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門の塔(改稿版)  作者: 烏鷹ヒロ
第2章
23/25

第11話ー2 滝の門

 「……ここは?」

 

 意識を取り戻したミキは、自身の身に起きたことを思い出しながらまずは周辺の様子を探る。

 辺りは真っ暗で何も見えず、何か湿気のようなジメジメとした嫌な空間だ。だが、ただ湿気が多いだけではない。なんだかネバネバしているような、生暖かいような、嫌な感覚がする。

 

 「レーカヒ」

 ミキは呪文を唱えた。杖先から小さな白い光を放つ虫のような羽根の生えた物がフワッと浮き上がる。光源呪文だ。

 

 そして自身の周辺や足元をよく確認すると、何やらピンク色でうにゅっとしている。壁もベタベタとしている。とても気持ちが悪い。

 

 「えっ、何ここ……」

 

 ミキはここでやっと目を覚ます前の出来事を思い出したのだった。

 コウと”滝の門”に入り、たどり着いた先で滝を見て、出口を探すために色々探索をしていて……。

 

 (あ、私、大きな鯉に食べられて……)

 

 突然滝つぼの底から現れた大きな金色の鯉に丸のみされたのだ。ということは……?

 

 (胃袋の中……? 待ってやだやだ! まだ死にたくない!)

 

 ミキはなんとか外にいるコウに連絡できないかと考えたが、胃の中ではそんな手段などない。なんとしてもここを出るしかないのだ。

 ミキはまた光源呪文を唱え、できる限り遠くまで光が届くようにした。どこもかしこもテカったピンク色の壁がベッチョリとしている。

 

 ここから出るには鯉の食道を通るか、それとも腸を通るか。だが食道らしき通り道は見つからず、かと言って腸から出るということは鯉の大便と一緒に出ることになる。ミキにとってこれほど屈辱なことはない。

 

 すると、ミキが出している光源に反射して何やらキラっと光る物が遠くに見える壁に見えた。ミキは足元に注意しながらその光る物へ近寄る。

 

 「鍵だ!」

 そのキラっと光る物は金色の鍵だった。この鍵が出口の鍵という確証はないが、滝の門をクリアするための大きな一歩だとミキは思った。となれば、早くここを抜け出さないと。

 

(こうなったら、一か八かね……)

 

 ミキは杖を構え、大きく深呼吸した。

 

 その呪文は、天も地も見境なく罰する神の怒り、空の怒り。一瞬の轟きのあと、跡形もなく降り注ぐ。全てのものが破壊され尽くすまで。

 そんな呪文を胃袋の中で唱えれば、何が起こるかは誰にも予想はつかないが、賭けに出るなら思い切ったほうがいい、とミキは思った。

 

 そしてミキは呪文を唱えた。

 「……イガンダルス!!」

 

 すると、ミキの頭上を中心に大きくどす黒い暗雲が立ち込める。ピシピシ、ミシミシ、と今にも嫌な予感をさせる雲が胃袋中を駆け巡り、ついにとてつもなく大きな一発が大きな轟音と目を眩ます閃光を放った。


 

 ◆

 

 

 コウは、イリニヤさんから託されたグラディエーター剣を手に持ち、機会を窺っていた。あの金色の鯉にいつ一撃をお見舞いしてやろうかと。一撃で決めるのなら、イリニヤさんからしっかりと教えてもらった剣に炎を纏わせる技を確実に決めなくてはならない。

 

 コウの心臓は今にも爆発しそうなほど激しく動く。

 そして、コウは剣を持つ手に力を込める。自身の魔力を剣に集中させ――。

 

 突然轟音が響いた。その轟音と同時にあの巨大な金色の鯉は空高く飛び上がったのだった。

 

 何が起こったのかを確認する暇などなく、そこら中に水しぶきや大波が押し寄せ、コウは危うく巻き込まれるところだった。なんとか岩陰に逃げ、難を逃れたが、今度は大きな金色の鯉の体がコウの元へ落ちてくる。鯉の体の落下地点から出来る限り離れ、なんとか下敷きにならずに済んだ。

 

 すると今度は、黒い小さな影が滝つぼへ落ちていくのが見えた。どうやら鯉の口から吐き出されたらしいが……? また何か怪しい魔法生物か? と思ったその時だった。

 

 「ミキじゃないか!」

 その存在に気づいた瞬間、コウの口からその言葉が発せられていた。

 大きな金色の鯉の口から出てきたのは、ミキだった。しかも生きてる!

 

 「ミキ! 大丈夫?」

 滝つぼの中央からこちらへ泳いでくるミキへコウは声をかけた。

 

 「ハァハァ……だ、大丈夫!」

 そしてミキはゆっくりと岸へたどり着いた。

 

 「よかった。無事だったんだね?」

 コウはミキを岸へ引き上げながら聞く。

 

 「うん。なんとか……」ミキは洗浄の魔法で全身を綺麗にしながら、

 「――あっ! そうだ! 鍵見つけたの!」

 

 「鍵?」

 「うん。あの鯉の胃袋の中にあったの」

 

 そう言うとミキはコウの手にあの金色の鍵を渡した。

 コウは一瞬拍子抜けたような顔をし、鍵を受け取った。

 

 鍵は金色で細長く、これといって特徴のないどこにでもある金属製の鍵だった。これが出口の鍵なのかはわからないが、何かの手がかりであることは確かだ。

 

 コウはミキから受け取った鍵をサコッシュへ仕舞い、ミキの顔を改めて見ると、突然吹き出し、笑い始めた。

 

 「えっ? 何? 顔に何かついてる?」

 ミキは、突然笑い始めたコウに驚き、自身の顔に触れる。

 

 「ううん。丸飲みされたのに鍵を見つけてきて怪我の功名というか、すごいなって……」

 コウはまたクスクスと笑う。

 

 「そんなに笑わないでよ~」

 ミキはそんなコウを見てふくれっ面になった。

 

 大きな金色の鯉はまだピクピクとしている。ミキの雷呪文――それも最大の――を胃袋の中で喰らってか、意識はまだ戻っていないようだが、まだ死んでいないあたりさすがこの門に住む魔物だと言ったところだ。

 

 コウはミキの体をよく確認したあと、怪我はないか聞いた。どこか溶けたりしていないかも確認したが、全身や服が少しベタついてはいたが、怪我などはなさそうだった。

 

「あの大きな鯉が意識を戻す前にここを抜けよう。せっかく鍵も手に入ったんだし」

「そうだね……。でも、出口はどこなんだろう?」

 

 二人が周辺を見ていると、滝つぼにいる小さな金色の鯉の一匹がはねた。ポチャンと音を立てたかと思うと、別の一匹がまた同じようにはねた。そしてまた別の一匹がはね、今度は別の二匹が同時に……とどんどんその数は増えていき、小さな金色の鯉たちは群れをなし、大きな金色の大波となって、滝つぼをグルグルと周りはじめた。その群れが作る渦はキラキラと黄金に輝き、眩しいほどだ。群れの作った渦の中心に空間が出来た。滝つぼの底をよく見ると、そこには大きな穴と金属でできた扉が見えた。出口だ!

 

「ミキ! あれ、出口だよ!」

 コウは出口の門を指さし、ミキに叫ぶように言う。

 

「ほんとだ! すぐ行こう!」

 ミキはそう言うと、トンガリ帽子から箒を取り出した。少しピンク掛かった持ち柄と穂先に、ブルーの箒用腰かけ座布団がついたものだ。

 

 ミキはそれに跨ったあと、コウに後ろに乗るよう促した。

 「二人乗りは上級生になってからなんだけど……今ならいいよね!」

 ミキはそう言ったあと、地面を軽く蹴った。そして箒は宙に浮き、ゆっくりと滝つぼの底を目指し降下していった。

 

 渦の中央あたりにきたとき、コウは上を見上げた。あれだけ広かった青空が円形に小さくなっていく。小さな円形になった青空を囲い込むように金色の渦が回り続ける。自分たちが降下してくにつれ、円形の空は米粒ほどになった。

 

 「着いたよ!」

 ミキに言われ、コウは地面へ先に下りた。

 「ありがとう、ミキ!」

 どういたしまして、とミキは答えながら箒を降りたあとトンガリ帽子へ箒を片づけた。

 

 大穴には観音開きの銅製の扉があった。少し青錆びがにじみ出た扉で、重厚感があった。

 

 コウは、サコッシュへ入れていた金色の鍵を取り出し、扉の鍵穴へ差し込んだ。ゆっくりと回すとガチャリと音がなる。鍵はやはりこの門の物だったらしい。

 

 「開いたみたいだ! 中に入ろう!」

 コウがそう言ったとき、ミキは唇に人差し指を当て、シーッと言った。静かにしろという合図だ。

 

 「……何か聞こえない?」

 「何かって何?」

 「ゴゴゴゴーって……」

 

 コウはよく耳を澄ました。ミキの言う通り、確かにゴゴゴ……と鈍い音が聞こえる。音がする方向は自分たちの上からだ。

 そして、二人はお互いの顔を見たあと、頭上を見上げた。音の正体はすぐにわかった。金色の鯉たちが作っていた渦が、まるで崩れる山のように大きな音を立てながら崩壊していく音だった。

 

「まずい! 渦が! ――ミキ! すぐ中へ!」

「うん!」

 

 コウはそう言ってミキを先に出口の中へ入れようと扉を開けようとしたが何故か開かない。力づくで押したり引いたりしたが、扉はびくともしない。鍵は開いているはずなのに。

 

 「どうして開かないんだ、こんなときに!!」

 「扉が錆びついてるのよ! ちょっとコウ! 離れてて!」

 

 渦は徐々に収まっていき、渦の中にできた空間に水が元通りになろうとどんどん崩れていく。空が見えていた円形の穴はもう見えず、水はコウたちのいる場所に轟音を鳴らしながら押し寄せてくる。

 

 「ミキ! 早く!」

 

 ミキは杖を構え、ふーっと深呼吸をしたあと、呪文を唱えた。

 「ル・エンクスレート!」

 

 ミキの呪文に反応してか、銅製の扉の錆びは見る見るうちに綺麗に取り除かれ、扉が開いた。

 

 「やっと開いた!」

 「急ごう!」

 

 二人は急いで中へ入り、銅製の重い扉を閉めた。扉が閉まった瞬間、ゴォン!と物凄い音と衝撃が伝わってきた。水が自分たちの居た場所に押し寄せてきた音らしい。あと一秒でも遅れていたら……。

 

 「よかった……ギリギリ……」

 二人はホッとため息をついた。安泰のため息だ。

 

 「これでクリア……なんだよね?」

 「たぶん……」

 

 二人は立ち上がり歩き始めた。松明が壁にかけられたあの通路を。コツコツを足音を鳴らし、先へ進む。

 すると、目の前からザーッという音が聞こえてきた。

 

 「また滝?」

 「だとしたら来た道を戻ってきてしまったのかな……」

 

 二人は確かめるような足取りでその音のほうへ歩いていく。一歩、また一歩、音のほうへ近づく。通路の先からは小さな白い光が見える。光は揺れていて、その先に何があるのかはよく確認できない。また一歩、またまた一歩。近づくたびに音は大きくなる。だが、大きくはなるがどこか心地よい音に聞こえる。水がザーッと流れていて、嫌にならない音。この音はどこかで聞いた。学校? ミキの家? バーオボ? いや、今日の朝だ。そう。そうだ。この音は滝の門の音。あの水が流れている扉の音だ。

 

 二人はそのことに気づいたとき、走り出していた。水が流れる扉に一直線。そして、二人は一気にその門をくぐり抜けた。

 体は水でびしょびしょ。周囲にいる観光客や攻略者にジロジロと見られたが、そんな視線など気にせず、二人は場所を確認した。

 

 「……やった! やったよミキ! 門の塔だ!」

 「クリアだよね?」

 「そのはずだよ!」

 

 コウはそう言いながら、魔法サコッシュからマップを取り出した。濡れた手で開き、”滝の門”と記された場所を確認する。そこには星マークが記されていた。クリアの証だ。

 

 二人はその証を確認したあと、顔を向き合わせ、その場で高らかに飛び上がった。まるで足にバネをつけたウサギのようにピョンピョンと飛び踊った。

 滝の風景に、金色の大小の鯉、金色の鯉たちによって作られた渦の中を降下。滝の門での出来事は二人にとってまた思い出の一ページとなった。

2025年も残りあとわずかですが、ありがとうございました。


次回は2026年1月9日に投稿します。

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