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25. 離脱宣言と痛み

 

【...エラー:『幸福度』のパラメータが、急激に低下しています】

【...エラー:『幸福度』のパラメータが、急激に低下しています】


 街の広場から教会までの帰り道。

 ヴィンセント騎士団長と私の間には、沈黙が流れていた。


【分析:現在の状況を再計算】

【結論:『食事拒否』の選択が、現在の『気まずい』を生成(せいせい)したと断定(だんてい)


 この沈黙を(やぶ)ったのは、意外にも、ヴィンセント騎士団長だった。

 彼は、この場の空気をリセットするように、あえてだろう業務的(ぎょうむてき)声色(こわいろ)で切り出した。


「エリス。例のポンプだが」


「! はい」


「司祭には秘密裏(ひみつり)で進める」


合理的(ごうりてき)です。ですが、騎士団の方たちには」


「ジャックには先に伝えてあるから、対応は問題ない。作業にあたる兵士にも追って伝える」


【...ミッション――ポンプ開発:承認(しょうにん)

【セキュリティ――秘密(ひみつ)保持(ほじ)も確保】


 ポンプの設置(せっち)が済めば、井戸の件は完了だ。

 しかし、そこでまた問題が発生する。


【...ミッション――孤児院の幸福の進捗(しんちょく)を再計算】

【分析:『井戸』が完了した場合、騎士団来訪(らいほう)の大きな理由は消滅(しょうめつ)する】

【仮説:ヴィンセントが撤退(てったい)した場合、グリモの『虐待(ぎゃくたい)』が再発(さいはつ)する可能性は(きわ)めて高い】


(……グリモ司祭の機嫌に、子供たちの安全性が左右される状況は、最適解ではありません)


【結論:子供たちの安全を恒久的(こうきゅうてき)に確保するには、グリモの『排除(はいじょ)』が必須】

【最適解:『井戸の完成』と『グリモの断罪(だんざい)』を、同時に実行する】


 私は、隣を歩くヴィンセント騎士団長を見上げた。


「ヴィンセント騎士団長。グリモ司祭排除(はいじょ)の最終フェーズ……断罪(だんざい)移行(いこう)します。最後の一手(いって)を要求しても、よろしいでしょうか」


 私は、帳簿(ちょうぼ)と入金記録に加えて、グリモ司祭を確実に断罪(だんざい)するために必要な、最後の一手(いって)を彼に説明し、要求した。


「……」


 私の要求内容を聞いたヴィンセント騎士団長は、静かに息を()んだあと、すぐに頷く。


「……確かに、それが最後の一手(いって)だ」


「可能でしょうか?」


「なんとかしよう」


【...要求の承認(しょうにん)を確認しました】


「ただし」


 ヴィンセント騎士団長が、言葉を続ける。


「それを準備するには少し、時間がかかる。数日は、ここに来れないだろう」


【――警告:ヴィンセントが、一時的に『離脱(りだつ)』を宣言】

【分析:胸部(きょうぶ)に『痛み』のパラメータが、再び上昇】


 なぜだろう。

 彼の不在は、司祭断罪(だんざい)遂行(すいこう)に必要なプロセスのはず。

 パラメータが悪化(あっか)する理由が、私には分からない。


「……エリス?」


 私がバグの解析(かいせき)でフリーズしていると、ヴィンセント騎士団長が少し心配そうに私の顔を(のぞ)き込む。


「いえ。了解しました。お願いします」


「ああ」



 教会に戻ると、()いた足踏(あしぶ)みをするアンが門の前に立っていた。

 慌てた様子のアンに呼び寄せられて小走りに門の中へと踏み入れると、奥から、グリモ司祭の怒声(どせい)が響いている。


「だから! なぜ聖女様を勝手に外へ連れ出したのだと聞いている!」


「まァまァ、司祭殿。あっほら! エリス様が無事に戻られましたよ!」


 メルを守るように立ち、グリモ司祭を宥めていたジャック副団長が、やっと解放されるといった苦笑いでこちらを振り向く。

 私とヴィンセント騎士団長の姿を認識(にんしき)したグリモ司祭が、慌てて笑顔の仮面を貼り付け()け寄ってきた。


「聖女様! お戻りですか!」


「はい。どうかしましたか」


 先に()け寄ってきたメルを軽く抱きとめ、疲れた顔のジャック副団長と、怒りの残るグリモ司祭の顔を見比べる。

 他の兵士たちもやれやれといった疲れた様子で、少し離れてこちらを見ていた。


「聖女様! 何度も言いますが、正式な聖女認定が下りるまでは、外出をお控えください!!」


 何度も――確かに、以前にも同様の警告を受けたログはあるが……。

 水汲(みずく)みの際は、何も言われなかったため、あの禁止事項は破棄(はき)されたと判断していた。


【分析:あれは、グリモ司祭が私の外出に『気が付かなかった』だけである可能性が(きわ)めて高い】


 グリモ司祭は、私を(とが)めるだけでは()()らず、あろうことか、ヴィンセント騎士団長に()みついた。


「ヴィンセント騎士団長! 貴方も、勝手に聖女様を連れ出すとは、何事ですかな!」


【分析:グリモの『不快(ふかい)』パラメータが上昇中】

【推測:このままでは、支障(ししょう)――アンやメルへの暴力が起こる可能性が(きわ)めて高い】


「申し訳ありません」


 ここで反論(はんろん)非合理的(ひごうりてき)だと判断し、私はこの場を沈静化(ちんせいか)するため、頭を下げた。


「私のミスです。もう許可なく外出はしません」


「おお! さすが聖女様、話が分かる!」


 私の従順(じゅうじゅん)な対応に満足したグリモ司祭に(うなが)され、私は自分の部屋に戻ることになった。


【...グリモの鎮圧(ちんあつ):完了】


 戻る直前、そっとヴィンセント騎士団長の方を振り返る。

 ヴィンセント騎士団長は、まだそこに立ち、なにかを伝えるような視線で、じっと私を見つめていた。


(あの視線は……、ポンプの話を、グリモ司祭にするな、というサインでしょうか)


【分析:ヴィンセントの視線を解析中...】

【エラー:データベースにない感情を検出】

【結論:エラー。彼の視線の意図(いと)は、不明です】


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