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37. 権利の最適解


 眩しい昼間の日差しを感じながら、目覚めたばかりの身体で外に出る。

 中庭ではジャック副団長の指揮のもと、ついにダリオが持ち込んだ青銅ポンプの設置が開始された。


「わあ……!」

「あれが、ポンプ……?」


 設置作業の様子を、孤児院の子供たちが、安全な場所から固唾を飲んで見守っている。

 ダリオ親方と、工房の若い見習いたちが、騎士団と協力し、慎重にその装置を井戸枠へと接続していく。


「――よぉし! 設置完了だ!」


 ダリオの声に、ジャック副団長が興奮した様子で頷いた。

 兵士の一人が、ポンプのレバーを掴み、ゆっくりと上下に動かし始める。

 キュ、ポン……キュ、ポン……。

 空打ちの音が何度か続いた後、やがて、注ぎ口から、水が流れ出してきた。


「「わあああ!」」


 子供たちが歓声を上げる。

 ――が、流れ出てきた水は、茶色く濁っていた。


「あれ……?」

「……汚いね?」

「失敗したのかな……?」


「はっはっは! 心配いらねえよ、ガキども!」


 ダリオが、不安そうな子供たちに向かって快活に言った。

 ガキどもと呼びながらも、優しくその小さな頭をガシガシと撫で回し、笑い飛ばす。


「今は掘ったばかりで、これが出てるが、こうやって試し汲みを続けて、井戸の中を洗浄すりゃあ、すぐに飲める水になる!」


【分析:掘削孔の底に残存していた『泥砂』が、揚水と共に排出されている。正常なプロセスです】


 ダリオの専門家として自信に満ちた言葉は、子供たちの不安を即座に解消したようだ。

 彼らの表情が困惑から安堵へと戻っていくのを、私は確認した。



「……あの、聖女様」


 声をかけてきたのは、ダリオの後ろにいた、あの若い見習いだった。

 彼は私が振り向くと、慌てて深く頭を下げてきた。


「こ、この間は、俺が余計なこと言ったせいで、司祭様を怒らせて……本当に、すみませんでした!」


「俺も、なにも手が出せなくて、すまなかったな」


 見習いを下がらせたダリオも、バツが悪そうに自分の後頭部をガリガリと掻いた。

 彼もまた、あの場で私と司祭の板挟みになり、なにも出来なかったことを悔いているようだった。


「いえ。あれは司祭断罪のきっかけになったので、結果としてはとても合理的でした」


 ダリオは、私の返答に一瞬、面食らったように苦笑いした。

 その後、少し言うべきか迷うように視線を泳がせ、なにかを思い出すように言葉を続けた。


「ヴィンセント坊ちゃんとは、まあ、古い付き合いでなあ。あの鉄仮面は見慣れていたが……昨日の、あんな顔の坊ちゃんは、初めて見たぜ」


「!」


【――警告:『ヴィンセント』『怒り』のキーワードにより、破損したログ『抱擁』『気絶』が強制的に再生されました】

【...エラー:『羞恥』『いたたまれない』のパラメータが、急激に上昇】


 私が人知れず、またフリーズしていると、ダリオが懐から一枚の紙を取り出した。


「ああ、そうだ。それで、昨日あの後坊ちゃんから、これを渡しといてくれってんで、託されましてね」


「これは……」


【新規データ:『オルトリア王国技術特許申請書類・ハドリアン領、アウロリア孤児院名義』】


(……!)


 それは、まさしく以前ヴィンセント騎士団長が提案した、孤児院に揚水ポンプの権利を帰属させるための申請書類だった。

 彼は、あの最後の一手とともに、この申請書類を準備していたのだ。


「……ありがとうございます。これに署名します」


 私は、少し震える手で、その書類に込められたであろう、彼の優しさを受け取った。



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