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門の塔(改稿版)  作者: 烏鷹ヒロ
第1章
15/25

第8話ー1 七日間講義

 アイロンをしっかりとなされたシャツへ袖を通し、ズボンを履いて、古革のベストを羽織る。机の引き出しから手鏡を取り出し、寝ぐせのついた髪を軽く整える。ベッドのシーツを整え、枕と掛け布団を元の場所へ直し、サコッシュを肩へかけた。

 

 窓から見える空は曇天模様だが、雨は降らないらしいので傘は大丈夫だろう。

 コウはドアの取っ手に手をかけ、ゆっくりと開いた。

 

 今日はなんと言っても待ちに待った”七日間講義”の初日だ。魔法学校での授業というだけでワクワクするのに、門の塔へ行くための授業となると魔法を使った授業なのか、コウの想像を遥かに逸脱した授業かもしれない。授業のことを想像するだけで興奮してしまい、昨晩はあまり眠れず、おかげで目の下に薄っすらとクマができてしまった。

 

 部屋の外から少しバタバタとした音が聞こえる。ミキも用意をしているのだろう。ほんのちょっぴりいい香りも漂ってくる。ミエさんの朝食を楽しみにしながら、コウはドアを開け一階へ降りた。

 

 「あれ? ミキは?」

 朝食を食卓に並べ終えたミエさんが、コウの姿を見て問いかける。

 

 「あれ? てっきり起きてきているものだと……」

 コウは少し戸惑いながら返事をする。

 

 すると、階段からトントンと足音が聞こえて来た。だが、この音の感じだとミキではない。

 

 「ミキならまだ起きてないっぽいよ~」

 眠そうに目を擦りながら、ミナさんがそう言う。

 

 「あの子ったら……。昨日は門の塔に行くだのって張り切ってたのに!」

 

 ミエさんはそう言って、手にお玉とフライパンを持ったまま二階へと上がり、カンカンカン! と甲高い音をミキの部屋の前で響かせた。その音は、一階にいるコウとミナさんの耳もつんざくような音で、二人は自身の耳を塞がなければならないほどだった。

 

 「ミキ! いい加減起きなさい! 遅刻しちまうよ!」

 ミエさんがそう大声で言うと、ミキの部屋のドアが開く。

 

 「わかってるってば! てか、もう起きてるから!」

 身支度を終えたらしいミキがそう言って、急いで一階へ降りてくる。

 

 「あんたが遅いから心配したんだよ」

 「ちょっと前髪が決まらなかっただけじゃん!」

 

 ミキとミエさんが食卓についたのを見て、コウとミナさんも食卓に座る。

 みんなそれぞれ「いただきます」と言って手を合わせたあと、朝食を食べ始めた。

 

 今日から七日間講義が始まるため、コウとミキの昼食はいらない節をミエさんに伝えると、ミナさんが「私も食堂で食べた~い」なんて小言を挟む。それに対し、「学生だけだよ~」とミキが答えた。

 

 その光景を見てコウは、なんとも賑やかな朝だなと、少しだけ微笑んだ。

 

 朝食を終えたコウとミキは、すぐにアミマド屋を出てレウテーニャ魔法大学校へと向かった。

 曇天の空には箒に乗った魔法使いが飛び交い、18番通りに軒を連ねる店は、今から開店準備に取り掛かろうとしている店ばかりだった。コウとミキと同様、これから一日が始まる。空が曇っていようといまいと、人々は一日を始めようとする。だが、コウとミキだけは、少しだけいつもと違う一日が始まろうとしていた。

 

 まず二人は通学路の途中にあるツバメ郵便の赤いポストへ向かった。コウはポストへ封筒を投函する。昨夜書いた父カッシオへの手紙だ。七日間講義をレウテーニャ魔法大学校で受講すること、たくさんの魔法に毎日ワクワクしていること、自身の杖を買ったこと、そして最後に感謝の言葉を綴った。

 父にはたくさん心配かけていることを、コウはわかっているようでわかっていなかった。そのことを、昨夜のミエさんを見て初めて気づいたことに、コウは自身に苛立ちのようなものを覚える。ちょっとでも、父さんの気が楽になれば……。今はこうして手紙を書くことでしかその気持ちを伝えることができないが、今はそれでいい。それでいいのだ。

 

 コウは、一日でも数分でも早く手紙が届くことを祈った。

 

 「あれ? ミキ?」

 レウテーニャ魔法大学校への道のりを歩いていると、ミキを呼ぶ声が背後から聞こえた。

 

 「あ! リル!」

 ミキが振り向くと、そこにはミキと同じ制服とローブに身を包んだ少女が立っていた。

 

 「帰ってきてたんだ! 試合どうだったの?」

 「負けちゃった。でもいい経験になったよ。――てか、この子だれ? ミキの友達?」

 その少女は、コウを見るやそう尋ねる。

 

 「あ、リルは初めてだよね。紹介するね! この子はコウ! 私と一緒に門の塔へ行く同行者なの」

 「コウ・レオーニです。よろしく」

 コウは右手を差し出すと、その少女は手を掴んで、

 「初めまして。リル・サヴァールです」

 と少女は自身の名を名乗った。

 

 ベリーショートにした赤い髪に、真っ白な肌に鼻根や頬にはソバカス、くっきり二重でまつ毛が長く、グリーンの明るい目が印象に残る。

 

 「てか、ミキ。門の塔へ行くってどういうこと? 事態が把握できないんだけど……」

 リルは驚いたように目を開いてミキに聞く。

 

 「あ、えっと……。ちょっと色々訳があって……」

 コウとミキは、門の塔へ行くことになった経緯を簡潔にリルへ説明した。

 

 「なるほど……。コウくんはお母さんを、ミキはガロを探すために門の塔に」

 「うん! もうママにも許可は取ったし、学校も休学することにしたの。何が起こるかわからないけど……頑張ってガロを見つけて戻ってくるから心配しないで!」

 ミキがそう言うと、リルは明るいグリーンの目をキラキラと輝かせ、ミキの手を握る。

 「うん! わかった! ミキのこともコウくんのことも応援してる! 絶対帰ってきてね!」

 リルはなんと素直で真っ直ぐな子なのだろう。裏表が絶対にないのが、その表情や声色からも伝わってくる。

 

 そして、二人の友情にもコウは感心してしまった。友達っていいなあ……。

 

 先を歩くミキとリルの後ろについて歩いていると、コウはリルが手に持った何やら長い道具のような物が気になった。見た所魔法で使う杖ではないようで、約1メートルはある木の棒の先端にはボールか何かを収めるためのネットがついている。

 

 「あ、これ気になるよね。魔法ラクロスの道具なんだ」

 リルはコウの目線に気づいて教えてくれた。

 

 「魔法ラクロス?」

 

 「うん。魔法を使ったラクロス。私、魔法ラクロス部なんだ」

 リルは優しい声色でそう言う。

 

 「リルってすごいんだよ! 魔法ラクロスの強化選手に弱冠13歳で抜擢されたの!」

 ミキは自信満々にそう言う。

 

 「私なんて……! まだ入ったばかりで補欠なのに」

 リルは困り顔で謙遜する。

 

 「その……魔法ラクロスがどういったものなのかわからないけど、すごいね!」

 コウはなんとか頑張って褒める。

 

 「あれ? コウ、魔法ラクロス知らない?」

 魔法ラクロス? なんだそれは……!

 コウは、聞いたことがない、と首を横に振った。

 

 なんでも、ラクロスという両チーム10人ずつのプレーヤーでボールをゴールに入れた点数を競う競技があるらしく、聖地テルパーノではラクロスにこれまた魔法を使って行うスポーツが盛んなのだという。男子と女子でルールが違うのも見どころで、特に女子競技ではフィールドの往来や魔法の使用に自由があり、その自由度も楽しめるのだそうだ。

 

 ミキがリルのことをこれでもか! というほど褒めるからか、リルはそのソバカスの目立つ白い肌が少しピンク色になっていく。そして、照れながらもリルは謙遜する。それでもミキがどんどん褒める。もうミキの褒め合戦となっていた。

 

 コウにとって、魔法が使えるだけでもすごいことなのにスポーツをしながら魔法を使って……! まさに異次元の領域のように思えた。

 

 3人がレウテーニャ魔法大学校近くの通りへ入ったときのことだった。

 

 何やら遠くに男子生徒6人ほどの集団がおり、みんな黒いローブに身を包んでいるため、コウの目にはカッコイイ集団に映った。だが、そのカッコイイという感情もすぐに崩れ去ることになる。

 

 その男性生徒の集団がミキの姿を見たとたん、ある一人の中心人物らしき男子に肘打ちをし、ミキを指さす。そして、その中心人物の男子が、まるでミキとリルとコウに聞こえるかのようにこう言った。

 

 「出た~! ”変異”だ~」

 

 ”変異”? 何のことだろう?

 コウにはその意味がわからず、疑問符を浮かべた顔をしていると、リルがミキの肩を抱いてこう言った。

 「……ミキ、行こう。コウくんも。早く学校に」

 コウはそう言われ、二人のあとを速足でついていった。

 

 レウテーニャ魔法大学校の校門がすぐ傍まで近づいてきたとき、あの集団がいなくなったのを確認して、コウは二人に質問した。

 

 「あの、ごめん。さっきの集団が言ってた”変異”って何? あんまりいい意味じゃないのはなんとなくわかるんだけど……」

 「ああ……えっと――」

 「私みたいな人のことを言うんだよ」

 ミキがリルの言葉を遮るようにハッキリと言う。

 

 ”変異”とは、魔法を使えない非使者同士の間に生まれた使者のことを嘲笑ってそう呼ぶ蔑称のことだと二人は教えてくれた。今の時代ではあまり使われなくなった言葉だが、一部の古い考えの使者の間ではまだ使われており、未だ学生間でもイジメの原因になっているのだそうだ。

 

 今までバーオボに住んでいたコウにとって、とてつもなく嫌な考え方だと思った。両親が使者同士かどうかで優劣を決めたところで、どんぐりの背比べにしかならないのでは? 片方が使者でも同じように言うのだろうか? そして、両親が使者でも魔力が弱い者もいれば、両親が非使者でもミキのように優秀な魔女だって存在する。結局は本人の努力や才能次第なのでは?

 そう考えていくうちに、コウは先ほどの集団に対する怒りが込み上げてきた。

 

 「たぶんね、ミキに嫉妬してるんだよ。ミキ、学年でもトップの成績だから。魔法も勉強も」

 リルは友人を讃えるように言う。コウも、そう思う、とリルの意見を賛同する意味で頭を縦にブンブンと振る。

 

 「……ありがとう。リル」

 「うん。私は絶対にミキの味方だからね」

 

 そうだ。ミキにはリルやマワ、そしてコウがいるし、何より家族もいる。こうして味方がたくさんいるのだ。変な集団の言葉に惑わされてはいけない。そして惑わされないよう、友人であるコウたちが傍にいることが彼女の支えになる。コウは決してミキの友情を裏切るようなことはしない、とこのとき誓った。

 

 そして3人はレウテーニャ魔法大学校の校門から中へ入り、コウとミキは西棟へ、リルは東棟へ行くためその場で別れた。

 

 別れ際、リルはコウに耳打ちをしてきた。

 「ミキ、ちょっと頑固なところあるけど、いい子だから優しくしてあげてね」

 傍にいる人たちから見たミキの共通認識は「頑固」なのだな……。コウはそう思いながら、うん、と返事をした。

 

 「何話してたの?」

 リルと別れたあと、ミキがタイミングを見計らって聞いてくる。

 

 「ナイショだよ」

 コウはミキを揶揄うように返した。

 ミキは「やだ! 教えてよ!」と憤慨したが、たぶん言わないほうがリルとコウにとっていいだろう、と黙っておくことにした。

 

 二人は、事前に指定されていた西棟の2階のA教室へやってきた。

 

 少し古い校舎に、古い壁掛けのランプ、花をイメージしたステンドグラスは曇天の隙間から漏れ出した朝日を受けてか淡い光で輝く。このステンドグラスも魔法がかかっているのか、時々色が変わる。今は薄い水色だが、ふと目を離した隙にピンク色に変わる。なんとも面白く、見ていて飽きない窓だ。

 

 ミキがA教室の扉に手をかけ開くと、中はこれまた古い雰囲気が漂っていた。

 

 使い古された机と椅子、少し埃っぽい空気、年季の入った黒板にはコウが見たこともない図形のようなものが白いチョークで書かれていた。呪文? 呪い? 魔術? コウには分からないが、なんとなく魔法に関することだということだけはわかった。

 

 教室の一番前のど真ん中の席に二人は並んで座った。他にも受講者はいるのだろうか……。ほんの少し緊張するようなワクワクするような、なんとも言えないソワソワとした感情をコウは覚えた。

 

 「ねえ。リルのこと、どう思った?」

 コウの考えていることなど気にもしていない様子で、ミキはコウに聞いてきた。

 

 「えっと……。とっても優しそうな子だなって。実際優しいけど」

 「そうでしょ! それでスポーツ万能で、レウテーニャのスポーツ特待なんだよ! すごくない?」

 

 特待ということは、学費免除などの待遇を受けているということだろうか? 学校からも評価されているレベルとは……。

 

 「すごい……。もうリルさんが神様みたいに思えて来たよ」

 「でしょ? 本当にすごいんだよ、リル。性格もいいしさ。なのにいつも謙遜しちゃうし、私が一番嫉妬しちゃうよ!」

 

 ミキがそう言うと、チャイムの音が聞こえて来た。そして、そのチャイムが鳴り終わるのと同時にA教室の扉が開き、コツコツとピンヒールを鳴らす音が響く。レスピナス先生の登場だ。

 

 「おはようございます。お二人ともお揃いですね」

 

 コウはこのとき、他の受講者は? と疑問符を浮かべた。他にいてもおかしくないのに。

 

 「レスピナス先生。他の受講者の方はいないのですか?」

 コウが尋ねると、レスピナス先生は右手をほんの少し上げ、口を開いた。

 

 「昨日までの申請がお二人だけでしたので、今日から七日間、お二人だけで受講していただきます。まず――」

 レスピナス先生はそう言って黒板に向かって杖を振ると、黒板消しが浮かび上がり、黒板に書かれた図形や文字を消し始めた。

 「改めて自己紹介を。私は、ナロメ・レスピナス。ここレウテーニャにて、呪文学の教鞭を取りながら、教頭としても従事しております。よろしくお願いします」

 

 二人はレスピナス先生にそう言われ、座ったまま頭を下げた。

 

 「続いて――どうぞお入りください」

 

 レスピナス先生に促され、一人の男性が教室へ入って来た。

 

 「この方はレウテーニャで歴史学の教師をしている、ナナパ・デ・マッキ先生です」

 「ど、どうも……」

 マッキ先生はそう言って軽く会釈をした。

 

 マッキ先生の印象は、いかにもオタクっぽい人で、体つきはあまり筋肉や脂肪がなくてひょろ長く、猫背で、瓶底のような眼鏡をかけている。少し荒れた手や肌、剃り残した髭が目立ち、着用しているシャツやニットの黄色いベストと茶色のスラックスは明らかに古びていていつ買ったのだろうと思うほどだ。その見た目から色々と無頓着な人なのだろう、とすぐにわかるほどだった。

 

 「七日間講義初日はマッキ先生に門の塔の歴史を教えていただきます。彼は、ただ歴史学を教えているだけでなく、独自で門の塔のことも調べてらっしゃいます。わからないことがあれば、マッキ先生に聞いてください」

 

 レスピナス先生はそう言うと、それでは私はこれで、と教室を出て行った。

 

 今日は一日座学か……。何か魔法のことを学べるかな、と内心浮かれていたが、門の塔のことを知ることも大事だ。魔法は魔法で楽しみだが、門の塔のこととなれば、コウはもっと楽しみになった。

 

 まず最初に、マッキ先生が独自で作ったという簡単な教科書が配られた。教科書と言っても、機械で装丁されたような丁寧なものではなく、物事が書かれた紙を束ねて、紐で結んでそれっぽくした先生お手製のものだ。

 

 配られたあと、コウはすぐに一ページ目を捲った。

 

 ――門の塔について――門の塔の歴史――門の塔の中――門の塔の魔力源……。

 

 次のページにも、その次のページにも文字がぎっしりと埋め尽くされている。マッキ先生は門の塔について相当な時間をかけて調べたのだろう。コウはその熱意を感じ取った。

 

 「まずは……門の塔についてお話しましょうか」

 マッキ先生はそう言うと、お手製の教科書の最初のページを捲り、自身の黄色い杖を振る。すると、白いチョークが浮かび上がり、黒板へ文字を書き始めた。

 「門の塔について――と言っても、これからあの場所へ行こうというお二人ならもうすでにご存じだとは思いますが、おさらいと思って聞いてください」

 

 マッキ先生の背後でカチカチと音を鳴らしながらチョークが動く。その音をスルーしながら、マッキ先生は教科書の内容を読み上げる。

 

 ――1ページ目、門の塔について。

 門の塔とは、聖地テルパーノの中央に建つ、謎の塔。いつごろ、誰が、何のために建てたのかは不明。その高さや階数も不明。中の門の数は年数とともに増減を繰り返しており、詳しい数はわかっていない。全てが未知で不可思議な存在である。

 この教科書では、門の塔がどんな物で、どんなに危険で、どんなに不可思議な存在かを、現在解明されている範囲で解説していく。

 

 「ページを捲ってください」

 マッキ先生はそう言いながら杖を振った。黒板に文字を書いていたチョークがゆっくりと元の位置へ戻っていった。

 

 ――2ページ目、門の塔の歴史について。

 1ページ目でも少し触れたが、建設された詳しい年代などはわかっていない。だが少なからず確証していることはある。

 人類で最初に門の塔へ入ったとされるのは、二人の男である。ガレウス・ウィニキウス・マルケルスと、ルキウス・ムキウス・ドルスース。共に魔法使いだ。だが3階でルキウスが大怪我をしたため、攻略を断念したと言われている。これが約2500年前の話だ。

 その後、門の塔は立ち入ることを禁じられる。だが、人という生き物は、禁じられるとより気になってしまう性だ。ガレウスとルキウスが入って以降、腕試しとしようと中へ入る者が幾度と現れた。魔法使いを始めとして、剣士、皇族や貴族、盗人など。だが、ほとんどの者が途中退場か、中には二度と帰らなかった者もいた。そして、最初に人類が門の塔へ入ってから約400年近く経った頃、とうとう完全攻略を成し遂げた人が現れた。

 

「――それが、かの有名な”ガルモス・ウルロー”ですね」

 マッキ先生は、眼鏡を中指でクイッと持ち上げ、杖で黒板の”ガルモス・ウルロー”と書かれた部分を指した。

 

 ――ガルモス・ウルロー。元々は、とある国の伯爵家に仕える剣士の男だったが、自身の腕を試したい、と単身門の塔へ入る。そして、20年の歳月をかけ、人類初の完全攻略を果たした。数々の逸話を残し、世界的な偉人として名高い初代聖地テルパーノの王。

 

 コウは顔を上げ黒板を見ると、黒板には虫が入る隙間もないほど文字がびっしりと書き詰められてた。その全てがガルモス・ウルローに関することで、さすがのコウも背筋に嫌な感触が走るほど引いてしまった。

 

 「ガルモス王について、この聖地テルパーノにいる国民でなら私の右に出る者はいないと自負しております。もしも、ガルモス王について何か知りたいことがあればいつでも聞いてください。3時間もあれば説明できるかと思いますので」

 マッキ先生は、この講義の時間の中で特に目をキラキラとさせながら言う。

 コウとミキは苦笑いを浮かべながら、遠慮します、と断った。

 

 教科書のガルモス・ウルローについて小さな文字でびっしりと書かれたページを捲り、次に門の塔の中や魔力源について書かれたページを開いた。

 

 ――最初のページでも少し触れたが、門の塔の中には無数の門が存在する。詳しい回数と門の数はわかっておらず、時折増減を繰り返していることから、その正確な数や門の中についての調査は約150年前に断念したのだ。というのも、政府が約10名ほどの調査隊を編成し、調査をしたが、隊の8割を失い戻って来た隊や、中には隊員全てが死亡・行方不明となる事態が起きたからだ。

 

 コウはこの項目を読んだあと、背筋に嫌な感覚が走った。政府が編成した隊のほとんどが無事で戻ってきていない……。自分たちのような未熟な子供ではなく、政府によって選ばれた精鋭の大人たちの隊がほぼ全滅するほどだ。これから二人が行く場所はそれほど厳しい場所なのだと、コウは改めて思わされた。

 

 「そして、門の塔や中の門についてですが、ここからはあくまで僕の憶測の域となりますが……」

 マッキ先生は、少し間を置いたあと、ズレた眼鏡を直し、

 「お二人は、門の塔や中の門がどうやって今の状態を数万年以上維持できているのだとか、そういったことを考えたことはありますか?」

 

 マッキ先生の質問の意味がコウは全くわからなかった。

 門の塔が今の状態を維持? 生きている生物ではないのだから意地も何もないだろう。コウはマッキ先生の質問に少し憤慨しながらも、考えたことはありません、と答えた。ミキも同じような返答をした。

 

 「そうですよね。普通はそうです」マッキ先生は教科書から視線を二人に移し、

 「ですが、よく思い出してみてください。僕たちが住む家屋や、それこそレウテーニャ魔法大学校の校舎などでもいいです。建物というものは外にあるものですから、雨風に晒される。そうすれば必ずどこかが壊れたり傷んだりするはずです。そういった箇所を普段から手入れをし、大工さんや専門の魔法使いを呼んで直してもらったり、部屋が汚れていれば掃除をする。建物は一見ただの建物ですが、人が手入れをしているからこそ、綺麗な状態を維持できるものです。ですが――あくまで僕が調べた範囲ではありますが――門の塔はそういった手入れや修復をなされた記録が全くないのです。あれだけ高い塔ですよ? 壁が崩れたり、どこか壊れたりしてもおかしくない。なのにそういった形跡もないどころか、まだまだ真っ白で真新しく見える。おかしいと思いませんか?」

 

 マッキ先生の言葉を聞いてコウは、レウテーニャ魔法大学校の屋上から見た”門の塔の姿”を思い出す。青い空を一刀両断するかのように聳え立つ白い塔。どこか古びたり崩れたりした様子もなく、その壁はどこか不自然に感じるほど真新しかった。確かに、あんなにも高い塔を誰が手入れできるのだろう。コウはここでやっと、マッキ先生の言いたいことがわかった。

 

 「まさか、”門の塔が自分で修復をしてる”って言いたいんでしょうか?」

 コウは恐る恐るマッキ先生に聞いた。

 

 「そのまさかです。じゃないと説明がつかない。僕は門の塔を調べるため、たくさんの観光者や攻略者に話を聞きました。そして、沢山の本や記録を漁り、たどり着いた答えは――」

 マッキ先生は少し言葉を詰まらせ、意を決したように口を開いた。

 「門の塔、そして中の門は、何らかの方法で魔力を吸収し、それを門の塔と門の維持をするための源にしているようなのです」

 

 「魔力源……」ミキがボソリと呟く。

 

 「その魔力源の元となっているのが、私たち”人”です」

 

 マッキ先生の言葉に、二人は背筋が凍るような感覚が走った。

ポ〇モンZAシナリオクリアしました。とっても楽しい!

(私事ですみません)

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