21. 神託の続き
掘削作業が休憩に入り、昼食を終えた孤児院の子供たちが井戸の様子を見に集まってきた。
あまり穴に近づきすぎないように、と子供たちにアンが小声で注意して回っている。
メルは私の服を掴みながら、深い穴を覗き込み、不安そうな声を上げる。
「わあ……井戸って、すごい深いね」
「落ちちゃったらどうしよう……」
覗き込む様子を見ていたが、メルに続いて孤児院の子供たちが次々に不安を口にする。
「こんなに深いところに桶を入れるのかな……?」
「大きい子しか、お水汲めないかも……」
「きっと重たいよね……?」
【...新規の懸念事項を検出】
確かに、井戸で水の確保は達成していたが、安全性と子供が使用する際の負荷を考慮していなかった。
(……私の、計算ミスです)
【最適解を再計算...】
【要求:安全性――転落リスクゼロ。効率性――子供でも可能】
【検索結果:手押しポンプの導入を推奨。必要部品リストと設計図を即時開示します】
私は、掘削現場から少し離れた場所にしゃがみ込むと、中庭の地面に木の枝で設計図を書き始めた。
「おえかきしてるの?」
「なんだろー」
「私も!」
いつの間にか私の周りでは、孤児院の子供たちのお絵描き大会が始まっていた。
掘削が始まって水汲みの労働がなくなり、子供たちは目に見えて明るく、元気になっているようだ。
工事で騎士団の人たちがいる間は、グリモ司祭が表立った暴力や暴言を振りかざしてこないという安心感もあるのかもしれない。
孤児院の幸福度は、順調に上昇しているように感じた。
「……今度はなにをしている? 貴様は絵を描くのが好きなのか?」
いつの間にか教会から戻ってきていたヴィンセント騎士団長が、私を見下ろしていた。
どうやら子供が苦手なようで、少し離れた場所から子供たちを避けるようにして立っている。
「いいえ。揚水ポンプの図面です」
「……ポンプ?」
「はい。子供の力でも、水を効率的に地上へ送るシステムです」
好奇心からか、傍まで歩み寄ってきたヴィンセント騎士団長は、私が地面に描いた設計図をかがんで食い入るように見ている。
口元に手を当てて考え込みながらポンプの図面を読み解いているようだ。
「このバルブの構造は……貴族が使っているものとは仕組みが違うが……馬鹿な。水圧だけで逆流を防ぐだと?」
「はい」
「待て。この場合、素材は…鉛か? いや、耐久性が…」
「鉛は水質汚染のリスクがあります。最適解は青銅と推定。コストは上がりますが、耐久年数は400%向上します」
「……そうか、青銅か」
【スキャン:ヴィンセント】
【感情:『興奮』『該当感情なし』】
ヴィンセント騎士団長は、私の書いた地面の設計図から顔を上げ、私の顔を真っ直ぐに見た。
その顔は確かにいつもの氷の騎士然とした冷たさがあったが、私には実に楽しそうに見えて、思わず何度か瞬きをした。
「ジャック」
「え! は、はい!」
「すぐに工房を手配しろ。――聖女様の神託の続きだ」
*
今回短いのと、次が閑話となりますので、
もう1話分を21時に更新します。




