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聖女大戦   ~聖女をやめたので地球に転移して無双します~  作者: 日々野 新


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第11話 再びザルク自治区へ

 昼休みが終わり、みなそれぞれの持ち場に戻ってゆく――。


 教会内で食事を終えた移住者達は、そのまま語学講習へと向かった。


 双子の星と呼ばれるだけあって、地球とツインアースの言語はよく似ている。アリアたちが使う言葉は、この世界で「英語」と呼ばれる言語に近く、文法の骨組みも似通っていた。単語さえ覚えれば、習得は早いだろう。


 ただ、アリア達が拠点を置く蝦夷国は、まったく系統の違う「日昇語」が使われている。ここに残る者は、英語と併せて日昇語も学ぶ必要があった。


 侯爵から直接教わり、どちらもすでに身につけているアリアは、講習を免除してもらっている。


 食堂で余っていた昼食を分けてもらい、アリアは急いで部屋に戻った。ドアを開けると念のために発動させていた空間隔離魔法を解除する。


「アリアお帰り」

 パン君が陽気に声を上げた。


「オマルの調子はどう?」

 出かける前に翻訳アプリで聞いた、子供の名前を思い出して尋ねる。


「うん。昨日貰ったパンを残らず食べたし、だいぶ元気になったと思うよ」


「それは……よかったわ」

 ベッドに腰かけたアリアは横になっているオマルの手を取り、そっと握りしめた。

(ああ、軽い……こんなに痩せてしまうなんて)


 着替をして、寝ているオマルをおこさない様、自分もベットに潜り込んだ。


 昨夜見たニュースは、イルサレム軍が二日後にザルク自治区北部へ大規模な地上進攻を行うことを発表し、住民に対して避難勧告を出したと伝えていた。


(封鎖されたあの場所から……みんな、どこに逃げればいいの)

 昨日ほとんど眠れていない身体を睡魔が襲う……

 アリアは怒りに眉をわずかに寄せたまま、思考より先に眠りに落ちて行った。


 ――夕方。

 リンネのドアをノックする音でアリアは目覚めた。


「語学講習はどうだったのリンネ」


「日昇語は難しいです……でも、英語の方は単語を覚えれば何とかなりそうです」

「それで、昨日の子はどうですか?」

 リンネは視線をベッドへ向けた。


「オマルは食事が出来るくらいには回復したけど、栄養障害で痩せすぎだわ。今はとにかく、たくさん食べさせて体力をつけさせないとね」


「その子の名前は、オマルっていうんですか.......」

 自分の名前を呼ばれて気になったのか、オマルはベッドに横になったまま、二人の方を不安げに見ている。

 ……大きな目が、怯えをにじませていた。


「そう、スマホの翻訳アプリを使って聞いたの。アラビア語も少しだけ勉強してきたけど.....まだ駄目ね」


「オマル、私が絶対守ってあげるから、早く元気になってね」

 アリアが翻訳アプリを使い話しかけると、オマルの口元がほんの少しだけ緩んだ気がした。


 夕食を済ませた二人は、食堂で料理を分けてもらい、アリアの部屋に戻ってきた。


「遅くなってごめんね、お腹、空いたでしょう.....いっぱい食べてね」

 二人は持ち帰った料理を小さく刻み、温めなおして、スープを添える。

 ベッドわきの小さなテーブルの上に並べると、オマルは自分の力で起き上がり、ベッドサイドに腰かけた。


 朝はパンをミルクに浸して、アリアが口元に運んであげた物をようやく食べていた。

 けれど今は、少しおぼつかないが自分の手でスプーンを握り、食事を口へと運んでいく。


 アリアとリンネはその姿を嬉しそうにしばらく見つめていた。


「アリア様、今日は私も一緒に行きます」

 リンネの瞳の奥に、固い決意が宿っている。


 アリアは少し困った顔をした。

「今日は無理なの」


「どうしてですか、私では力が足りないからですか」

 納得がいかない顔のリンネに、そうじゃないのとアリアは説明を始めた。


「向こうにはまだ、転移先に必要な“受け”の魔法陣がないの」

「受けの魔法陣がなければ転移先を正確に指定出来ないから、転移予定の地域内にランダムに転移させられるわ」


「私とリンネが別々のところに転移して出会うことが出来なかったら、大変な事になるでしょ」


「そうですね、私には一人で三重の転移魔法陣を動かすことはできないから、そのまま帰ってこれなくなります.....」


(やっぱり私はまだ力不足.....アリア様の足手まといになってしまう)

 アリアに憧れて努力を重ねてきたリンネは、それだけに力になれないことが悔しくて悲しかった。


「今日、受けの魔法陣を向こうに準備してくるわ」

「明日は大きな戦闘があるみたいだから……手伝ってもらえたら嬉しいな」

 しょんぼりしているリンネを励ます様、その肩に手を置き明るい声でアリアは言った。


 それから、二人でシーツを広げて帰還用の魔法陣を完成させた。


「アリア様、こうしたらどうでしょう?」

 完成した魔法陣を見詰めていたリンネが、何かひらめいたように魔法の詠唱を始めた。


「デラ ヴェクセル」

 白いシーツに描かれた魔法陣の黒い文字が、すっと消えて見えなくなった。


「あら……!いいアイディアだわ」

「これなら何も書いてないみたい。リンネは私に無い発想を持っていて、本当にすごいわ」


 リンネは照れたように目を伏せる。

「形態変化の魔法を使って、黒い文字を白くしただけなので、完全に消したわけではありませんが……」


「十分よ」

 アリアは素直に頷いた。


「これなら魔法陣には気づかれず、誰かに見られても、ただのシーツに見えるわ」

「実はね、昨日向こうに残してきた魔法陣が、本当は心配だったの」


 誰かに見つかっても、普通の人にはそれが何か分からない。それでも、魔法が存在する状況証拠を残したくないアリアには、これからも色々使える名案だった。


 それから、アリアは三重の魔法陣を起動して、ザルク自治区へと再び消えてゆく、リンネは空間隔離魔法を使い、その光が外部に漏れない様に支援をした。


 閉ざされた空間の中で生まれた光が花火のようにきらめいて飛び跳ね、その光景を見ていたオマルが、歓声のような声を上げて初めて笑った。


(わあ……!アリア様にも見せてあげたかったな)

 その姿を一人見ていたリンネは心から思った。



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