12. 教育要請
「メル。微笑むという動作の教育を要求します」
5日後、詳しい作業内容を会議するために、また改めて騎士団が教会を訪れる日。
私はメルに対し、ここ数日の間に分析を行っていた懸案事項を提出した。
先日のヴィンセント騎士団長の失礼な発言が、どうにも私のシステム内にノイズとして残存している。
【分析:『俺よりも酷い』『微笑むくらいはすべき』】
【結論:ヴィンセントは失礼】
【仮説:しかし、笑顔を見せることは、今後の交渉において有利に働くと仮定】
「あのね、エリス。今はそれよりも、身体の拭き方を覚えて欲しいの」
【...要求を棄却されました】
グリモ司祭に言って分けてもらった教会用の井戸の水を沸かし、濡らした温かなタオルで、メルに私のハードウェア――身体を拭かれているところだった。
人間の朝の準備は、あまりに複雑だ。
今朝も私は、顔面の洗浄というタスクに挑戦した。
【プロセス1:水を両手で掬う】
【プロセス2:顔面に塗布】
【プロセス3:摩擦により洗浄――】
私の理解は完璧だったはずだ。
しかし、水が指の隙間から漏出し、目標としていた顔面には届かず、上半身にまとった衣服の90%を飽和――私をびしょ濡れにさせた。
そのエラー状態の私を、メルが発見し、今こうして強制メンテナンス――お世話を受けている。
「ただ湯で流すだけよりも、石鹸を使用した洗浄を提案します。衛生状態の改善は……」
「せっけん? そんな貴族様が使うもの、ここにあるわけないでしょ」
「石鹸の制作は、油脂と灰があれば可能です。使用できるのは――」
「もー! はやく準備しなきゃ騎士様たち来ちゃうよ!」
【...提案を棄却されました】
私の身体を拭き終わったメルは、戸棚から私の洋服を取り出し着替えを手伝いながら慌てている。
「はい、後ろ向いて!」
メルは私の長い髪を丁寧に梳かすと、両サイドの髪をすくって後ろで纏め、今日も綺麗なハーフアップに整えてくれた。
ボタン――非効率的な固定具との格闘に、想定の5倍の時間を要し、私たちが客間に到着したのは、約束の時刻を3分過ぎてからのことだった。
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今回短いので、本日もう1話、13話を21時に更新します。
よろしくお願いします。




