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7話 歩みの再会

 僕はレオさんのベッドの近くにあった椅子に座っていた。

「レオさん…僕、話したいことがたくさんあるんですよ…」

 僕は眠ったままのレオさんに話しかける。

 レオさんと離れての任務。

 ベルリンまでのローズさんとの旅。

 ベルリンでの出会い。

 話したいことは色々あった。

 僕は毎日、日が昇って沈むまでレオさんに話しかけていた。

 ローズさんも病院で治療の手伝いをしながら毎日、お見舞いに来ていた。

 ルーカスは「目を覚ましたら挨拶する」と言って、ブルガリア支部のギルド所属の覚醒者と模擬戦をしていた。

 僕はただ、レオさんが目を覚ますのを待っていた。


 僕らがソフィアに来て、1週間ほどが経った。

 僕はいつも通り、起きて病院へ向かった。

「おはようございます」

 僕は受付に向かって挨拶をする。

 そして、レオさんの病室に行く。

 いつもと変わらないが、病室のドアを開けた瞬間、いつもと違う光景が映った。

 僕はその光景を見て、涙を流しながらレオさんのところへ駆け寄った。

「…レオ…さん…おはよう…ございます」

 僕は言葉を詰まらせながら言った。

「あ…ア…ラン…」

 レオさんは僕を見て、困った表情をして言った。

 僕は泣きながらも笑顔で返事をした。

「はい!」


ーーー病室、レオ視点

 私は目を開けると知らない場所にいた。

 周りを見渡して、状況を確認した。

 その時、私は病院にいるのがわかった。

 私の寝ているベッドの横に点滴があった。

 私は体を起こすことにした。

 でも、うまくいかなかった。

 体が異様に重かった。

 それでもベッドのヘッドボードにもたれながら体を起こした。

 そんな時にドアの向こう側から足音がした。

 そして、ドアが開いた。

 そこにはアランがいた。

 アランはすぐに泣き出してしまった。

 そんなアランは私の方に駆け寄ってきた。

「…レオ…さん…おはよう…ございます」

 アランは私に泣きながら言った。

 私は言葉を返そうとして、口を開いた。

「あ…ア…ラン…」

 私は声を上手く出せなかった。

 アランは私が名前を呼んだからか「はい!」と元気よく返事をしてくれた。


 私はしばらく泣いているアランを見ていた。

「あっ、レオさんが目を覚ましたことを伝えてきます」

 アランはそう言って突然立ち上がり、病室を飛び出して行った。

 私はアランが病室から出るのを見た後、窓から見える景色を見た。

 陽光が差し込む窓から見る街並みは今まで見た中で一番美しく感じた。

 私はその景色を見て、自然に涙が流れた。

 魔王と出会って、死んだと思っていたから生きていたのが幸せに感じた。

 私は生きていたという喜びを噛み締めた後、病室を見渡した。

 私1人だけの病室、他には誰もいなかった。

 調査隊がどうなったのか、どのぐらいの時間が経ったのか気になることがたくさんあった。

 私はアランが戻ってくるのを待った。


 病室が静寂に包まれる中、だんだんと近づいてくる足音が聞こえた。

「デュランさん!」

 病室のドアが思いっきり開いたと思ったらローズさんが大きな声で言った。

「…あっ」

 私は声が出ず、入ってきた人たちを見て微笑むことしかできなかった。

「目を覚ましてくれてよかったです」

 ローズさんがベッドの横に来て、涙を流して言った。

 そんな時にアランが入ってきた。

「レオさんが目を覚ましたことを受付に言って来ました。すぐに担当の方が確認に来るそうです」

 アランが元気にそして、満面の笑みで言った。

 私はその言葉に頷いてアランを手招きした。

 アランは不思議そうに首を傾げたが私の隣に来た。

 私はアランとローズさんに向けて手を広げた。

 アランとローズさんはそれに答えて2人とも手を広げて3人で抱きしめあった。


 抱き合うのをやめた頃に担当医が来た。

「デュランさん、体調はどうですか?」

 医師は部屋に入りながら聞いて来た。

「…は…い、だ…だいじょう…ぶです」

 私は言葉が途切れ途切れになりながらも答えた。

「身体は回復魔法使いが治療したのでリハビリをすれば問題なく動けるようになるでしょう」

 医師は入口のところに立ちながら何かを書いていた。

「あ…あの…わた…しはどの…くらい…」

 私は医師に聞きたいことを聞こうとした。

「デュランさんは2ヶ月近く眠っておられました」

 医師は私の聞きたいことを察してか、言葉を遮って答えた。

「に…2かげ…つ…」

 私は2ヶ月眠っていたことに驚きを隠せなかった。

 病室はしばらく静寂に包まれた。

「明日からリハビリを始めますか?」

 そんな中、医師が私に聞いて来た。

「…は…はい。あ、明日から…おねが…します」

 私は医師に向かって前のめりに答えた。

「わかりました。では、明日からリハビリを行うということで今日はゆっくりしてください」

 医師はそう言って病室を後にした。


「レオさん、明日から頑張ってください。僕は今まで通り毎日来ます」

 アランは私の方を見て、力強く言った。

「私もできるだけ様子を見に行きます」

 ローズさんは両手でガッツポーズをしながら言った。

「う…ん、がん…ばるね」

 私は2人の気迫に少し困惑して返した。

「今日は会話がスムーズにできるように話をしましょう」

 アランが元気に言った。

 アランは何故かワクワクしているみたいだった。

「…そぅ…だね」

 私は少し呆れたような声で言った。

「すみません、私は病院の手伝いがまだあるので…」

 ローズさんは落ち込んだ声で言う。

「ローズさん、頑張ってください」

「がんば…てくだ…さい」

 私とアランがそう言うとローズさんは一礼をして、病室を後にした。


「レオさん、聞いてくださいよ。僕、成長しました」

 アランが目を輝かせながら、話を始めた。

「そう…きか…せてくれ」

「はい!」

 私はそう言って、アランは元気に返事をした。

 そうして、アランの話が始まる。

「レオさんの知っての通り、ローズさんと2人旅だったんです。最初は予定よりも少し遅れながらも順調に行ってたんです」

「へぇ〜、それは…ょかったね」

「はい、最初はよかったんです。でもライン川手前で大雨に降られたんですよ。その時は不安が大きくなりました」

「だいじょ…ぅぶだった?」

「ローズさんと2人だったおかげかわからないですけど、大丈夫でした。1人だったら不安に押し潰されたかもしれません」

 私はアランの話に相槌を打ちながら聞いていた。

 アランは話をしている時は終始笑顔が絶えなかった。

 そんなアランを見て、私も終始笑顔になってしまっていた。

「……?レオさん、聞いてますか?その時にルーカスがですね……」

 そうして時間が過ぎていき、窓から差し込む光が淡いオレンジ色になっていた。

「もう、こんな時間か」

 アランは落ち込んでいた。

「そうだね…また…明日、続き…聞かせてくれ」

 私はアランの方に手を置きながら言った。

「はい!明日はレオさんの話も聞かせてくださいね!」

 アランは椅子から勢いよく立ち上がりながら言った。

「では、また明日来ますね」

 アランはそう言って、ドアへと向かう。

 そんな時にドアが開いて、ローズさんが入って来た。

「…そろそろ時間なのでアランさんを迎えに来ました」

 ローズさんは病室に入って、一呼吸おいてから言った。

「あっ、はい。僕もそろそろ帰ろうと思っていたところなので…」

 アランはそう言って、ローズさんのところまで歩いて行く。

「では、レオさん、また明日、たくさん話しましょう」

「それではデュランさん、また明日来ますね」

 2人はそう言って病室を後にした。

「う…ん、また…明日」

 私はそう言って、2人を見送った。


 次の日、日が昇り始めた頃に病室に医師が入って来た。

「おはよ…ぉございます」

「おはようございます、デュランさん。昨日に比べてだいぶ話せるようになりましたね」

 私と医師は軽く挨拶をして、今日の体調を確認された。

「体調は問題なさそうですね。今日は予定通り、リハビリを始めていいですか?」

「はい、今日から…リハビリ…おねが…いします」

 私は起き上がりそう言って、ベッドに腰掛けた。

「あっ、すみません。車椅子をお持ちしますので少々お待ちください」

 医師はそうして、病室を後にしようとした。

「あの…聞きたい…ことが…」

「なんでしょうか?」

 医師は足を止めて私の方へ振り向いた。

「…調査…隊の私…以外のメンバー…はどうな‥りましたか…」

 私の質問にわずかな沈黙のあとに医師が答えてくれた。

「デュランさん以外は2人が死亡が確認されていて、残りの2人は行方不明です」

「…そう…ですか」

 そう言って目を伏せて黙り込んでしまった。

 私は無力感を覚えた。

「死亡者と行方不明者の名前を聞きますか?」

 医師は一呼吸をおいて、恐る恐る聞いて来た。

「お…おね…がい…します」

 私は言葉を詰まらせながら言った。

「死亡者はダヴィッド・ローランさんとリリー・スミスさんです。2人は遺体が見つかって、ここソフィアで供養しました」

「そう…ですか。行方…不明はトムと…マーガレットですか…」

「はい、トム・マルタンさんとマーガレット・ブラウンさんが未だ行方不明です」

 その会話の後はしばらく沈黙が続いた。

「あの、私は車椅子を取ってきます」

 医師はそう言って足早に病室を後にした。


 私はただただ無力感を感じていた。

 私、1人だけが生き残ったことに申し訳なさもあったが生きていることの喜びもあった。

 その時の私は魔王と4人のことを考えていた。

 私は魔王の攻撃の時に風を纏ったことで生き延びることができた。

 リリーとローランさんは私の後ろにいた。

 私が風を纏っていたことで後ろの2人は遺体が残るほどに魔王の攻撃の威力は落ちたのだろう。

 トムとマーガレットは私の前にいた。

 2人は魔王の攻撃が直撃したのだろう。

 遺体が残らないほどの威力であったとしか考えられない。

 私はこの時、怖いくらいに冷静に分析をしていた。

 そんな中、アランが病室へと入って来た。


「レオさん!おはようございます」

「…おぉ、あ…アラン。おは…よう」

 アランは車椅子を持って来ていた。

「車…椅子」

「あぁ〜、さっき医師とすれ違った時に持っていってくれって頼まれたんです」

 アランはそう言いながら車椅子を私の隣に用意した。

「さぁ、乗ってください。僕がリハビリ用の部屋まで押していきます」

「あ…あぁ」

 アランは車椅子に乗るようにせかした。

 私はその状況に少し困惑しながらアランの言われた通りにした。

「レオさん、頑張ってください。僕はなんでも手伝いますから」

 アランは私の乗る車椅子を押しながら、元気に言った。

「あぁ…頼らせて…もらうよ」

 そんなちょっとした会話をしながらリハビリ用の部屋まで向かった。

「あっ…昨日、帰った後にフランスの本部にレオさんが目を覚ましたこと伝える手紙を出しました」

 リハビリ用の部屋の前に来た時にアランが思い出したように言った。

 私はそのことには頷くことしかしなかった。


 そうして、私はリハビリを始めることになった。

 最初は支えられながら立ち上がることから始まった。

 私はリハビリを軽く見ていたことを痛感した。

 すぐに支えがなくても歩けるようになると思っていた。

 だが、支えなしで立つことができるようになるまでに2週間近くが過ぎていた。

「やっ…やっと、立てた」

 私はつい喜んで大きめな声を出した。

「おめでとうございます!レオさんよかったですね!」

 アランは私以上に喜んでくれた。

 自分1人で立てるようになった私は次に歩けるようにリハビリを始めた。

 私は平行棒を支えにしながら歩き始める。

 最初は歩き方を思い出すまで違和感しかなかった。

 だが、一歩一歩、順調に進むことができた。

 支えなしで立ち上がるのに2週間近くかけたけど、支えありで歩くのは数日で問題なくできるようになった。

 そうして、私は支えを少しずつ無くして、歩く練習に入ることになった。

 その時もアランは自分のことのように喜んでくれた。

 私はそんなアランを見て、喜んでいた。

 支えなしでの歩行は難しかった。

 支えを平行棒から一本減らしただけでもバランスを崩しやすくなった。

 それでも、アランとローズさんが顔を出して、応援してくれたことで私は諦めずに続けることができた。

 支えなしで歩けるようになったのはリハビリを始めてから1ヶ月程度経った頃だった。

 リハビリを手伝ってくれた病院の人たちは私の回復力に驚いていた。

 私は少しぎこちない歩き方ではあったが日常生活を送れるようになった。

 私が1人で歩けるようになった日は私の病室でちょっとしたパーティーが開かれた。

 私とアラン、ローズさんの3人で行われた小さなパーティーだった。

 私はこの時、生きていたことを心の底から喜んだ。

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