第10話 リンネの決意
深夜の十二時を過ぎた頃.......
再び、アリアの部屋の窓から眩い光があふれ、暗い街路を一瞬だけ照らした。
窓辺からそれを見ていたリンネは、はっと息を呑む。
急いで上着を羽織りアリアの部屋へと駆け出した。
(あれは、転移魔法陣の光に違いないわ……)
(さっき部屋に行った時に留守だった……戻って来られたかしら)
胸に広がる不安と、アリアが何も話してくれないことが寂しくもあった。
「アリア様!リンネです!開けてください!」
ドアノブを回しながら、何度もノックする。
「……リンネ?」
鍵が開けられ、アリアが扉を開いた。
その瞬間、リンネの視界に飛び込んできたのは――
ベッドの上に横たえられた、血だらけの子供の姿だった。
「……っ! この子は……」
リンネの問いには答えず、アリアは静かに子供の服を脱がしていく。
骨と皮だけの身体。骨が露わになった脚から、血が流れ落ちてシーツを赤く染めていった。
「これから治療をするから、手伝ってほしいの」
アリアは子供両手をかざし、短く詠唱する。
「ネトワヤ」
泥にまみれて汚れていた小さな身体が、光の粒に包まれてきれいに洗われていく。
子供の体がきれいになると、今度は。「フレーゲ」とアリアは唱え、体内浄化魔法を発動した。
(さすがは、アリア様だわ……)
アリアの一連の見事な手際に見とれていたリンネが我に返って尋ねる。
「私は何をすればいいですか」
「最後の治療魔法は大きな光を伴うから外に漏れにようにしてもらってもいい」
アリアはマナドロップを渡した。
リンネは口に含むと空間隔離魔法を発動した。
「ありがとう」
短くお礼を言った後に、アリアは治療魔法を使った。
少年の脚の傷は塞がり、出血も止まる。
「中東のザルク自治区に行って来たの……そこで、怪我をしているこの子を見つけたわ」
「治療をする前に戦闘が始まてしまって、一緒に連れてきたの」
「そうですね、もう少し治療が遅ければこの子は死んでいたと思います」
「……助けることが出来て良かったわ」
「ええ本当に、でもこれからどうしますか?」
「瓦礫以外は水も食べ物も無い処よ、このまま返してもきっとこの子は生きていけないわ、だから暫くは此処で一緒に生活して、これからの事を決めたいと思うの」
(こんな時、アリア様が迷われる事なんてないものね)
「わかりました私も手伝いますので、何でも言ってください」
「ありがとう、リンネ!」
アリアは駆け寄ってリンネをハグした。
すると汚れたままの修道服から中東の砂煙が**ボワッ**と沸き上がった。
「アリア様、煙たいし、汚ないです」
ハグするアリアを一旦押し戻して、リンネは「ゴホゴホ」と咳込でいる。
「アハハ!ゴメンゴメン」
アリアはその様子を見て大笑いした。
「まったくもう……自分の事はいつも本当に二の次なんですから」
リンネは呆れたように呟き、洗浄魔法を今度はアリアに使った。
中東の惨状を聞いて心が痛む。
けれど……申し訳ないと思いながら、アリアと一緒に行動できることをリンネはワクワクしていた。
――次の日の朝
眩い朝日が木漏れ日となって降り注ぐ緩やかな坂道を、丘の上の教会に向かってアリアとリンネは歩いていく。
「昨日の子供は大丈夫ですか……」
背の低いリンネはアリアの横を少し速足で歩きながら聞いた。
「ええ、朝には身を覚まして、昨日リンネが差し入れしてくれたパンを美味しそうに食べてたわ」
少し眠そうな顔でアリアは大きく深呼吸した。
朝のさわやかな空気が彼女の胸いっぱいに広がった。
「ああ、空気が美味しい」
「これが魔素のない、純粋な空気の味なのね」
「本当に美味しいですね」
「でも、魔素がないせいで魔法が自由に使えないのは残念です」
生真面目な彼女には珍しく、リンネは小さくあくびをしながら言った。
彼女も昨夜は、よく眠れなかったようだ。
やがて移住者たちは丘の上の教会に集まり、簡単な自己紹介の後、
地球の生活についてレクチャーが始まった。
「おはようございます。私は、この教会の司祭をしている。アンヌと申します。」
「今日は皆さんにここで生活していくためのルールを説明させていただきます。」
年のころは40歳前後だろうか少し肉付きがよいアンヌは、アリアとリンネを見つけて一礼した。
二人もそれに気づいて軽く礼を返す。
彼女は、背筋を伸ばして良く通る声で説明を始めた。
「この世界は地球と呼ばれていて、私たちの世界のパラレルワールドだと考えられています。」
「双子のようによく似た二つの世界を区別するため、ここでは、私たちの世界の事をツインアースと呼びます。」
「この二つの世界の一番の違いは、この世界に魔法が無いことです」
「魔素を発生させる魔物や魔樹が存在しないため、大気中に魔素が無く、魔法を使うことが出来ません」
「それでは、布教や治療のために神聖力を使うことはできないのですか」
移住者の大半を占める修道女たちは不安の声を洩らした。
「神聖力を具現化した祝福の力も魔法の一種となります」
「そのため、使うことはできません」
――神聖力は使えないですが、
「神聖ルクレシア教の教えは、全ての人に救いをもたらす素晴らしいものです」
「神聖力が使えなくとも聖典の教えを正しく伝えることが出来れば、何も恐れることはりません」
アンヌは明確な言葉ではっきりと答えた。
「魔素供給薬を使用すれば、この世界でも魔法を使うことはできるはずです」
「それも禁止されているということでしょうか」
修道女たちは納得のいかない様子で聞き返してくる。
「こちらの世界の秩序を乱さないため、魔素供給薬=マナドロップの使用は、教会が必要を認めた場合のみ許されます……残念ですが、今までのように布教や日常生活に魔法を使うことは、許されていません」
その後も、アンヌがこの世界でのルールや歴史など様々な話をしている内に、あっとゆう間に午前の時間は過ぎた。
お読みいただき、ありがとうございます!
もし、続きが読みたい!と思っていただけたら、
下の☆☆☆☆☆をポチッとして、
評価、ブックマークして頂けると嬉しいです。
どうかあなたの評価を教えてください。
皆様の応援が作者の原動力になります!
何卒よろしくお願いします!




