄影です。姿を消して様子を伺わせていました。一度遭遇してしまったようですが。女御からあなたへの暴力も、贈り物に毒を忍ばせる計画も玄影からききました」
陰陽師はこんなことまでできるのかと伊月は舌を巻く。
「一度目の報告を受けた時点で帝にあなたを高明殿から外すように進言しました。しかし、政が忙しく、許可が出るまでに時間がかかってしまった。本当に申し訳ないことをしました。もっと早く気づいていれば」
高明殿の時とはまるで違う穏やかな表情。なぜ、真秀がそんなに私のことを気遣うのだろう?半年後に角を折ることへの負い目を感じているのだろうか?きっとそうに違いない。ただ、それを直接言わせるのは無粋な気がして伊月はきくことができなかった。
「一先ず、今は休んで怪我を治してください。恐らく食事もまともに摂っていないでしょう?」
伊月はこくりと頷くともう一つ疑問に思っていたことを投げかけてみる。
「あの、私はこれからどうなるのでしょうか」
あんな騒動があった以上、もう高明殿では働けない。それは伊月にとって願ってもいないことだったが、伊月が働かなくては弟たちを食べさせることができないし、帝との約束も果たせない。角折の儀までただの役立たずになってしまうのだ。
「それについてですが」
真秀は少し間を開けて言葉を続ける。
「私のいる陰陽寮で働きませんか?」
陰陽寮???伊月は唖然とする。史上最悪の悪鬼と言われた殺気童子の娘である私が、妖の天敵である陰陽師の本部で働く??
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