第6話 兄たちの荷物検査
食事を終えてサイゾウとアリアが部屋に向かうと、ハヤトも後をついてきた。
「ハヤト兄さんも来てくれるの」
「危険物を勝手に地球に持ち込まれては困るからな」
ハヤトはまだ多少不機嫌なままだ。
「ちょっと準備があるから待ってて」
アリアが一度部屋に入り、数分後――。
「…………」
二人は目を疑った。
地球で有名なヒーローのTシャツを着て、頭には、赤いリボンのついた麦わら帽子をかぶっていた。
「……数時間前まで聖女だった人間の格好とは、とても思えないな。」
ハヤトは半分笑いながら諦めの顔をした。
「アリアその恰好は何だ」
いつも優しい兄とは思えないほど、サイゾウも怒っていた。
「ルキーの麦わら帽子はそんなジャストサイズじゃない!
もっと大きくて、目の粗い作りなんだ。そもそもシャンタスのお下がりだから今にも脱げそうで、あご紐が絶対必要なんだ!」
「それにリボンの赤はもっと深い色で――!」
サイゾウの怒りは完全に“こだわり”からだった。
「わかってるわよ!
でも、ここまで再現するのにどれだけ時間がかかったと思ってるの!?
私、今日まで寝る時間もないくらい忙しかったんだから!」
聖女としての務めの後、夜遅く不器用に帽子を編む妹の姿が、
サイゾウの脳裏に一瞬浮かんだ。
笑えるはずなのに――胸の奥は何故だか切なかった。
「……わかった。俺が作り直してやるよ」
太めのオタク体型には似合わない台詞をはいて、サイゾウは帽子を受け取った。
――二人が部屋に入ると中はきれいに整っており、教会から持ち帰った荷物が隅にがまとめて置いてある。
「どう、思った以上に片づいてるでしょ」
「確かにな、でも5年間まともに使ってないんだから当たり前だろ」
アリアの部屋は5年間時間が止まっていたように、棚には幼い頃に遊んだ玩具や本など思い出の品が並んでいる。
「地球に持ってゆく荷物はこれだけか?」
ハヤトは木箱の蓋を開けて中の荷物を確認してゆく。
「向こうで許可なく魔法を使うことはご法度だからな、魔法関係の道具や本は全部置いていけ」
「そうね、地球の大気には魔素がないから、マナドロップがなくちゃどうせ使えないしね」
ハヤトとサイゾウはあきれた顔をして、アリアを睨んだ。
「嘘つけ、お前が体の中で魔素を生成できることをぐらい、俺たちは知っている」
「だから.......お前が安易に魔法を使って、魔法の存在がばれてしまうことが、一番心配なんだ。」
「下手したら、向こうの世界と戦争になりかねないからな」
「それだけは、絶対に気を付けてくれ」
ハヤトとサイゾウは、声をそろえて言った。
アリアは普段から疑問に思っていた。
「でも、どうしてお父様と私だけ魔素の生成が出来るのかしら」
「いや、勇者様もできると聞いている」
「だからきっと地球からの転性が原因じゃないかと父上は考えてる」
「俺達にはない臓器を地球人は持っていて、それは、魔族や魔物が魔素を生成する臓器と似ているらしい」
父の研究を手伝っているサイゾウが、まだ推測の話だと前置きして伝えた。
--------「お兄様にお願いがあるの」
「いや、無理だ」
アリアがしおらしくする時は、大抵ろくなことがない。
知り尽くしているハヤトは反射的に断った。
荷物を床に広げて吟味してる兄たち。
その前に立ったアリアの後から、
はみ出た異様な物体が申し訳なさそうにこちらを見ている。
「おい!こいつもつれて行くつもりか?」
「パン君は私の相棒だから――当たり前でしょう!」
アリアの後ろに隠れていたパンダのぬいぐるみが一歩進み出て、兄たちに向かいお辞儀をした。
「魔法のない世界で、こいつは大丈夫なのか?」
「パン君は精霊族だから魔素がなくても平気なの」
「向こうの世界にも精霊族はいるから、一緒に行っても問題ないはずよ」
彼女は父からもらったぬいぐるみの中に、魔物たちに襲われた精霊を保護していた。
--------「ぬいぐるみに入って動き回っている精霊はいないけどな」
「最初からこれが狙いだったんだろ!」
「荷物の相談なんて殊勝なことを言い出して変だとは思ってたんだ」
「お前はその気になれば、自分で移動魔法陣を作れるからな」
「そんな、私は魔法陣を作って勝手に荷物を持ち込んだりはしません」
「だから、こうしてお兄様たちにお願いしているの」
アリアとパン君は並んで座り、床に両手をついて頭を下げた。
「だめだ!だめだ!!」
「こいつを連れてゆくのは、どんな魔法道具を持ってゆくよりも危ない」
「戦争になりかねないから、気を付けてくれと言ったばかりだろう」
頭を下げたままのアリアにハヤトが捲し立てる。
「家の中を毎日ウロチョロしているこいつがいなくなったら、直ぐにばれるからな」
「後でばれて大問題になるより、先手を打って来ただけだろう」
アリアは少し頭を上げてサイゾウにだけわかるように、「テヘッ」と笑って見せた。
「だめだこいつ、俺たちを共犯者にするつもりだ」
「俺たちは絶対に認めないからな、やるなら勝手にやれ」
こうなったアリアはもう止められない
アリアの意図を理解した兄たちは、諦めたように天井を仰いだ。
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