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閑話. 聖女様はお絵描きが得意?

 

 私は、中庭のなにも()えられていないレンガで区切られただけの殺風景(さっぷうけい)花壇(かだん)の段差に小さく(こし)()け、兵士たちの掘削(くっさく)作業を確認していた。


「聖女……いえ、エリス様」


 不意に、隣から柔和(にゅうわ)な声がかかった。

 ジャック副団長が、兵士用の水筒(すいとう)を持ってやってきて、よいしょと声を出しながら私の横に(こし)()ける。


「ジャック副団長。どうかしましたか?」


「ちょっと休憩(きゅうけい)です。……先ほどの、見ましたよォ。前の設計図(せっけいず)でも思いましたが、エリス様は絵がお上手ですよね」


 先ほど……とは、ポンプの設計図(せっけいず)のことだろうか。

 地面に描いていたものを、ヴィンセント騎士団長に言われて紙にも出力したところ、彼がジャック副団長と共有(きょうゆう)し話し合っている姿を見た。


「絵が上手かどうかは不明ですが、図形(ずけい)図面(ずめん)を正確に出力(しゅつりょく)するのは得意です」


「ははァ。では、(ため)しにちょうちょでも描いてみてくださいよ」


「了解しました」


 私は落ちていた(えだ)を手に取り、地面に向き直る。

 それでは、と顔を上げてジャック副団長に視線を戻した。


対象(たいしょう)のデータを要求(ようきゅう)します。なんという種類の(ちょう)ですか?」


「え? いや、種類なんてなんでも……」


「正確なデータがなければ、正確な出力(しゅつりょく)は不可能です。羽の模様(もよう)触角(しょっかく)の角度、なにを(おこな)っているところですか?」


「ええー……いや、適当に、花に止まるちょうちょとかさァ……」


「なんの花にとまるのですか? 季節は?」


「……」


【スキャン:ジャック】

【感情:『困惑』『諦観(ていかん)』】


 ジャック副団長は半眼(はんがん)――いわゆるジト目で私を見ている。

 どうやら私の問いに対して、面倒だと感じているらしい。


「エリスー! またお絵描きしてるのー?」


 そこに、メルが()けてきた。

 なにを描いてるの? と、まだなにもない地面を(のぞ)き込む。


「ジャック副団長の絵の注文に対し、聞き取りをしていました」


「俺はその絵の注文を(あきら)めましたァ」


 ――(あきら)められていたらしい。

 ジャック副団長はすでに興味を失ったようで、持っていた水筒(すいとう)を開けて飲み始めた。


「えー! じゃあメルのこと描いてよ! ね、エリス!」


「もちろんです」


【...新規(しんき)ミッション、絵のオーダーを受理(じゅり)

【対象:メル】

【スキャンを開始...完了】


 私は再び(えだ)を手に取り、地面にメルの姿を出力(しゅつりょく)していく。

 土を(けず)るカリカリという音を辺りに小さく響かせる。


「またこいつは……なにをしてるんだ?」


「お、団長。エリス様が、メルちゃんを描いてるんですよ」


 いつの間にか、ヴィンセント騎士団長が私たちの(そば)に来ていた。

 メルは「可愛く描いてね!」と、両手を(あご)の辺りに持ってきたり、腰に手を当てたりと、次々に謎のポーズを取っている。


 ジャック副団長が私がメルを描くことになった経緯(けいい)――絵の注文を(あきら)めた、私との会話についてを、愚痴(ぐち)かのようにヴィンセント騎士団長に話している間に、私は全ての出力(しゅつりょく)を完了した。



「出来ました」



 わくわくしているメル。興味津々のジャック副団長。 無表情のヴィンセント騎士団長。

 三人がそれぞれ地面を(のぞ)き込む。

 そこに(えが)かれていたのは――。


出力(しゅつりょく)結果:メル(年齢推定(すいてい)10歳)】

特徴(とくちょう)()ねた二つ結び、丸い瞳、、身長125cm(推定(すいてい))、頬部(きょうぶ)治癒(ちゆ)痕、衣服損傷(そんしょう)(3箇所)】

照合(しょうごう)精度(せいど):99.9%】



「「「……」」」



 私の足元には、メルの特徴(とくちょう)を完璧にスキャンし、ミリ単位で正確に描写(びょうしゃ)した、非常にリアルなメルの顔があった。


「こ、これは……まるで……」


 ジャック副団長が、必死に笑いをこらえている。

 ヴィンセント騎士団長は、地面に描いたその絵から顔を上げると、いつもの鉄仮面のまま、ボソリと呟いた。


「……手配書だな」


「ヤダーーーッ!! もっと可愛く描いてよおぉぉぉ!!!!」


 私の肩を(つか)み揺さぶるメルの絶叫(ぜっきょう)は、井戸掘削(くっさく)の音にかき消されていった。



明日からまた、20時に毎日1話ずつ更新します。

よろしくお願いします。

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