10.謎の少年は只者ではない
手刀を浴びせられ、意識を手放した私。
「…」
段々と意識が戻ってきて、ぼやけた視界が通常の視界に戻っていき、私は周りを見渡す。
ボロボロの壁に壊れかけの窓に床で、天井には無数の蜘蛛の巣があった。おそらくここは廃墟の家のよう。
そして私は意識が戻らない間は、ボロボロのベッドに寝かされていたよう。
どうしてここに私は連れられたのだろうか。
まさか、誰かの命令で私を連れ去るように命じられとか?
でも、私が連れ去られる理由に心当たりがない。
と色々と考えていると
「起きたか?」
扉の方から私を攫った、ローブを被った男の一人がやってきた。
私は警戒を強めながらも、目の前にいるこの男に問い詰める。
「…なぜ私をここに?」
そう言うと、男は鼻で笑いながら
「とあるお方から、大金をやるからお前を殺してくれと言われたんだよ。」と言った。
それを聞いた、私はすぐに誰が私を殺せと依頼したのか分かった。
そんなことを依頼するのはアリシア
たった一人しかいない。
ヒロインである人が悪役令嬢を亡き者にしようとするなて。
ヒロインってそんななのかしら。
いや、今はこんなこと考えている場合じゃない。
一刻も早くここから出ないと。
このままだと、私はここで人生が終わってしまう。
あいつらに裁きを下さずにこんな所で死ぬなんてあんまりよ。
私は男に視線が向いてるように見せながら、ふと壊れかけの
扉を見る。
男を退かして、素早く扉から出ることができれば…
そうと決まれば私はベッドから立ち上がる。
「あ?何立ち上がって…」
そう言っている間に私は足で強めに男のみぞおちに1発お見舞いした。
「ぐっ…!」
みぞおちに蹴りが入って男は膝から崩れ落ちる。
その隙に私は素早く、扉の方まで走って外に出た。
既に日が暮れているよう。
「早くメアリーの所に戻らないと…
あの子今心配して…」
そう言っている時に、ふと腕をグッと掴まれる。
「っ…!?」
「おいおい、どこ行くんだよ」
どうやら、彼等の手にかかっていたようだった。
私が逃げるのを予測して他2人の男が外で待機していた。
「…ったくお頭、みぞおちやられてこいつ殺せないっぽいし
もう俺らで殺すか。」
「そうだな。」
そう言って、一人が拳銃を取り出して私の胸辺りに位置を定めた。
抵抗しようとしても私の腕を掴む力が強くてできない。
殺されると感じて、額から冷や汗が流れる。
男がトリガー引こうとして、死を覚悟した。
その時、私の目の前で眩い光がさし始める。
眩しくて目をつぶる私。
けれど数秒後に光は消えて私は恐る恐る目を開ける。
目を開ければ、驚くことに1週間前にお悩み屋にやってきたあの少年がいた。
(え!?なんで彼がここに…)
彼がここにいることに驚きを隠せない私。
おそらく転移魔法を使ってここにやってきた。
けれど、彼が魔法を使うなんて…。
ただの少年とは思えない。
「な、なんだお前は…」
拳銃を持つ、男は戸惑いを隠せれていない。
そんな男に彼は膝蹴りをする。
「グゥっ…!」
膝蹴りが拳銃を持った男の顔に命中したことにより
倒れる。そして立ち上がることは無かった。
「ひぃっ…」
私の腕を掴むもう一人の男は失神した姿を見てビビり始めた。ビビっていても関係なく彼は近寄ってきて、私を男から引き離す。引き離されると彼は私を肩にに引き寄せた。
男から引き離した後、彼は今度は蹴りではなくさっき私が食らった手刀を浴びせた。
「うぁっ…!」
手刀を浴びせられたことにより倒れた。
「大丈夫?怪我はない?」
と彼に問われる
「え、ええ…」
助かったのだけれど…。
まだ彼は引き離そうとしなくて異性にあまりこういうことを
されたことがないから、緊張してしまい体温が高くなる。
体温が高くなっていくのが分かって自分から彼から離れる。
それから、私は彼に問いかける。
「どうしてここに来たの?」
そう言うと彼ははっきりと
「お悩み屋に行った時開いてなかったから街をウロウロしていたら君といつも一緒にいる子が君がいないと言っていてね。
もしかしたら誘拐されたかもしれないと言ってて。
だから僕は君がいる場所へ行く移転魔法を使ってここに来た。」
「そ、そう…。」
メアリーと彼が会わなかったら、もしかしたら私は死んでいたかもしれない。後でメアリーに感謝しないと。
それと彼にも。
「ありがとう。助けてくれて」
そう言うと、彼はキョトンした。
(私、なんか変なこと言った?)
そう思っていると彼はすぐお悩み屋にいる時のいつものにこやかな表情に戻る。
「どういたしまして。」
と言ってから指パッチンをする。
そうすると倒れ込んでいる男達は縄で縛られた。
(拘束の魔法ね…。)
白いシャツにベレー帽を被っているごく普通の少年の容姿をしているけれど、何か隠しているように見える。
やっぱりただの少年ではない。
この際だから彼に聞こうかしら。
私は彼に近づこうとしたけど…
「ね、ねぇあなたって一体…」
「ああ、お悩み屋さんの店主さんは戻った方がいいよ」
けれど、私の考えていることを読み取ったのかすぐに遮った。
「え?」
「だって、あの子今でも君を探しているんだから
心配かけすぎるのは良くないと思うよ?
後のことは僕がやっておくから。」
そう言うと私の肩にぽんと手を置いてきて何か呪文を唱えた。
「え、ちょっと…!」
私は白い光に包まれ、眩しくて私は目を閉じた。
いつも家の中に広がる木の香りと花のエッセンスの香りに気づいて目を覚ます。
気づけば私は家にいた。
メアリーはいない。おそらく私を探しているに違いない。
すると扉が開き
入ってきたのはやはりメアリーだった。
「お嬢様…!?」
私を見つけた途端、すぐ駆け寄って私を強く抱き締める。
「メ、メアリー…」
「いきなりいなくなるなんて酷いじゃあありませんかぁ…!
でも…無事で何よりですぅ…!」
と泣いて嗚咽を漏らしながらも私の安否確認ができて安心していた。
「ごめんなさいメアリー。」
そう言って私はメアリーを泣き止ませようと背中をトントンとゆっくりと叩いた。
リベルタ(主人公)は謎の少年と同じく移転魔法を使えますが
移転魔法は発動させるのにしばし時間がかかるので
主人公は使わないという判断をしました。