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門の塔(改稿版)  作者: 烏鷹ヒロ
第1章
20/25

第9話ー2 入塔

 「イリーカからバスが出てるんだよね?」

 「うん。中央街行きのバスが出てるって聞いたよ」

 

 コウとミキは話しながら先を進む。

 

 聖地テルパーノの中心にある門の塔へ行くには、港町イリーカから出ている有料のバスに乗ればすぐに着くのだ。

 

 「久しぶりに中央街に行くな~。お姉ちゃんが好きだったカフェまだあるかな?」

 「カフェ?」

 「うん。”星の人魚”ってカフェ。タピオカミルクティーが有名なの」

 

 ”星の人魚”? タピオカミルクティー? 何か特別なミルクティーだろうか?

 少し流行りに疎いコウは、何の事やらさっぱりだった。

 

 二人は18番通りから中央広場へと入る。するとそこに二つの人影があった。

 

 「リルとマワ!」

 ミキがその二つの人影を見るや、すぐに大声でその名を呼んだ。ミキの同級生で友人の、運動が得意なリルと占いが得意なマワだ。

 

 「どうしてここに?」

 

 「今日入塔するって聞いてね。リルも呼んでここで待ってたのさ」

 マワはミキの問いに答える。

 

 「中へ入ったら当分会えないでしょ? だから……」

 リルはミキを抱きしめ、「本当に……無事に帰ってきてね」

 

 「ミキは、二人なら大丈夫さ、きっと」

 

 マワはそう言ってコウを見る。コウはその言葉に答えるように力強く頷いた。

 

 リルとマワと別れ、コウとミキは中央広場から7番通りを進み、港町イリーカへやってきた。

 

 聖地テルパーノへやってきた初日にコウが入国審査を受けた入国管理局より少し北に、大きなロータリーがある。ここには鳥車やタクシー、バスが客を拾うため停車している。早朝でまだ人は少ないが、もうじき通勤通学ラッシュの時間帯になる。その時間まで鳥車やタクシーたちはロータリーで待機しているらしかった。

 

 コウたちは、そのうちの緑色の車体のバスを見つけ、それに乗り込んだ。バスの中はコウたちの他には運転手と添乗員以外にはいなかった。

 

 「中央街テルパーノ行き、出発します」

 

 添乗員の男性が傍に備え付けられた伝声管と通してそう言うと、チリンチリン、と発車を知らせるベルが鳴り、バスはすぐに発車した。

 

 コウとミキは最後尾の長い席へ急いで座った。荷物が少ないため、とてもゆったりと座れる。魔法サコッシュ様々だ。

 

 バスはイリーカから北へ向かう道を進む。少し新しい街並みにはオシャレなカフェやマーケット、何かの道具の店や服屋さんなど様々な店が軒を連ねている。ときどきすれ違うタクシーや鳥車には誰がどんな目的で乗っているのだろう、と想像するのがとても楽しい。街の建物が古風な見た目になったかと思うと、今度は古びた書店や杖屋、魔法使いのための店などが増えてきた。中央に進めば進むほど、魔法使いの数も増えているような気がした。

 

 「まもなく、中央街テルパーノ、中央街テルパーノです」

 

 伝声管からそう聞こえ、二人はすぐに降りる準備をする。

 

 もうすぐ着くのだ。コウの心臓は少し跳ね上がる。緊張でも高揚でもない、なんとも言えない感覚。コウは少し深呼吸をして落ち着かせた。

 

 ものの5分ほどでバスは停留所に停まった。二人は料金を添乗員の男性に手渡し、バスを降りた。

 

 中央街テルパーノ……。聖地テルパーノの中心にある街で、聖地テルパーノの首都。門の塔を中心に円状に広がっている街だ。省庁など国営に携わる全ての期間がこの街に集約されている。さすが世界でも有数の大都市だ。

 

 二人はさっそく門の塔へ行くことにした。今いる場所は、門の塔から南の位置。このまま大通りを北へ進めば門の塔まですぐだ。

 

 コウとミキは、目の前の歪な白く長い門の塔を見上げる。

 

 遠くから見ていたときは想像できなかったが、思っていたよりも大きい。長さではなく、建物の太さのことだ。全周はどのくらいなのだろうか。天にまで届くと言われている塔ならこれくらいの太さがないと耐えきれないと言われればそうなのだが、それでもかなりの太さだ。

 

 「本当に大きいね……」ミキはボソリと言う。

 「私たちこれを上るんだよね……」

 

 青空を一刀両断するように聳え立つ門の塔……。その階数を想像しただけで、コウは絶望しそうになった。

 こういうときは変なことを想像しないほうがいい。コウは自分にそう言い聞かせ、ミキに先を急ごう、と催促した。

 

 二人は大通りを北へと進む。

 

 この大通りは通称”4番通り”と呼ばれており、数多くの観光客が行き交うので、お土産屋やちょっとした道具屋、飲食店などが軒を連ねる。建国した当初からある建物を再利用しているためか、門の塔をバックに映える古風な街並みがとても人気なのだと言う。

 

 ときどき変わった店やちょっと気になる食べ物を売っている店があり、誘惑に負けてしまいそうになるが、自分は攻略者なのだ! と言い聞かせ、歩を進める。ミキも、何か変わった植物を取り扱っている店をじっと見ていたが、すぐに目をそらしていた。4番通りは誘惑が多い、とミキも思っていることだろう。

 

 「聞いてくれよ! 警察なんだろ? 荷物がないんだ! さっきまで持っていたのに!」

 何か男性が警察官へ必死に訴えかけている。人目も気にせず大声で叫んでいるのでとても目立っている。一体何かあったのだろうか?

 

 コウがその男性のことを注視していると、ミキが耳打ちをしてきた。

 「荷物盗られちゃったのかも……。この辺り、観光客を狙った泥棒が多いの」

 

 観光地あるあると言ったところだろうか。やはり、できるだけ荷物を少なく、盗られにくいカバンを選ぶべきなのだろう。ダミアンさんが売ってくれた魔法サコッシュにして本当によかった、とコウは心から思った。

 

 警察官へ必死に訴えている男性を横目に、コウとミキは4番通りを進んでいき、とうとう門の塔の入り口の目の前までやってきた。

 

 二人の周囲には、団体や一人で来たらしい人などが門の塔を見上げている。「大きい」「こわい」など感想を言い合っている。誰が見ても同じ感想を持つはずだ。だって、明らかに大きくて歪な建物だ。ここにあってはいけないようで、でもそこにある。この違和感の正体がわからないのが不気味で気色が悪い。この感覚を持つことはどの人も同じなのだな、とコウは少しほっとした。

 

 「入口」と大きな魔法の看板が掲げられている。魔法の看板と言っても、深緑色のツタの植物が文字を自身で作り出した看板なのだが、そこへ二人が向かうと、そこには団体客や友人らと来たらしい人々で列ができていた。明らかに観光者ばかりなので二人が困惑していると、右の脇に小さな木の古びた看板に「攻略者用」と書かれた小さな入り口を発見した。観光者用は豪華で目立つようになっているのに対し、攻略者用はよくある家のドアのようなこじんまりとした入り口だった。

 

 二人はすぐに受付の男性へ声をかけた。頬杖をついてコクリコクリと頭を上下させていた受付の男性はすぐ目を開け、ミキの書類を手に取った。

 書類は、ミキの身分を証明する身分証明書、七日間講義の修了証明書だ。

 

 「学生さんね。はいはい」

 

 受付の男性は、適当に書類に目を通したながら適当な返事をするかのようにそう言う。そして、男性が自身の杖を振ると、男性の後ろにある棚の引き出しが開き、一枚の羊皮紙と小さな紙が飛んでくる。また男性が杖を振ると、どこかから茶色い羽の羽ペンが飛んでき、小さな紙に何かを書き記し、今度は脇に置かれた大きなハンコが宙に浮き、ドン! と鈍い音を鳴らして小さな紙に判をついた。

 

 そして、ミキに羊皮紙と小さな紙を手渡し、「これが入塔許可証ね。大事に仕舞っておいて」

 

 ミキは羊皮紙と小さな紙を受け取った。

 

 「それじゃ、血証石ある?」

 男性はミキに聞く。

 

 「はい。持ってます」

 

 ミキが急いで血証石を出す。無色透明の透き通った血証石は、日の光が反射して淡い白い光を乱反射させる。

 

 「この針で指の先を突いて」そう言って男性は先端に鋭い針が付いた器具のような物をミキに差し出し、

 「血が出てきたら、その石に垂らして。色が変わったら中に入って」

 

 ミキはそう言われ、一瞬躊躇したものの、言われた通り鋭い針が付いた器具に自身の右手人差し指を近づけ、「痛っ」と小声でそう呟いたあと、指の先から出てきた一滴の血を血証石に垂らした。

 

 血を垂らされたミキの血証石は、みるみるうちに鮮やかな青い色へと変わっていく。その青色は、まるで大海を思わせるような青だった。

 

 「わあ……色が変わった……」

 ミキはその様を見てそうボソリと呟く。

 

 コウは、早く自分の手続きを終わらせなくてはと、受付の男性に必要書類を手渡した。

 

 受付の男性は、コウから書類を受け取り、また適当に書類に目を通したあと、ミキのときと同じように「はいはい」と返事をするかのように話す。そして判が押された小さな紙と羊皮紙を渡された。

 

 「君も血証石ある?」

 「はい」

 

 コウは魔法サコッシュから血証石を取り出し、男性から渡された鋭い針が付いた器具で右手人差し指を突いた。そして、指の先から出てきた一滴の血を自身の血証石に垂らした。

 

 コウの血証石は、みるみるうちに血よりも綺麗な赤色へと変わっていく。その赤色は、燃え盛る炎を思わせるような赤だった。

 

 「すごい。僕は赤だ」

 コウは血証石をまじまじと見ながらそう言う。

 

 「人によって色が違うのかな?」

 ミキは血証石を自身のトンガリ帽子の先端に付けながら言う。

 

 「その色はな」受付の男性が新聞を開きながら、まるで独り言のように声を発する。

 「その人の魂の色って言われてる。詳しいことは知らんがな」

 

 「魂の色……」

 コウは受付の男性の言葉を聞いて復唱する。

 

 魂の色なら、自身は赤い魂なのだろうか。ほんのちょっと故郷の火の国バーオボのような色で嬉しくなる。もしも故郷を思い出したとき、この血証石を見よう。コウはそう思いながら、自身の腰に携えた杖ホルダーに血証石を取り付けた。

 

 いよいよこのときがきた。目の前に聳え立つ、この門の塔へ入るときが。

 コウはこれまでのことを思い返す。この日のためにどれだけのことをしてきたか。母さんを見つけるためなら。その思いだけで今日までやってきたのだ。

 

 「入ろうか」

 コウはミキにそう言う。

 

 「うん」

 ミキはゆっくりと頷いた。

 

 二人は木製の扉を開いて、中へ入った。

 

 中には薄暗い通路が、まるで人を招き入れるかのように伸びていた。ずっと先には小さな白い光が見える。あの先に、門の塔の1階があるのだ。

 二人はその通路を進んでいき、自身たちより大きくなった白い光をくぐり抜けた。

 

 「ここが門の塔の中……」

 コウは目の前の光景を見てボソリと呟いた。

 

 観光客や攻略者でいっぱいの円状フロア、中央に見える大きな像のある噴水、その噴水の奥にズラリと並んだ10対の門。何か豪華な装飾があるわけでもなく、そこに特別な人がいるわけでもない。だが、ここは何かが違う。一目見てそう思う光景だった。

 

 二人はまず、フロアの中央にある噴水へ近づいて行った。

 

 噴水は、直径2メートルほどある水盆の中央に水瓶を肩に抱えた女性の像あり、水瓶から女性の像を伝って水が流れ落ちていた。

 

 コウは噴水の水を手で少し掬って飲んでみた。

 美味しい。そして、不思議と力がわいてくるような感覚がした。不思議な水だ。

 

 「おっと君たち、攻略者かい?」二人の近くにいた男性が声をかけてきた。

 「その水に、入り口でもらった紙を浸けてみな」

 

 どうして二人が攻略者だと思ったのだろう、という疑問はさておき、二人はその男性に言われた通り、入り口で受け取った何も記入されていない羊皮紙を魔法サコッシュから取り出し、噴水の水に浸した。

 

 「わっ!」

 「何か浮かび上がってきた! 文字? 地図?」

 

 何も記入されていなかったはずの羊皮紙には、文字や幾何学な模様のようなものが徐々に浮かび上がってくる。ものの数秒で門の塔の1階部分のフロアマップが羊皮紙にしっかりと印字されたのだ。

 

 「なにこれ! 魔法?」

 ミキが驚いて羊皮紙の表裏を何度も見比べる。

 

 「その羊皮紙を各階の噴水の水に浸けると、その階のフロアが浮かんでくる魔法のマップなんだ。それじゃ、俺は次の門に行くから」

 男性はそう言うとすぐに去って行った。

 

 名もわからない親切な人に感謝しつつ、コウはマップに目を通した。

 

 マップには右から、草原の門、滝の門、虹の門、海の門、金の門、銀の門、魚の門、森の門、石の門、雨の門と表記されている。そして、草原の門の近くに食料棚、雨の門の近くに小窓がある。位置関係などもわかりやすくて大変便利だ。

 

 「攻略の順番ってあるのかな?」

 ミキがマップを見て聞いてくる。

 

 「マッキ先生は特にそういう話はしてなかったし、順番は気にしなくていいと思う。ミキは、どの門から行ってみたい?」

 コウはマップをサコッシュへ直しながらミキに聞いた。

 

 「うーん。行きたいとかはないし……。右から順番でいいんじゃない?」

 「それじゃあ、”草原の門”からだね」

 「うん」

 

 二人は持ち物を軽く確認したあと、水筒に噴水の水を入れ、草原の門がある場所へと向かった。

 

 一つ目の門。最初の門。果たしてどんな門なのだろう。どんな試練が待ち受けているのだろう。コウは不安と共に高揚感を覚えた。

 

 摩訶不思議の魔法の世界。新たな一歩を踏み出した二人は、草原の門を開く。

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