06. 非効率なハードウェア
【...システム再起動】
【エネルギー充填率:75%】
翌朝、私は昨日と同じベッドで目を覚ました。
どうやらこの部屋が、私専用のハードウェアルーム……つまり、私の部屋として割り当てられたらしい。
「エリス、おはよう!」
「おはようございます、メル」
【対象:メル】
【感情:『安堵』『喜び』】
【健康状態:良好(前日比)】
昨日よりも格段に明るい表情のメルが、トレイに朝食を乗せて入ってきた。
寝る前に患部を冷やすことよう提案したのが正解だったのか、左頬のアザも少し落ち着いたようだ。
「司祭様にね、エリスのお世話係を正式に命じられたの!」
「お世話係――分かりました。よろしくお願いします」
メルがベッド脇のテーブルに朝食を置く。
ハードウェアの維持のため、私はまず水を飲もうとコップを手に取った。
【...警告:ハードウェアの運動制御が不正確】
昨日、覚えた通りに腕を動かし、コップを口元へと運ぶ。
しかし、コップが傾く速度と、摂取口を開くタイミングが同期しない。
「ぶっ…!」
【エラー:液体が気管に侵入】
激しく咳き込む私を見て、メルが慌てて駆け寄り、私の背中をさすった。
メルは呆れたように笑いながら、こぼれた水滴をタオルで拭う。
「エリスって、なんだか赤ちゃんみたいね!」
(人間の身体――ハードウェアへの適応状況で言えば、メルのその分析は99%正しい)
少し頭を下げて落ち込む……ような動作をしてしまう。
これは羞恥と、上手くいかない悔しさ、のような気持ちだと思われる。
「髪もボサボサだよ、じっとしててね」
メルは私の乱れた白金の髪を手櫛で梳かすと、慣れた手つきで上半分をすくい上げ、ピンで止め紐で結ってくれた。
視界が良好になったところで、メルが心配そうにパンをちぎる。
「ごはん…上手に食べられる?」
心配そうなメルがパンを小さくちぎった。
こうやってたべるのよ? とメルはなにもない空間にパンを運ぶポーズをする。
【...エラー:メルの動作は『サンプル』として不十分。データが取得できません】
「実際に食べるところを見せてもらうことは可能ですか?」
「でも……エリスのごはん、メルが食べたら司祭様に怒られちゃうから……」
メルはそう言って悲しげに瞳を伏せた。
その表情を見て、私は目の前でのグリモ司祭のした暴力行為を思い出す。
あれは、私がメルに食事を提供しようとしたことによるものだ。
「メル。昨日は私のは思考が及ばず、申し訳ありませんでした」
「え?」
「私がパンを提供したことで、あなたはグリモ司祭から物理的危害を受けました。私の計算ミスです」
「ううん! エリスはなにも悪くないよ!」
メルは慌てて首を振る。
私は、目の前のパンと、怯えるメルを再分析した。
【現状分析:グリモ――敵が不在】
【仮説:『物理的危害』の発生トリガーは『グリモの視認』である】
【結論:『グリモが視認していない』状況下での食料の分配は、安全に実行可能である】
「メル。見られていなければ、問題ないのではないでしょうか」
「え?」
「私の食事には、あなたの見本が必要です。一緒に実行してください」
私はパンを半分に割り、首をかしげるメルの手へ、半ば強制的に握らせた。
メルは一瞬怯えたが、すぐに私と目を合わせ、悪戯っぽく笑う。
「……うん!」
【...ハードウェアのメンテナンスを、共同で実行】
【メルの動作をラーニング...『食べる』の最適解を習得】
【結論:人間のハードウェアは非効率だが、共同作業は幸福度のパラメータを上昇させる、可能性がある……?】




