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5話 それぞれの帰還

 火傷の男を僕たちは前後で挟み込む形となった。

 ルーカスさんが男に向かって剣を振り下ろす。

 男はそれを避けようと後ろに思いっきり飛び、ルーカスさんに『火球』を打った。

 だが、男は僕に気づいていなかったのか目の前に着地した。

 僕は反射的に剣を首めがけて振った。

 僕の剣は男の首を刎ねた。


 戦いはあっけなく終わった。

 だが、僕は気づいたと言うより、思い出した。

 こんな世界になったけど、僕は初めて人を殺した。

 僕は、しばらく呆然としていた。

 そんな時、声が聞こえた。

「……アラン、大丈夫か」

 僕はハッとしてルーカスさんの声に反応した。

「あっ…大丈夫です…」

「ここにも火が回る、早く脱出するぞ」

 そうして、僕たちは火の少ないところを走って脱出した。

 脱出した場所は運良く、街の近くだった。

「おい、あそこに人がいるぞ」

 そんな声が聞こえて、街の人たちが近寄ってくる。

「元凶の男は殺した」

 ルーカスさんが街の人たちに伝えた。

 人々は少しの間だけ喜び、すぐに消化活動に入った。

 水魔法使いを中心に川の水を汲んできたりして、消化作業が続いた。

 僕たちは功労者として休ませてもらえることになった。


 僕は宿屋のベッドに入った。

 だけど、寝ることができなかった。

 人を殺したことを自覚してから、首を切った感触が手から離れない。

「おい、大丈夫かー。入るぞー」

 ルーカスさんが話しながら部屋に入ってきた。

「どっどうしたんですか?ルーカスさん」

 僕はベッドから起きて聞いた。

「おい、アラン……そんな他人行儀じゃなくてルーカスって呼んでくれよ。一緒に戦った仲だろ」

「うん、そうだね。そうさせてもらうよ、ルーカス」

 僕はベッドに座りながら返した。

「アラン、俺はさ、覚醒者が出始めてすぐの時に反政府の人間に襲われたことがあるんだ」

 今までのルーカスからは信じられないほど静かに話し始めた。

「俺はその時、襲ってきた奴を殺したんだ。初めて人を殺した。しばらくの間は部屋に篭ったんだ」

「ルーカスも初めて人を殺した時、辛かったの?」

 僕はつい聞いてしまった。

「あぁ、辛かった。でも、弟がさ、言ってくれたんだ、守ってくれてありがとうって」

 ルーカスは僕の目を見て、真剣に言った。

「俺は大切な人を守るためにこの力を使う。その過程で敵を殺すこともある。でも、守るために必要なことだ」

 ルーカスが力強く言う。

 僕はその言葉に納得はできる。

 でも、まだしばらくは僕の心は落ち着きそうになかった。

「ルーカス、ありがとう」

「アラン、無理はしなくていいぞ。俺もそういった考えになってもすぐには立ち直れなかったから」

 僕はその言葉に少し救われた気がした。

 あの、ルーカスでも立ち直るのに時間がかかったのか。

「アラン、ゆっくり休めよ。おやすみ」

「おやすみ、ルーカス」

 ルーカスはそう言って部屋を出て行った。

 僕はベッドに横になり、眠りについた。


 次の日、僕は日が上りきる頃に目を覚ました。

 僕は部屋から出ることにした。

「おぉ、おはよう、アラン!」

 部屋を出てすぐにルーカスにあった。

「おはよう、ルーカス」

 僕はルーカスに挨拶を返した。

「アラン、ちょうど昼メシの時間だ。一緒に食べるか」

 ルーカスは元気に振る舞ってくれた。いや、これがルーカスだ。

「うん、一緒に食べる」

 僕は今出せる元気で返した。

 そうして、僕らは食堂へ向かった。

 食堂には人が全然いなかった。

「人…いないね」

 僕は小さく呟いた。

「あぁ、まだ消火が終わってなくてな」

 ルーカスが僕の言葉に返した。

「だったら、手伝いに行かないと」

「行っても無駄だぜ。俺は功労者だから休めって追い返された」

 僕の言葉にルーカスは呆れたように言った。

 そう言うことならと僕たちは食事を始めた。

 僕たちの食事はいつもよりも長かった。

 食後にやることがなかったということもあるが食堂の人たちがお礼とばかりに料理をどんどんと運んできてくれた。

 僕とルーカスは昨日の晩御飯を食べてなかったこともあって、お腹が空いていたためありがたかった。

 僕たちはお腹いっぱいになるまで食事をかきこんだ。

 僕たちは食事を終えて、そのまま座っていた。

「ルーカス、僕たちはベルリンに報告のために帰ろう」

 僕はルーカスを見て言った。

「確かにそうだな」

 ルーカスは賛同して、僕たちはベルリンへ帰還することにした。

 「ありがとう」、そんな声を聞きながら僕たちはリュッベンから出発した。


 僕たちはゆっくりとベルリンへと馬を走らせた。

 リュッベンに来る時は急いで来たから6時間ほどで着いたが、帰りは道中で一泊しながら帰った。

 僕たちはベルリンに着いてすぐにギルドに行った。

「あっ、アランさん、ルーカスさん」

 ローズさんが迎えてくれた。

「すまんが、支部長に報告に行くから話は後でな」

 ルーカスがそう言って僕たちは支部長室に向かった。

「ルーカス・リヒターです」

 ルーカスがドアをノックしながら言う。

「おぉ、ルーカスか、入ってくれ」

 ハルトマンさんのその声を聞き、僕らは部屋に入った。

「まだ、こっちに話が来てなくてね。報告を頼めるか」

「あぁ、そのために来たからな」

 そうして僕たちはハルトマンさんに討伐したことを報告をした。

「そうか、よくやってくれた。報告ご苦労、今後のことは明日以降に決めることにするからゆっくり休んでくれ」

「はい、わかりました」

「そういうことならゆっくり休むか」

 そうして、僕たちは部屋を後にした。


ーーームサラ山、レオ視点

 洞窟の調査での予想外の魔王との接敵。

 魔王がこちらに気付き、言葉を発する。

「ここに人が来るのか、長居しすぎたな…」

 私たちは石にされたかのように固まってしまった。

「初めまして、俺は憤怒の魔王のゼロ。君たちの名前は?」

 何も答えられない。恐怖に支配されていた。

「名乗らないのか。まぁ…いっか」

 魔王が動き始める。

「俺はそろそろ自分の拠点に戻ることにするよ」

 そう言って拠点に帰る準備を始めているようだ。

 私たちはただみていることしかできなかった。

 動くことができず、生きた心地がしない状態が続いた。


 準備が終わったみたいで魔王がこちらを向く。

 そしてそのまま、こちらに向かって歩き始めた。

 それに反応してか、トムとマーガレットが動き出した。

 2人は瞬時に私の前に出たのだ。

 トムは『水球』を放とうとして、マーガレットは私たちと魔王の間に土の壁を作ろうとしていた。

 私も遅れを取らぬように魔法を使おうとした。

 その行動を見てか、魔王にも動きがあった。

 魔王は右手を軽く動かした。

 ーー《破壊者デストロイ》。

 それを見て、私は咄嗟に風を自分に纏わせた。

 次の瞬間、今まで聞いたことのないような轟音が鳴り響いた。


 私は状況を確認しようと目を開けた。

 視界一面に空が広がっていた。

 洞窟から吹き飛ばされて、地面に倒れているみたいだ。

 魔王が使ったのは無属性魔法の『衝撃波』に似ている気がする。

 そんなことを考えている場合ではないと私は再度状況を確認しようとした。

 だが、体が動かない。

 全身が悲鳴を上げるように痛い。

 それでも頭だけは動かして周りを確認する。

 近くに人を確認できなかった。

 周りを確認した後に自分の体の状況を確認した。

 風を纏ったことで全身切り傷だらけだった。

 私はだんだんと意識が朦朧としてきた。

 そんな中、足音が聞こえた。

 ぼんやりとしか見えなかったが多分、魔王だ。

 アランがここにいなくてよかった。

 そう思っていると魔王の声がかすかに聞こえた。

「なるほど、君は世界に…」

 何かを言っている途中で少し離れた場所から雷鳴のような轟音が鳴り響いた。

「強欲か…煩わしい」

 その声と共に私は意識を失った。


ーーー次の日、山の麓の人たち

 ムサラ山の麓の街であるボロヴェツの街の人たちは昨日、轟音がなり、一瞬にして消えた山の跡地に行くことにした。

 街の男衆は覚悟を決めて、家族に別れを告げてから出発した。

 男衆は50人ぐらいだった。

 男たちは慎重に進んでいった。

「周りが見渡せるんだから、ここまで慎重に行かなくても…」

 1人が呟いた。

 男たちは全員、そいつを見た。

「確かに…」

 新たに1人の男が呟く。

 そうして、他の人たちも口々に同調した言葉を言った。

 その結果、男たちは普段歩くペースで散策を始めた。


 そんな中、1人の男が声を上げた。

「人がいるぞー、あそこに人がいるぞー」

 その声に男衆は集まっていった。

「おぉ、ほんとだ。生きているのか?」

 1人の男が言った。

「今から確認する」

 そうして、別の男が口元に手を置いた。

「呼吸をしてるぞ!」

 そうして男衆は安堵して、どうやって運ぶかを話し合った。

 その結果、1人がおぶっていくことになった。

「一応、周りを確認して、他に生存者がいないか確かめてから出発するぞ」

 男衆のリーダー的な人が言った。

 少しの間、周りの捜索が行われた。

 その結果、左半身が無くなっていた少女と頭を打って亡くなっていた男性が見つかった。


 男衆は生きていた1人の男と2人の亡骸を持って街へと帰還した。

 街の人たちは無事に帰ってきた男衆を見て、喜んだ。

 だが、男衆が持っていた亡骸を見て、唖然としていた。

「1人、生存者がいた」

 男の中のリーダーが声を上げた。

 その声を聞いた人たちは担架を持ってきて生存者を医者のところまで運んだ。

「この街には回復魔法を使える者はいないので私には応急処置しかできません」

 医者はそう言って処置をした。

 街の人たちは話し合いをした。

 街に回復魔法が使える人を呼ぶのか、それとも回復魔法を使える人がいる街にこの人を運ぶのか。

 街の人たちはできるだけはやく話の決着をつけた。

 その結果、ブルガリアの首都であるソフィアに連れて行くことになった。

 この街の覚醒者もソフィアに行っていることからそう言った意見が出た。


 ソフィアまでは一本の道路で繋がっている。

 その道路を使って馬車で行くこととなった。

 ソフィアまで行くのは男衆のリーダーや医者を含めた10人と決まった。

 そうして、日が上がりきった頃、馬車は2台に分けて、怪我人と亡骸を乗せて出発した。

 馬車はゆっくりと走って行く。

 怪我人と亡骸を慎重に運ぶために。

 でも、怪我人のためにできるだけ急いだ。

 そうして、約3日かけてソフィアに着いた。


 ソフィアに着いてすぐに男たちは住民に質問攻めをした。「回復魔法使いはどこにいる」、「ギルドはどこにある」そう言った質問を切羽詰まる様子でしていた。

 そういったことをしているとギルドから覚醒者がきた。

「おい、何してるんだ」

「ギルドの場所を聞いているんです」

 覚醒者の質問にリーダーが答えた。

「どうしてそんなことを聞いてる」

「ムサラ山で怪我人を見つけて…」

 リーダーがそういっている途中に覚醒者と一緒にいた中年の男性が話に割り込んできた。

「ムサラ山には本部が派遣した覚醒者がいるはずだ。怪我人とはどういうことだ。何があった」

 その人は矢継ぎ早に質問をした。

「えっと、その、説明の前に怪我人を…」

「あぁ、すまない。すぐに病院に運ぼう」

 そうして、病院へと馬車を走らせた。

 怪我人は無事、病院で回復魔法を施された。


「こちらの勝手ですまないが、知っていることを教えてくれないか?」

 中年の男性がリーダーに話しかけた。

「あっ、はい。もちろんです」

 リーダーはそう言って、男性と握手を交わした。

「そうだ、名乗っていなかったね。私はブルガリア支部の支部長のイヴァン・イヴァノフです」

「私はヴァシル・ヴァシレフです」

 2人は名乗って、会話が始まった。

「彼を見つけたのは4日前の昼過ぎから山の方から轟音が響いたのです」

「何があったかわかりますか?」

「すみません、私たちは怖くなり家で家族と過ごしていました」

「街は無事だったのですか?」

「はい、街は無事でした。ですが、次の日に山を見たら、山が無くなっていました」

「…山が無くなっていたのですか?」

「そうなんです。私たちはそこを散策することにしたのです。そこで見つけたのです」

「そうですか…。ありがとうございました」

 そうして、会話が終わりイヴァンはギルドへ帰っていった。

 イヴァンは手紙を書いた。

 パリにある本部にその手紙を出した。

『ムサラ山に派遣された調査隊の5名のうち死亡者2名、行方不明者2名、生存者1名

死亡者ダヴィッド・ローラン、リリー・スミス、行方不明者トム・マルタン、マーガレット・ブラウン、生存者レオ・デュラン

尚、生存者レオ・デュランは意識不明』

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