第15話 兵士の正体
――ソウジは、会議用の円卓に皆を座らせた。
そして全員の顔を見渡すと、低い声で切り出す。
「アリア……」
「昨日、ザルク自治区で魔力が底をついたそうだな」
「それで転移魔法が使えなくなり、戻れなくなったことを、何故隠していたんだ」
アリアは、魔力切れを起こしたことを隠していた。
ソウジや家族に心配をかけないためだが……行動を制限されることが嫌だったせいもある。
「話すとお兄様に、余計な心配をかけると思ったからです……」
アリアは顔を伏せて足元へと視線を落とし、反省の姿勢をみせた。
「隠した方が心配する。そうお前は思わないのか……」
ソウジは、ため息を一つ吐いた。
「とにかくこれからは、些細なことでも、全部報告してくれ」
反省が形だけだと知っているソウジの機嫌は、良くならない。
「……あんな奴に助けてもらうくらいなら」
「商会の人間を集めて、俺が転移魔法陣を動かしてやる」
強い口調で話すソウジの言葉に、昨日の兵士の顔がアリアの脳裏をよぎった。
「昨日……魔力の尽きた私を、助けてくれた兵士がいました」
「あの兵士は、いったい何者なのですか?」
ソウジの機嫌は未だに直らないようで、そのまま強い口調で言った。
「あいつの名は、ドレアス・ハミルトン」
「……父上の直属の部下で、メルマルク財団の副代表だ」
ドレアスの名には、聞き覚えがある。
アリアは自分の中にある古い記憶を探ってみた。
「ドレアス様……たしかお兄様の同級生で、ライバルで、友達の方」
「……あいつは、友達じゃない!」
ソウジは、さらに口調を強めた。
「ソウジは学校に入学したころ、ドレアスのことをライバル視してたんだけど」
「結局……学業も運動も、負けっぱなしだったから……名前を聞くのも嫌なんだよね」
ソウジとドレアスの同級生だったネフィアは、笑いをこらえるのに必死だ。
「あいつは、いつも俺を見下しやがって……」
よほど悔しい思い出なのだろう。ソウジは両手を握りしめた。
「そのくせ、何にでも絡んできやがる」
「あいつの……そういう性格が、嫌いなんだよ」
(ソウジお兄様は優秀で、どの学科でも上位に入っていたはず……)
(そのお兄様が何も敵わずに、コテンパンにやられていたなんて)
「おい、コテンパンじゃない」
「ほんの少しの差だ、いつも接戦だったぞ」
アリアの心の声が聞こえたように、ソウジは弁解した。
ネフィアは、ずっと笑いをこらえている。
「たしか、ハミルトン家と言えば……帝国と内通した罪で、降格になった伯爵家では?」
カインが思い出したように、口を開いた。
「そうだ」
ソウジは短く頷く。
「カインとリンネが英雄になった、あの侵略戦争」
「……あれは、ハミルトン伯爵の情報を基に、帝国が侵攻を始めたと言っていい」
三年前、大陸北方で起こった侵略戦争。
ソウジは当時のことを思い出しながら、視線を遠くへやった。
「あの時……帝国は、ウォルハイト王国の参戦はないと踏んでいたようだ」
「さすがに勇者や聖女のいる国とは、事を構えたくはないからな」
もともと、ウォルハイト王国では王も教団も参戦には消極的だった。
国全体が不戦に傾く中……北方の国で戦況確認をしていたアリアたちは、避難民の保護中に突発的な戦闘に巻き込まれ、帝国軍に大打撃を与えてしまった。
帝国の非道に憤りを感じたアリアは教団に諮り、侵略戦争への参戦を問う聖神議を開いた。
そして、王国と教団は参戦を決定した。
「……お前たち三人のせいで、結局参戦することになってしまった」
「聖神議の直前、ハミルトン伯爵を拘束して、こちらの情報を遮断した」
「そのお陰で、参戦後の帝国の対応は後手に回り、戦局を有利に進めることができた」
アリアたち三人を睨みながら、ソウジは話を続けた。
「理由はどうあれ、お前たちは国と教団を戦争に巻き込む……引き金を引いた」
アリアたちは、申し訳なさそうに俯いて肩を落とした。
「その後、ハミルトン伯爵家は男爵に降格になったが、この件に、あいつは一切関わっていない」
「……というより、伯爵の諜報活動を通報したのは、ドレアス本人だと俺は思っている」
「自分の父親を密告したのですか……」
アリアは信じられないという顔で、聞き返した。
「そうだ」
ソウジは苦々しげに言う。
「あいつは、いけ好かない奴だが……国への忠誠心は本物だ」
「それに、自分がどう動けば一番いい方向に物事を進められるか、考えられる頭も持っている」
「王国内の機密情報の流出は重大な犯罪だ。特にあの時は、それが原因で戦争が起こっている」
「普通なら、伯爵家は取り潰しになり、伯爵は死刑になるのが順当だ」
「だが伯爵家は領土の大半を失ったが、男爵家として爵位を保ち、ドレアスが後を継いでいる」
「伯爵への量刑も、禁固十年と異常に軽い」
国家機密に等しい情報を、ソウジはアリアたちに話した。
「実際、伯爵は国外追放になるはずだったが、あいつの交渉で禁固刑に変わったらしい」
「情報の誤りで敗戦したと考える帝国が、国外に出た伯爵を処分するのは目に見えている」
「他の貴族たちは、それでよしとしていた」
「結局、ハミルトン家と……ドレアスの父親にとって」
「最善の形で、事件を収束させた」
「悔しいが……あいつが優秀なのは、紛れもない事実だ」
「今回の、アリアの動画拡散についても」
「……ドレアスを中心に、対応をしてもらった」
ソウジは拡散したアリアの動画を、壁のプロジェクターに映し出した。
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