33. 結論:業務上横領罪
「――そこまでだ、グリモ司祭」
【...エラー:『フリーズ』『恐怖』を強制解除】
【...ヴィンセントの出現を確認】
私の目の前に立っていたのは、見慣れた濃紺の髪――ヴィンセント騎士団長だった。
彼は、受け止めていたその腕を、握り潰すかのように掴んだまま、冷徹な灰色の瞳で睨み据える。
「……ぐ、ああああっ!」
彼はそのまま、グリモ司祭の手をひねり上げ、抵抗する間も与えず地面に伏せさせた。
「ジャック!」
「はっ!」
地面に転がされていたメルを介抱していたジャック副団長が、兵士たちと共に即座にグリモ司祭を抑え込む。
ヴィンセント騎士団長は、埃を払うように手を振ると、私に向き直った。 彼が懐から取り出したのは、一枚の立派な羊皮紙だった。
「遅くなった」
「……!」
「お前が要求した、最後の一手だ」
「……ありがとうございます。これで、全てが揃いました」
【新規データを受理:『領主署名入り罪人召喚状』】
私は、メルが持ってきた本物の帳簿と領主の入金記録、そして今、ヴィンセント騎士団長から受け取った領主からの罪人召喚状を手に、拘束されたグリモ司祭の前に立った。
「な、なんだ、その紙は……! 離せ! 私は聖女様の発見者だぞ!」
「グリモ司祭。本物の帳簿に基づき、あなたの罪状を読み上げます」
「ざ、罪状だと……!?」
「第一、孤児院への補助金を着服。第二、支出の偽装。内訳、高級食材、酒、ギャンブル。第三、個人の負債……借金の隠蔽――」
私が淡々と事実を読み上げると、グリモ司祭が顔色を変えて反論した。
「なっ……! でたらめだ! 罠だ!」
「いいえ。領主様の公式な入金記録と、あなたの本物の帳簿の支出は、99%一致しています」
そして私は、彼に最後の一手を突き付けた。
「これは、領主様からの罪状横領に関する召喚状です」
「な、なぜ、領主様が……!? 私の報告は、完璧だったはず……!」
【...グリモ:全証拠の提示により、完全に沈黙】
私は、結論を分析し、司祭への断罪を実行した。
「――結論、業務上横領罪。禁固三年相当です」
「聖女様の罪状通りだ。……連れて行け」
ヴィンセント騎士団長の低い命令で、脂汗を流して震えるグリモ司祭は、兵士たちに引きずられていく。
【……脅威――グリモ排除:完了】
……終わった。
【...システム:全リソースを『安堵』に占拠されています】
【...フリーズ:放心】
「……見事だった、エリス――」
ヴィンセント騎士団長の声で、私は我に返った。
私の共犯者が、初めて見る、穏やかな微笑みの表情で、私を見ていた。
しかし続く言葉が途切れたまま、彼の表情は、目を見開き驚いて、固まる。
なにに驚いているのか不思議に思い、彼の分析を始めようとした時。
――ぽたり、と。
私の視界の端から、水滴が落ちた。
【――警告:ハードウェア――顔面に、原因不明の『液体』の流出を検出】
戸惑いながら、私は自分の頬に、そっと手を触れた。
指先が、濡れている。
私はどうやら、意図しないまま、静かに涙を流していた。




