13. 非効率に対する最適解の提案
私とメルが粗末な客間に到着した時、騎士団はすでに席についていた。
約束の時間よりずっと早く着いていたようで、兵士たちは暇そうな面持ちだ。
「おお、聖女様! お待ちしておりました!」
グリモ司祭だけが、聖女の奇跡がここから始まるとばかりに、期待に満ちた眼差しを向けてくる。
「おはようございます、聖女様、メルちゃん」
ジャック副団長が恭しく一礼するが、その顔は柔らかい。
メルも警戒なく彼にぺこりと頭を下げており、もはや顔なじみといった認識のようだ。
ヴィンセント騎士団長はといえば、いつも通り氷の騎士然とした鉄仮面で私を一瞥しただけだった。
「司祭殿、聖女様。それではさっそく井戸掘削の件ですが――」
私とメルがソファに腰掛けると同時に、ジャック副団長が切り出した。
そして後ろに控える兵士たち5名を手で示す。
「こちら、我が騎士団で掘削経験のある兵士を連れてきました」
どうもと、屈強な兵士たちが軽く頭を下げる。
【対象:兵士をスキャン】
【身体能力:標準以上。健康状態:かなり良好】
【感情:『好奇心』40%、『懐疑』60%】
「掘削に割ける騎士団の人員は、常時5名。交代要員を含め10名です」
「騎士団の兵士が掘削作業を行うのですか?」
「ええ、我が領は小さいですからね。こういった公共事業は騎士団が先導して行うのですよ。追加の人員は業者を雇うことになるので、予算についてですが……」
言いにくそうに言葉を濁したままジャック副団長の視線が、そろりとグリモ司祭へと移った。
グリモ司祭はその視線を受けて、わざとらしく咳払いをする。
「私は聖女の奇跡の場として、この教会の中庭の掘削を許可しました。これ以上の貢献……つまり資金提供はなしということで!」
【――ミスマッチ】
【グリモの主張:『許可』=『貢献』】
【客観データ:自己利益――聖女認定のための行動であり、貢献度はゼロ】
ヴィンセント騎士団長が、せせら笑うグリモ司祭を冷たく一瞥した後に書類をテーブルへと置いた。
その書類の要項を指でたたき示しながら低い声で言う。
「騎士団の兵のみで行うのなら公共事業予算から出せる。教会は補助金もある、問題ない」
【制約:予算・低、人員・常時5名】
【最適解を再計算...】
【代替案A:人員増強、B:機材投入はコストオーバー。破棄します】
「それでは、具体的な掘削作業の予定や日程について――」
ジャック副団長が、そう言ってテーブルに広げたのは、兵士が作成した掘削スケジュールだった。
グリモ司祭が資金を出さないことは想定内だったのだろう。
派遣予定の兵士5名で回す現実的な工期が記載されている。
【新規データをスキャン】
【掘削工法:手掘り――スコップおよびツルハシ】
【一日あたりの掘削深度:推定0.5m】
【要求深度8mまでの到達日数:推定16日】
【悪天候・地盤の硬さを考慮:+10日】
【総工期:推定26日】
「……」
【...警告:あまりに非効率】
【分析:この工法では、日数がかかりすぎる】
【最重要懸念事項:作業期間――26日間、その間子供たちの水汲みは継続される】
「ジャック副団長」
私は、スケジュールの説明を続けているジャック副団長の言葉を遮った。
「はい、なんでしょう」
「そのプランは棄却します。要求水準を満たしていません」
「えっ……!? えっと……棄却? しかし、これしか……」
【分析:彼らは既存データ以外の最適解を想定していない】
ジャック副団長も、後ろに控えている兵士たちも、あからさまに困惑している。
私は、この場で最も話が早いであろう男――ヴィンセント騎士団長に顔を向けた。
「現状のリソース――予算低、人員5名を考慮し、新たな最適解を提案します。設計図と手順を提示可能です」
しん、と粗末な客間が静まり返る。
ソファーに深く腰掛けたまま私を見据えていたヴィンセント騎士団長は、その灰色の瞳をわずかに細めた。
彼は組んでいた腕を解くと、姿勢を正すようにソファーへ座りなおした。
そして、私ではなく、まだ状況を理解できていないグリモ司祭に向き直り、声をかける。
「司祭」
「は、はい!?」
「……紙とペンを持ってこい」
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明日からはまた、20時に毎日1話ずつ更新します。
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