04. スキャン対象:氷の騎士
「聖女とやらは、どこだ」
部屋に響いたのは、鎧の集団を率いる青年の、なんの感情も読ませない冷徹な声だった。
警戒すべき対象であるはずなのに、私はなぜか、凛とした佇まいの彼から視線を外せなくなっていた。
騎士の声色の冷たさに怯えたメルが、私の腕にぴったりと抱き着く。
呆けていたグリモ司祭はハッとしたあと、脂汗を浮かべた顔で慌ててベッドの前に進み出て、私を手のひらで示して見せた。
「こ、こちらが聖女様です! 雷を……神の啓示をその身に受けた、生きる神の化身です!!」
騎士の青年は、グリモ司祭には一瞥もくれず、真っ直ぐに私を見据える。
その灰色の瞳は、まるで私のシステムをスキャンするかのように、冷たい分析の光を宿していた。
【...警告:騎士の視線により、スキャンされている感覚を感知】
「まるで人形だな」
私を冷たく見据える騎士を、私はなにを発言するでもなく見据えていた。
そして、グリモ司祭はそれを見て固まってしまっている。
「……団長ォ、少し圧が強すぎますよ」
冷たい沈黙に耐えかねたように、騎士団長の隣に立つ、無骨な印象の男性が頭をかきながら苦笑した。
【新規リソースをスキャン】
【視認:人間、男性。年齢推定:30代】
【容姿特徴:オレンジ色の短髪、緑色の瞳、高身長、騎士の鎧姿】
【感情:『平静』『好意』】
【印象:柔和】
「初めまして、聖女様。私は副団長のジャックと申します。こちらは騎士団長のヴィンセントです。グリモ司祭からの報告の手紙を受け、領主の命で急ぎ調査に参りました」
「あ、あなたが氷の騎士と噂の、ヴィンセント騎士団長でしたか!」
【新規キーワードを検出:氷の騎士】
【データベースを検索...該当なし】
書庫にはなかった情報だ。
領内の人々の間で噂になっている、ということらしい。
しかし、氷の騎士と呼ばれたときのヴィンセント騎士団長は少し眉を上げた。
恐らく、不名誉――もしくは望んでいない呼び名なのだろう。
グリモ司祭は彼の変化に気付かなかったようで、そのまま話を続けている。
「氷の騎士様が認めてくだされば、きっと領主様もすぐに認めてくださるでしょう! 彼女こそが聖女! ルーメン教の奇跡! これで我が教会も……!」
「黙れ」
グリモの甲高く響く声を、ヴィンセント騎士団長の低い声が遮った。
そのまま私を見定めるように、無言で上から下へと視線を流す。
彼の後ろに立つ騎士たちが、こそこそと小馬鹿にしたように鼻を鳴らし、小さくせせら笑いながら漏らした。
「聖女、か。そんな伝承に縋るようになるなんて……ルーメン教の求心力も、随分と落ちたもんだな」
「どうせまた、雨乞いだの病気治癒だの、不確かな祈りで民を騙すつもりだろう」
このオルトリア王国では国教といえど、ルーメン教の威光は遠い昔。
聖女という根拠のない奇跡など、騎士団にとって笑い種でしかないようだった。
グリモ司祭は慌ててその騎士の方へ向き合う。
「ほ、本当なのです! 聖女様は本物で……!」
「グリモ司祭。貴様の意見は聞いていない。我々は事実を調査する」
ヴィンセント騎士団長の冷たい視線に、グリモ司祭は、ヒッと喉を引きつらせる。
副団長のジャックが、困ったよう笑い、間に入った。
「司祭殿、まずは聖女様がここにいる経緯と、この教会と孤児院の状況を拝見したいのですが」
「は、はい! もちろんですとも!」




