第12話 イルサレム軍の攻撃
――アリアは、昨日の場所から数キロ離れた場所に転移していた。
遠くに見える、昨日の建物の残骸。
それを目印にしながら、アリアはさらに上空へと舞い上がった。
この場所は、国境に近いのだろう。イルサレムの戦車部隊が、横に長い隊列を組んで待機している。
その反対側、数キロ先の海沿いの道には、人々が長い列を作り、南に向かって移動していく
(……そうだ。昨日教えてもらった病院へ行ってみよう)
昨日兵士に聞いた方向へ進むと、倒壊していない建物が多く残る地域に出た。
ほとんどの建物が半壊しているが、さっきまでいた瓦礫の海よりは、まだ「町」の形を保っている。
アリアは病院らしい建物に目星をつけ、出入りする人々に紛れて中へ入った。
廊下にまであふれた患者が、床の上に座ったり横たわったりしながら、何時になるか分からない治療をただ待ち続けている。
病室の中に大量に置かれたベッドには、重症患者が寝かされていて、そんな部屋が幾つも続く。
(薬や医療器具は、どこにもなかった。きっと、まともな治療は出来ていないようね)
ベッドの上で唸り声をあげている患者の横に、死んだように身じろぎもしない患者がいた。
アリアは思わず駆け寄り、まわりの目も気にせず脈を図る。
それはとても弱く、乱れていた。
(あばらが折れてる……内臓の損傷もひどい)
(このままじゃ、後少しで死んでしまう)
アリアは魔法で部屋の中にいる患者をすべて眠らせ、そのまま治療魔法を発動した。
高位魔法を発動すると生じる、眩い光が病室を満たした。
重症患者ばかりの病室のカーテンは閉め切られていて、少しだけ窓から漏れ出す光に気付く者はなかった。アリアはこの後、生死に関わる重傷者を三人治療して、後ろ髪を引かれる思いで病院を後にした。
(何故.....今、ここにいる人たちをもっと治療してあげないの!)
(残りの魔力をすべて使えば……後、何人かは助けられたはず)
アリアは自分の心に自問自答しながら、途中で治療をやめた事を後悔していた。
(帰りの魔力を残すために治療をやめるなんて、私は聖女なんかじゃない)
自分を優先した自己犠牲が伴わない、偽善のように今回の行いが思えた。
(もっと、良い人にならなくちゃ.....)
自己嫌悪に陥りながら、それでもアリアは帰り支度を始めた。
(この辺で、いいかしら.....)
病院から少し離れた、損壊の酷い場所にアリアは降り立ち、傾いて崩れ落ちそうな建物の中に入った。 リビングと思われる荒れ果てた部屋の奥にあるドアを開けると、損傷の少ない小さな部屋があった。
埃を被った子供の玩具が散乱するその部屋で、アリアはシーツから三重の魔法陣を床に写し取った。
(本当は地下空間を作って転移場所にしたかったけど……魔力が持ちそうもないわ)
アリアが魔法陣の中央へ移動したその時――
**キィィン……ドガァァァン!**地面ごと持ち上がるような衝撃。
爆発音が一気に押し寄せた。
連鎖するように、地の底から這い上がってくる重い音が**ボゥゥンッ……!**と何度も響き渡り、腹にめり込む。
アリアは反射的に外へ飛び出し、空高く舞い上がった。
辺り一帯に、巨大な灰色の柱が何本も立ち上り、焼け付く鉄の匂いが、喉に張り付いた。
耳を裂く爆音がして、また何発ものミサイルが飛んで来ていた。
――その行く手には、さっきの病院があるのが見える。
激しい戦場の光景が……アリアの思考を吹き飛ばした。
(絶対に許さない!!)
アリアは残った魔力をこめて、空へ向けて両手を高く掲げた。
厚い雲の中が煌めき、雷のような光が幾筋もの束になって降り注ぐ。
そうして、火花を引きながら飛来するミサイル全てを爆発させていった。
「馬鹿な……何だ、あれは……?」
逃げ遅れた人々の声が漏れた。
一人の男が空を指さして叫んだ!!
「マーライカ(天使)様だ!!」
空高く小さな影が、薄い光を帯びて消えていった。
恐怖と畏怖と、理解を超えた存在への本能的な震え。
彼らの信仰する宗教では天使は光から創られた存在とされている。
「神は最も偉大なり」
「すべての称賛はアスラムへ…」
人々はひれ伏して神への祈りを捧げた。
地上へと降り立ったアリアは、残った魔力を限界まで使い果たしていた。
焦げた大地はまだ所々で火の手を上げている。
息を吸うだけで胃が焼けるような空気。
近くで泣き叫ぶ声が聞こえた。
「ママ! 起きてよ! ねぇ、ママ!」
瓦礫の下敷きになった女性の傍らで、幼い少女が泣きながら身体を揺すっていた。
アリアは駆け寄りその子を抱きしめた。
救えなかった命に、悲しみと怒りが満ちていき、胸が締め付けられる。
泣き続ける子供を抱きしめたまま、アリアはしばらくその場を離れることが出来なかった。
(転移魔法が使えるまで魔力が回復するのに、半日はかかる)
(それまで、あの部屋に身を隠すしかないわね)
泣きつかれて眠りについた子供を抱きかかえて、魔法陣を描いた建物へと歩き始めたアリアを、後ろから呼び止める声がした。
「お嬢さん忘れものですよ」
驚いて振り返る。
そこには、昨日の兵士が立っていた。
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