4話 新たなる任務
日が登り始めた早朝、軽い眠気とともに僕らを乗せた蒸気機関車はゆっくりと走り始めた。
ベルリンまで、予定では1日半。
僕は小さくあくびをしながら、外を眺める。
「アランさん、やっぱりまだ眠いですか?」
そんな姿を見てか、ローズさんが話しかけてきた。
「はい…朝早いので少し眠いです。ローズさんは大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。アランさん、無事に列車に乗れたので寝ても大丈夫ですよ」
「すみません、少し寝させてもらいます」
「はい、ゆっくり休んでください」
ローズさんとそんな会話をして、僕は眠りについた。
列車の少し大きい揺れと共に目が覚めた。
「アランさん、おはようございます」
「おはようございます…」
僕は目をこすりながら返した。
僕はそのまま窓の外を見た。
日は上がりきっていた。
「アランさん、ちょうどお昼の時間です。サンドイッチがあるので一緒に食べましょう」
「はい、いただきます」
窓から景色を見ながら食べる食事は今までで一番美味しく感じた。
「アランさん、今までで一番の笑顔ですね」
「そうですか?いや、そうかもしれません」
僕はローズさんの方を見て答えた。
「災厄で家族を失って、何もないからギルドに言われるがまま過ごしてきて、今回の旅も不安になることがあって…」
「そうですね。私も家族を失ったのでアランさんの気持ちがわかります」
「ありがとうございます。でも、そんな不安が消え去るように落ち着けている今が幸せなんです」
「私もこんな世界でここまで落ち着けることができるのは初めてです」
僕らは話した。他愛のない話を。今までの不安を忘れたように。
会話の間にふと、外を見た。
「もう、日が暮れますね」
僕が外を見たのに気づいてか、ローズさんがいった。
「そうですね。こんなに時間を忘れて会話をしていたのは初めてな気がします」
「私もです」
僕らはそんな会話をして、今日を過ごした。
そうして、次の日の昼前に僕らはベルリンに到着した。
「アランさん、ドイツ支部へ行きましょう」
「すみません、ローズさん支部の場所ってどこですか?」
僕はなぜか支部の場所を知らなかった。
聞いていなかったのだ。
「地図があるので案内します」
「ありがとうございます」
そういって駅から馬で少し走った。
街中で周りと比べて少し大きな建物が見えた。
「アランさん、あそこに見える建物がドイツ支部です」
ローズさんは指を指しながら言った。
「もうすぐですね」
僕たちはそこまで馬を走らせた。
ドイツ支部の建物の前に1人の男性が立っていた。
「ようこそお越しくださいました。ここ、ドイツ支部の支部長をしていますクラウス・ハルトマンです」
「初めまして、アラン・オベールです」
「初めまして、ローズ・モローです。よろしくお願いします」
僕たちは支部長と挨拶をした。
「では、中を案内します」
ハルトマンさんがそう言って、僕たちはドイツ支部の中へ入って行った。
僕らはハルトマンさんに案内され、ギルドの裏の少し開けた場所に来た。
中央で剣を振っている男がいた。
「彼が実力を試してほしい人です」
ハルトマンさんがそう言って彼の元へと案内してくれた。
彼は遠くからわかるぐらい背が高かった。
近くに来ると見上げないといけないぐらいだった。
僕は彼の目の前に来て、すぐに挨拶をする。
「初めまして、フランス本部から来ましたアラン・オベールです」
「同じく、フランス本部から来ましたローズ・モローです。よろしくお願いします」
ローズさんも僕の挨拶を待って挨拶をした。
「初めまして、ドイツ支部所属のルーカス・リヒターです。よろしくお願いします」
リヒターさんと僕は握手を交わした。
「フランス本部から来たと言うことは君が私の実力を試してくれる人かな?」
リヒターさんが聞いてきた。
「はい、僕がやらせていただきます」
「そうか、じゃあ、アランよろしくな。あと、俺のことはルーカスって呼んでくれ」
「はいっ、よろしくお願いします。ルーカスさん」
僕はリヒターさん改めてルーカスさんと呼ぶことにした。
ルーカスさんは気さくな方だった。
「とりあえず、準備運動するか」
ルーカスさんがそう言って木剣を渡して来た。
「はい、軽く行きましょう」
僕は了承した。
そして、僕とルーカスさんの木剣での打ち合いが始まった。
ルーカスさんは強かった。
僕は防戦一方だった。
でも、前までだったら防戦一方にすらならずに負けていただろう。
正直に言うとレオさんの方が強い。
レオさんと打ち合った僕は剣を受けるのは容易だった。
だが、レオさんとの打ち合いで僕は基本的に守りだった。
攻めは教わってない。
故に、防戦一方だった。
「アラン、守ってばっかで攻めてこないのか」
打ち合いがひと段落した時にルーカスさんが言った。
「すみません、相棒との打ち合いは防戦一方で攻めたことがなくて…」
僕はそう答えた。
「ちなみにさぁ、アランの相棒と俺だとどっちが強いんだ」
「正直に言うと、僕の相棒の方が強いです」
「そうかぁ。戦ってみたいなぁ」
「今はブルガリアの方に行っているので戦うのは帰ってきてからになりますね」
僕とルーカスさんが話しているとハルトマンさんが話しかけて来た。
「彼はどうですか?Eランクにする実力はありますか?」
その問いに僕は頷きながら答えた。
「はい、剣だけでも十分実力はあるのでEランクにしても問題ないと思います」
僕のその発言でルーカスさんはFランクを飛ばして、Eランクで登録された。
「よし、アラン今度は魔法ありで模擬戦しないか」
登録が終わったルーカスさんが話しかけて来た。
「僕の魔法は火なので安全のために戦闘以外では基本的に使わないことにしているので…」
「そうか、じゃあ木剣でもう一戦やろうぜ。攻め方を教えてやるからさ」
「いいですけど、ルーカスさんの魔法ってなんですか?」
僕は気になったので質問をした。
「俺の魔法か。俺のは雷だ」
僕はそれを聞いて、一瞬止まった。
「ルーカスさんも模擬戦で魔法を使ったら危険じゃないですか」
「ハハハッ、確かにそうだな」
「笑い事じゃないですよ…」
そういう会話をして、模擬戦を再開した。
“カッカンッ!"
辺りに木剣を打ち合う音が響く。
僕はルーカスさんに攻め方を教わっていた。
「アラン、腰がひいてるぞ。後ろに下がらず前に出ろ!」
「はいっ!」
僕はルーカスさんの懐に入って剣を振る。
ルーカスさんはそれを軽くいなし、僕の横腹に一撃を入れた。
“バシンッ"
僕はその一撃で少し飛び、地面に倒れた。
「あぁ、すまんアラン。強くやり過ぎた」
「だ…大丈夫です」
僕はすぐに立ち上がって言った。
「さ…再開しましょう」
「いや、流石に休憩にしよう」
ルーカスさんがそう言って休憩に入ることになった。
「アラン、昼飯は食ったか」
ルーカスさんのその言葉に僕はハッとした。
「そういえば、食べてません」
「よし、それなら飯にするか」
僕たちは昼食を食べることになった。
そんな時にハルトマンさんとギルド内で話をしていたローズさんが僕たちの元に来た。
「おぉ、確か…ローズであってたっけ?」
「はい、ローズとお呼びください」
ルーカスさんがローズさんに話しかけた。
「今からアランと飯にするんだが一緒にどうだ」
「では、ご一緒させていただきますリヒターさん」
「おぉ、ルーカスって呼んでくれ。じゃあ、ギルド内の食堂に行くぞ。案内してやる」
「はいっ!」
「お願いします。ルーカスさん」
そうしてルーカスさんは案内してくれた。
僕たちは食堂で食事を始めた。
そんな中、僕たちのところに1人の男が走ってきた。
「あの、すみません」
「おー、ヨナス。紹介するよ、俺の弟のヨナスだ。仲良くしてやってくれ」
「あっ、ヨナス・リヒターです。ヨナスと呼んでください」
ヨナスさんはこちらを向いて、挨拶をしてくれた。
「よろしくお願いします。ヨナスさん。僕のことはアランと呼んでください」
「ローズ・モローです。よろしくお願いします、ヨナスさん」
僕たちもヨナスさんに挨拶をした。
「あの、支部長が兄さんとアランさんを呼んでくるようにと、言われたので…」
「支部長が呼んでんのか。アラン、さっさと食って行くぞ」
「はい、急ぎましょう」
僕たちは急ぎ足で、支部長室に向かった。
支部長室の前につき、ルーカスさんがドアをノックする。
「おぉ、ルーカスとアラン君か、入ってくれたまえ」
僕たちは中に入った。
「いきなり呼んで悪いな、緊急の要件だ」
「緊急?そんなにやばいのか?」
ルーカスさんが支部長の言葉に聞き返した。
「あぁ、リュッベンから救助要請が来た」
「救助要請?どうしてだ」
「シュプレーヴァルトを魔法で燃やしている奴がいると連絡があった」
「反政府の奴か?」
ルーカスさんが聞いた。
「今はわかっていないが非所属だと思われる。そこで君たちに任務を言い渡す」
「任務ですか?」
僕はつい聞き返してしまった。
「あぁ、2人でその者を捕縛、もしくは討伐をしてきてくれ」
「それが任務か、わかった。行くぞ、アラン」
ルーカスさんは急いで向かおうとした。
「ルーカス、まだ伝えておかなければならないことがあるからまて」
「なんですか、急いで行かないとダメでしょ」
ルーカスさんは強気に言い返した。
「あぁ、そうだな。すぐ終わるから聞いていけ」
ハルトマンさんも強気に言い返した。
「今回の敵をEランクの『悪魔級』と推定し、任務難易度は環境を含めてDランクとする。2人とも注意して行ってくれ」
「あぁ…」
「はいっ」
僕とルーカスさんは返事をして、部屋をあとにした。
「ルーカスさん、リュッベンまではどのくらいかかりますか?」
僕は馬の準備をしながら聞いた。
「馬で急げば、6時間ぐらいで着けるはずだ」
「そうなると着くのは夜になりますね」
そんな会話をしている時にローズさんが来た。
「アランさん」
「ローズさんも一緒に来るんですか?」
「いえ、私はこちらで治療のお手伝いをすることになっているので…」
「そうですか、頑張ってください」
僕はそう返し、馬に乗る。
「アランさん、ルーカスさん。気をつけて行ってきてください」
「はい、行ってきます」
「おぉ、行ってくる。…急ぐぞ、アラン」
そうして、僕たちは焦る気持ちを抑えながら馬を走らせる。
日が落ちる頃に大きな火が見えた。
「アラン、あそこだ。急ぐぞ」
「あぁ…」
僕たちは目の前の光景に焦って馬を走らせた。
しばらく走らせて、街が見えてきた。
「あの街がリュッベンだ」
「とりあえず、街に行こう。ルーカスさん」
ルーカスさんは僕の言葉に頷いた。
僕たちは燃える森を横目に街へと入って行った。
僕たちが街に入ると突然、1人の男が前に出てきた。
「何者だ。奴の仲間か」
「ドイツ支部ベルリンギルド所属のルーカス・リヒターだ」
「僕は、フランス本部パリギルド所属のアラン・オベールです」
「そうか、いきなりすまない。俺はこの街の自警団のラルフ・バウマンだ。よろしくな」
僕たちは互いに挨拶をした。
「ラルフ、今の状況を教えてくれ」
ルーカスさんがバウマンさんに聞いた。
「今、わかってることは敵は一名、火の中心にいるのを確認しています…」
僕たちは作戦を考えることになった。
「この街に覚醒者はいますか?」
僕はバウマンさんに聞いた。
「今は、森の火が広がらないようにしている水魔法使いが2人います」
「なるほどなぁ、なら俺とアランが敵を倒しにいくしかないか」
「そうですね。僕たちは森の鎮火はできないので倒しにいくしかないですね」
そうして、僕たちは敵のところへ行く、準備をすることになった。
「アラン、水をかぶるぞ」
僕たちは火の中に入る準備として、水をかぶることになった。
“バシャッ"
2人で水をかぶり、火の中へと出発した。
僕たちは火の中心部へと走っていく。
しばらくして、火の向こうに人影が見えてきた。
手や顔に火傷を負っている男だった。
「あいつか」
ルーカスさんが小声で言う。
その時、その人影がこちらを見る。
「死ねぇー」
その男が僕たちの間に向けて火を放つ。
僕たちはその火で分断された。
僕は男がいたところに向かって走る。
だが、火が広がっていて、近づくことができない。
そんな中、ルーカスさんが男に攻撃しようとするところが見えた。
僕はルーカスさんと男の直線上に立って、背後から攻撃しようと剣を握った。