第17話 リンネの役割
――細菌は増殖して拳銃を包み込むと、すぐに泡立ちが収まり、静かに消えて行った。
そしてその後には、極限まで酸化して赤茶色に剥がれ落ちた拳銃の名残だけが残る。
「この細菌は鉄がある限りは、細胞分裂を繰り返して増殖し喰らいつくす」
「酸化に強いチタンでも表面にできる酸化膜を食い破ってボロボロにするから、最新の戦闘機やミサイルにも有効だ」
「この細菌がすごいことは分かりましたが、街中に近いザルク自治区の前線で使うのは、危険ではないですか? 例えば、風で飛ばされてビルを破壊してしまうこともあり得ますが」
カインはソウジの話が一区切りするのを待って質問した。
「この細菌は魔素が無ければすぐに死んでしまう」
ソウジの説明では、細菌は生きてゆくために酸素の代わりに魔素が必要で、魔素で満たされた土のようなバイオシートに包まれているため瓶の中でのみ生息可能らしい。
瓶から出すとすぐに死んでしまうが、死ぬより早く鉄と反応して増殖するためどんなに大きな鉄塊でもボロボロに酸化させてしまう。そして、酸化させる際に鉄を取り込んでいるため余程の強風でなければ飛んでいくこともないそうだ。
「これは、商会の研究所で開発したのですか?」
小さな小瓶を指でつまんでアリアは中を覗き込んだ。
「いやっ、これは親父が、砂漠の奥の失われた遺跡で見つけたものだ……」
「遺跡を放棄する際に文明の痕跡を消し去るため使用されたと、親父は考えている」
「あの場所はこの世界を凌駕する科学の痕跡がある。非常に興味深い場所だ」
――ソウジは一通りの説明を終えた後で、カインにもスーツケースを渡した。
もう一つ残ったスーツケースを、リンネが取ろうとすると、ソウジは優しく笑って言った。
「そのスーツケースを持って行ってもいいけど、中身はリンネの物じゃないんだ」
留め具を外して開けると、中には保護した子供たちの服が入っていた。
「うわーっ!この服カワイイ」
「お兄様が、こんなに気が利くなんて……」
アリアとリンネは喜んで受け取る。
ただ、リンネは自分の装備だけが無いことが気がかりだった。
「私は一緒に行動しないのですか?」
ずっと黙って話を聞いていたが、さっき自分の名前だけ呼ばれなかった。
焦燥感から、リンネは声を上げた。
「リンネには別に頼みたいことがある」
「お前たちがこれからこの世界で行う、救済と平和への活動はいずれ教団に伝わり制約を受けるだろう」
「もちろん、そうなる前にこちらから報告するつもりだが」
「どちらにしろ、この世界への干渉について聖神議に諮られることは間違いない」
「その時、リンネには大司教として一票を投じてもらいたい」
「私が大司教ですか?」
そうだ、本来はアリアがなるべき役職だが、辞退した時にリンネを推薦している」
教団は5年ごとに大司教の入れ替えを行っていた。
通常は引退した元聖女が大司教になるが、何らかの理由で辞退したん場合、元聖女が代わりの者を推薦することが出来る。
過去の苦い経験から、教団内に派閥が出来ることをそうして、極力回避してきた。
「数日中には、大司教として選ばれるだろう」
「だが、この世界の戦闘に参加して当事者になれば、聖神議へ参加できなくなる」
「だから、少なくとも聖神議が終わるまでは自重しておいてほしい」
リンネはソウジの話を聞いて納得はしたが、悔しい気持ちが残った。
「私は、大司教になりたいなんて思っていません」
「そんな話は少しも聞いていないし、相談もされていないです」
リンネの言う通り、そんな気持ちがあれば、聖女を選ぶ聖神議を辞退などしないだろう
「聖神議には、国王様や勇者様に賢者様も参加されるのでしょう」
「大司教の一票がそんなに大事だとは思えないのですが」
リンネは自分の納得しないことには基本的に従わない、強い意志を持っている。
いや、今回の聖神議は教団内部だけで行われる」
「国王様や勇者様は参加されないだろう」
「帝国との戦いの時は、結果次第でウォルハイト王国兵も勇者様も参戦することになる」
「当事者の権利として聖神議に参加した」
「聖女を選ぶ聖神議も、教団内部の腐敗や不正を防ぐために、見識者を古くから参加させている」
「そうすることで、誰もが認める聖女を誕生させるためだ」
「今回の聖神議に国王や勇者様が参加された場合、どうなると思う」
「この世界での救済や平和への活動が認められた場合に、国王や勇者様にも、その責任が出てきます」
「万が一、この世界のどこかの国と戦争になった場合に、国王や勇者も参戦せざる終えなくなる」
「教団は国王や勇者を巻き込むようなことはしないだろう」
「賢者はそれ以上に当事者の父親だから、聖神議に参加することは絶対にありえない」
「だから、大司教の一票が大事になってくる」
「大司教になるとツインアースに戻らなければ、いけないのではないですか」
「この世界管轄の大司教になるように手配してある」
「えっ、そんなことが、できるのですか?」
「教団内で枢機卿同士が結びついて、他の者を大司教に推薦している」
「派閥形成を嫌っている法皇が、阻止するために何とかしてくれると思う」
「いずれにしても、聖神議までには、まだ時間がかかる」
「それまでにリンネにはやってほしいことがある」
「どんなことですか」
「リンネは、向こうの世界では幾つの魔法を同時に発動できた」
「中級魔法でなら、三つでしょうか」
「それは、さすがだね」
「では、この世界でも……魔法を二つ同時に、使えるようにもしたいな」
「アリアは今、同時に何個の魔法を発動できる」
「う~ん……試したことがないな……」
「お兄様、ちょっと待ってください」
アリアは少し思案した後、三つの初級魔法を発動した。
「この感じだと、上級魔法一つに中級魔法二つぐらいかな」
「中級魔法だけなら四つぐらいだいじょうぶそうです」
なんて非常識な力……みんな唖然としてその話を聞いていた。
「アリア様は、体内で魔素を作ることが出来るから可能なのです」
「私には無理だと思います」
リンネは声を上げて、投げやりにいった。
自分の無力さが悔しかった。
「リンネそんなことは無いぞ、お前も訓練次第で出来るようになる」
「そんな訓練があるなら教えてください」
「ああ、いいぞ……」
「俺もネフィアも魔法の同時発動をマスターしたからな」
ソウジはそう言って両方の掌から初級魔法を発動して見せた。
「……そんな、口からの詠唱を行わずに掌だけで発動させるなんて」
リンネのソウジへの態度があからさまに変わる。
「ソウジ先生、いえ……お師匠様よろしくお願いします」
リンネはソウジに向かって深々と頭を下げた。
「もう一つ、リンネには……」
「三重の転移魔法陣を一人で稼働できるようになってほしい」
「そんな、魔素の豊富な向こうの世界でもできないのに この世界で出来るとは思えません」
「いや、訓練次第で、リンネには出来る」
「俺はそう思っているよ……」
今までのやり取りで、ソウジが出来るというのなら、信じてみようとリンネは思った。
向こうでも使えなかった。大魔法が使えるようになるかもしれない。
何より自分がそうなりたいと思う。
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