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門の塔(改稿版)  作者: 小望月待宵
第1章
9/11

第5話ー1 レウテーニャ魔法大学校

 なんとなく意識を外側に向ける。部屋の中は静かだ。

 

 今度は部屋の外側へ意識を向ける。扉の向こう、階段の下から何やら物音が聞こえる。たぶん、ミエさんが朝ごはんの支度をしているのだろう。バーオボでの生活を思い返すと、こうして誰かに作ってもらう朝ごはんは、メニューも含めて何から何まで楽しみで仕方がない。コウはそう思いながらゆっくりと目を開けた。

 

 ベッド横の窓からは青白い朝日が射しこんでいた。もう朝か……。

 

 昨夜見た光景をふと思い出す。大衆酒場セイレーンで見た、あのミナさんの舞……。本当は夢だったのでは?

 コウは、寝ぼけているのか、頭で考えていることが何やらゴチャゴチャしている。今が夢で、昨日のが現実で?

 

 コウは何かに気づいた。ベッド脇にある窓の外側に、何か小さな物がチョコチョコと動いている。目を凝らしてよく見ると、小さなツバメが一匹留まっていた。ただ、普通のツバメとは違う。何やら封筒のような物を咥えている。


 ……手紙だ!

 

 コウの頭は一気に覚醒し、物凄い速さで窓を開けた。

 

 ツバメは、チョンチョンと飛び跳ねながら、部屋へ入ってくる。そして、コウへ一通の封筒を渡した。コウがすぐに封筒を受け取ると、ツバメはスイーッと外へ飛んで行ってしまった。

 

 配達ご苦労様、と心の中で礼を言い、コウは急いで封筒の差出人欄を確認する。

 

 「父さんからだ!」

 

 そしてコウは、宛先欄を確認する。大きな切手が何枚も貼られている。どうやら速達料金で送ってくれたらしい。父さんらしいや。

 封筒の上辺を千切り、中の手紙を取り出して開いた。


 

 

   愛する我が息子、コウ・レオーニ 様

  手紙ありがとう。無事着いたようでよかった。

  宿の件はわかった。

  「アミマド屋さん」という薬屋さんだね?

  父さんからまたお礼の手紙を送るよ。よろしくと伝えておいてほしい。

  それにしても……コウがいない家は寂しい。

  君の母がいなくなってからもとても寂しかったが、コウが居なくなると家が空っぽになったようだ。

  でも、コウはもっと寂しく辛い思いをしているのだから、大人の父さんがここでへこたれていてはダメだな。

  お互い、頑張ろう。

  また何かあったらいつでも手紙をください。

  

   君の父 カッシオ・レオーニ


  追伸 もしも困ったことがあれば、『レウテーニャ魔法大学校のイスカ学長』を訪ねるといい。

  きっとコウの力になってくれるはずだ。


 


 コウは手紙を読み終わったあと、天を仰いだ。

 

 バーオボを出、聖地テルパーノへやってくるまでの道中は全く気が付かなかった。まさか父に寂しい思いをさせてしまっているとは。いや、本当はずっと前から知っていたのかもしれない。でもコウはずっと必死だった。母さんを見つけたい。その一心でここまで来た。

父さんは寂しい思いを噛み殺しながら、バーオボで待ってくれている。期待に答えなくては。

 

 コウは、自身に喝を入れ、前を向き直し、今日やるべきことに集中しようと脳みそをかき回し始めた。

 

 そして、父の手紙で気になる記述があることに目を向けた。

 「レウテーニャ魔法大学校のイスカ学長……」

 コウの口からそう言葉を発していた。

 

 今日正にその”レウテーニャ魔法大学校”へ行くのだ。

 偶然なのか、必然なのか。そんなことは今はどうでも良い。父の知り合いだというイスカ学長に会えば、七日間講義のことで何か力になってくれるかも?

 

 コウは気分を高揚させながら、身支度を始めた。


 

 「イスカ学長? うん。知ってるよ」

 

 朝から心地の良いコーンスープの香りが広がる食卓。円形テーブルの中央には、花瓶にピンク色のあの植物が添えられている。

 ミキは食卓で朝食のピーナッツバターパンを頬張りながら、コウに答える。

 

 「本当に?」

 コウはミキに聞き返す。

 

 「うん。でも、どうして?」

 ミキはコウに聞き返した。

 

 「今朝、父さんから手紙が届いて、その手紙にイスカ学長のことが書いてあったんだ。知り合いなんだって」

 

 ”レウテーニャ魔法大学校のイスカ学長”。父の知り合いというその学長のことが気になったので、生徒であるミキに聞いたのだった。

 学長というのだから当然学校で一番偉い人ということになる。気難しい人なら会うまでに何か話題を考えておいておきたかったし、逆に優しい人ならリラックスして会話に挑める。コウとしては問題に事前に対策するような感覚だった。

 

 ミキはまた一口、ピーナッツバターパンを頬張ると、とんでもない言葉を発した。

 「コウのパパ、あの変人学長と知り合いなの?」

 

 コウは、ミキの予想外の言葉に驚き、飲もうとしたコーンスープを咽ながら

 「へ、変人学長!?」

 

 「うん。本当に変人なんだもん」

 

 どういうベクトルで変人なのだろう。コウはゲホゲホと咽ながらも、変人の意味が気になって仕方がなかった。

 

 コウは、ミキからタオルと水を受け取り、なんとか咳がおさまると口を開いた。

 「ミ、ミキ……ありがとう。――その、イスカ学長が変人ってどういう意味?」

 

 ミキは一口コーンスープをすすると、口を開く。

 「うーん。私も人づてで聞いただけだけど……。突然涎垂らしながら地面を這いずりまわったり、壁に向かって「なになにちゃん!」って名前を叫んでたり、突然女子のスカートめくって手を突っ込んで来たり……」

 

 コウは思わずうわぁ……と声に出してしまうほど、イスカ学長は変人であった。ミキから聞いたこと以外にも、もっと酷い醜態を晒しているのだろうと、すぐに想像がつくほどだった。

 

 キッチンでお弁当箱に何かを詰めていたミエさんがコウとミキのほうへ振り向き、青いチェックのクロスに入った弁当箱をコウへ、赤いチェックのクロスに入った弁当箱をミキのほうへ置き、「こら! ミキ! 偉い人のことそんな風に言うもんじゃありません!」とミキを叱った。

 

 ミエさんのお叱りが飛んでき、ミキは渋々と言わんばかりに「はーい」と返事をした。


 

 朝食を食べ終え、アミマド屋を後にしたコウとミキは、レウテーニャ魔法大学校へ向かうべく、17番通りを抜け、中央広場へやってきた。

 

 朝のエクパーノは、これから仕事へ向かう人やローブに身を包んだ学生が、箒で飛び交い、通りを走り抜けたりと、いかにも大忙しといった雰囲気が流れていた。バーオボではあまり経験しない、ガヤガヤとした朝の街中は、空気こそはあまりよくないが、これはこれで悪くないとコウは思った。

 

 コウは変人学長ことイスカ学長のことが気になりつつも、ミキの隣について道順を覚えながら歩を進めた。

 

 右へ左へ、学生しか知らない路地を抜けたあと、真っ直ぐ歩き、目の前には5メートルは優に超えるであろう赤いレンガ城壁が見えてきた。

 

 「ここがレウテーニャ魔法大学校よ」

 ミキはそう言うや、自身の懐から銀色の柄がついた明るい色をした木目の杖をコウに手渡した。

 

 「えっ? ミキの杖だよね? いいの?」

 コウは、ミキから杖を受け取ると咄嗟に聞いた。

 

 「うん。今だけね。っていうのも、これがないと、コウは校内に入れないのよ」

 

 コウが、どういうことか、と聞くと、ミキは詳しく説明してくれた。

 

 ミキ曰く、コウはレウテーニャ魔法大学校の生徒ではないため、よほどの許可がないと校内には入れない。そのため、生徒だけが知っている秘密の抜け道を通る必要があるのだそうだ。そして、その抜け道を通るには杖が絶対にいるのだと言う。

 

 コウは、自身がごく普通に学校に入れるものだと思っていたのと、イスカ学長にアポイントメントを取っていなかったことなどであまりにも頭が回っていなかったことに恥ずかしくなり、顔が少し赤くなってしまった。

 

 「いい? この壁沿いにずっと北へ進むの。よく壁に注目してね。そうしたら、壁にレウテーニャ魔法大学校の小さな銀色の校章が埋め込まれている壁があるの。それを見つけたらその紋章を杖で叩くだけ。あとは道が開くはず。――それじゃあ、あとで学校の中でね!」

 

 ミキはそう言って颯爽とローブの裾をはためかせ、校門のほうへと消えて行った。

 

 「壁沿いに北へ……小さな銀色の校章……」

 コウはミキに言われたことをブツブツと復唱しながら、レウテーニャ魔法大学校のレンガ壁に沿って歩き始めた。

 

 壁を……北へ……。時折レウテーニャの生徒らしき人とすれ違い、コウを見るや怪しい顔をされるが、コウは気にしなかった。

 かれこれ10分ほど歩いた頃だろうか。壁がまだずっと先にまで伸びている。果てしなくずっとその先へ。レウテーニャ魔法大学校の土地の広さはどれくらいなんだろう……。もしかしてバーオボの首都レレーンより広いのでは? とコウが思ったそのときだった。

 

 「……あっ! 小さな銀色の校章!」

 

 ミキに言われた秘密の抜け道の目印である小さな銀色の校章をやっと見つけたのだ。

 

 この校章を杖で叩けば道が開くはず……! コウはミキから預かった杖を取り出し、その校章を軽く叩いた。

 

 すると、校章がついている布巾のレンガが、まるで生きた積み木のように軽いような鈍いような音を立てながら動き始めた。そしてそこには、人一人が通れるほどの穴が出現したのだった。

 

 コウはその穴の出現に感動したかったが、穴が閉じてしまったらダメだと思い留まり、すぐにその穴の中へ潜り込んだ。

 ミキに教えてもらった秘密の抜け道をくぐり抜けると、その穴はすぐさま軽く鈍い音を立てて塞がった。

 

 コウは視線を抜け道から前方へ移す。そこは雑木が生い茂った場所だった。

 すると、すぐに近くから雑木をかき分けるような音がし始めた。コウはその音に警戒し、もし、学校の先生や警備員に見つかったときの言い訳を頭の中で考え始めた。

 

 「コウ! よかった! 秘密の抜け道、見つけたのね」

 

 その声を聞き、コウの緊張はすぐに解けた。校門で別れたミキだった。

 

 「うん! すぐにわかったよ」

 コウはホッと胸を撫で下ろしながらミキに返事した。

 

 あ、そうだ、とコウは手に持ったミキの杖を返した。

 

 二人は雑木を抜け、開けた小道へと出た。その小道を歩きながら、次はどうする? いきなり学長室に行く? などと話していると、背後からふと風が吹いたかと思えば、とても怪しげな声がしたのだった。

 

 「おやおや。こんなところで何をしているのかな?」

 

 コウは咄嗟にまずいと思った。レウテーニャ魔法大学校の生徒ではない自分が校内を歩いている。ましてや秘密の抜け道を使って不法に侵入しているのだ。もしも誰か大人を呼ばれて……捕まりでもしたら……。

 

 コウとミキは、その声がしたほうへゆっくりと振り返り始めた。

 

 コウの頭の中は色々なことが浮かび上がる。ここまで連れて来てくれたヨーゼフさんたちや、父カッシオ、そして、今お世話になっているアミマド屋のミエさんとミナさん。まるで走馬灯でも見ているかのようにこれまで協力してくれた人の顔が思い浮かび、コウは今隣にいるミキの顔を見た。この場にいるミキも一緒に捕まれば、彼女にはもっと迷惑がかかってしまう……。

 

 ここは自分だけ犠牲になって、ミキだけは逃がそう。コウはそう思い、すぐ動けるよう、腕に力をこめた。

 

 そして、二人がその声の主のほうへ振り返り、顔を見たときだった。

 

 「……あれ? マワじゃない!」

 ミキは声の主の顔を見てそう言った。

 

 ミキのその言葉に、コウの口からは「へ?」と拍子抜けしたような声が漏れた。

 「ミキ、知り合いなの?」

 

 コウは視線を声の主へやる。そこには、ミキと同じような黒いローブにつばの広いトンガリ帽子を被ったヒューマニ族の女子生徒が立っていた。背はミキより少し高く、黒い髪のショートヘアで、男性とも女性とも似つかない中世的な見た目と言った印象をコウは持った。

 

 「あ、コウに紹介するね。この子はマワ! 私の友達!」

 

 ミキにそう紹介されると、マワはコウの元へ近づき、右手を差し出した。

 「マワ・タッペルです。どうぞお見知りおきを」

 

 「コウ・レオーニです。……よろしく」

 コウはマワの右手を取り、二人は握手した。

 

 「それで? 麗しのミキ・ルル・アミマド姫とコウ・レオーニくんはここで何をしているんだい?」

 マワは二人にそう聞いた。

 

 「あ、えっと……話すと少し長くなるんだけど……」

 ミキはマワに、コウが聖地テルパーノへ来た理由や七日間講義の話をした。

 

 「なるほど……なるほどねぇ……」マワはふむふむと言いながらミキの話を聞き、

 「それでは図書室へ行ってみてはどうだい?」

 

 「図書室?」

 ミキはマワに聞き返した。

 

 「図書室に七日間講義のチラシが貼ってあるのを見かけた覚えがあるんだ」

 マワはそう答える。

 

 それなら行先は決まりだね! と三人はレウテーニャ魔法大学校の図書室へ向かうことになった。

前話の第4話ー2ですが、最後の2000文字ほど編集ミスで抜けておりました。

加筆修正しましたので、お時間のある時に読んでいただけると幸いです。


そして、いつも「門の塔」と楽しみにしてくださってる皆さま。

本当にありがとうございます。

PV数が少しずつではありますが伸びてきており、大変驚いております。

週一とゆっくりペースではありますが、今後ともよろしくお願いいたします。

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