31. 断罪宣言
「――なにも聞いていないぞ!!!!!」
中庭の歓喜を凍り付かせるような、グリモ司祭の怒号が響き渡った。
私とジャック副団長、ダリオが、声のした井戸口の方向へと急ぐ。
そこには、荷台から青銅のポンプを運び入れようとしていた工房の若い見習いたちが、鬼の形相のグリモ司祭に怒鳴りつけられ、萎縮している姿があった。
メルが私に駆け寄り、不安そうに震えながら足に抱きついてくる。
「これはこれは、司祭様。うちの若い衆が、なにか失礼でも?」
ダリオが帽子を取りつつ、グリモ司祭と工房の見習いたちの間に入る。
しかし、グリモ司祭の怒りは収まらない。
「なにを勝手に運び入れている!! 私は井戸を掘ることは許可したが、ポンプだなんて、こんな贅沢なものは承認していない!!」
「あちゃー…」
ジャック副団長が小さく嘆く。
【分析:グリモへの『隠蔽』は、失敗したようです】
私の姿を認識したグリモ司祭が、今度は私に詰め寄ってきた。
「聖女様! 井戸を掘るのではなかったのですか! どうしてポンプなどという、貴族様の屋敷にしかない高級品を、孤児院なんかに!!」
(……高級品? 確かに、ヴィンセント騎士団長は、貴族が使っているものとは仕組みが違うと分析していました。この世界のポンプは高級品で、まだ一般的ではない……?)
【分析:この世界の『ポンプ』は、希少であると推定】
私がポンプの価値を再計算していると、工房の若い見習いの一人が、緊張した面持ちで、しかし、誇らしげに口を挟んだ。
「お、お言葉ですが、司祭様! これは、ただのポンプじゃありません!」
「なに?」
「貴族の屋敷にあるポンプは、鉄と木で重厚に作られた、何度も力ずくで押してようやく水を汲める代物です! ですが、これは違う!」
【――警告:ミッションの『セキュリティ』が、協力者によって『侵害』されています】
「これは小さな力、例えば子供でも、軽く容易に水が引き上げられる、画期的な改良品です! まったく新しい発想で聖女様が作られた、まだ誰も使ったことがない、この国の文化を変えるような発明品です!」
「馬鹿野郎! 余計なことを!」
ダリオが若手を慌てて叱咤するが、もう遅い。
「――ほう?」
グリモ司祭の表情から、『怒り――高級品への嫉妬』が消えた。
代わりに、彼の顔には、金銭的利益を嗅ぎつけた、あの『欲望』に満ちた、卑しい笑みが浮かんでいた。
【――警告:グリモが、揚水ポンプの『資産価値』『利用価値』を『認識』しました】
「なるほど。聖女様の発明品……ですか」
にやりとしたグリモ司祭が、ジャック副団長とダリオ親方に向き直る。
「これは教会に置かれるもの……ならば、その発明品の権利も、教会――この私が持っていいですな?」
「なっ…!」
「井戸掘削を許可したのは私、グリモです! この教会内の土地は、私の管理下にあるのですから、そこで生まれた利益は、当然、管理者である私のものでしょう!」
「そ、それは聖女様が発明したもので…!」
「そうだ! 孤児院の子供たちのためのもんだろう!」
ジャック副団長と兵士たち、そしてダリオら工房の若手たちも抵抗するが、グリモ司祭は断固として譲らない。
「聖女様も、もうじき教会の――ルーメン教のものになるお方! その方の発明品も、当然、教会のものになるに決まっている!」
【分析:グリモが『権利』の『強奪』を試みています】
遠くで子供たちが、不安そうな顔でこちらを見ている。
メルも、私の服を強く握りしめ、縋るように状況を伺っているようだ。
(ヴィンセント騎士団長は不在。……ジャック副団長とダリオでは、グリモ司祭の非論理的な『権利主張』を覆すことは出来ないでしょう)
――もう、今、始めるしかない。
私は、一歩前に踏み出した。
「グリモ司祭。それは、無理です」
「……なんですと? 聖女様」
「――あなたを、この教会から、排除します」
私は、目の前の排除対象を、冷徹にスキャンし、ついに、断罪を開始した。




