手違いによる事故死した青年は神に対して特典を願った
久しぶりに実家へと帰省しようと車を運転していた僕は突然の事故に巻き込まれて意識を失ってしまった。そして次に気が付いたときには右も左も、それどころか上も下も分からないほどになにもないただただ真っ白な空間でぽつんと座っていた。
僕自身の体、腕や足といったものは見えたのでどうやら目が見えなくなってしまったわけではないはしい。
一体ここはどこなんだ? 首を傾げながら立ち上がり辺りをぐるりと見渡してみる。本当に白しかないなにもない世界だった。
事故が起こったのは覚えている。ということはここは死後の世界というやつなのだろうか。
こんななにもない世界が死後の世界だなんてゾッとするな、と頭の片隅でそんなことを考えながらなにかないかと探しながら後ろを振り返ってみると、少し遠くの方に誰かがいるのが見えた。
いつまでもボーッとしてても仕方がない。僕はその人の方へと走っていってみた。
そこにいたのは長いヒゲをたくわえた威厳のある老人だった。神々しいローブを身に纏い堂々とした姿を見せるその人物は、なんの説明もなく神であることを納得させられるような威容を放っていた。
その人物は僕を見ると口を開く。
内容を要約すると僕はなんらかの手違いで死んでしまったらしく、本来の寿命はまだまだ残っていたらしいのだ。しかし手違いとはいえ一度死んでしまった者を現世に蘇らせるわけにはいかないらしい。
だがいくらなんでもそれは僕が哀れであるということで次の世界、すなわち来世に転生するときになにかしらの特典をつけるというのだ。
次に僕が行く世界はいわゆる剣と魔法の世界であるらしい。それを考えて特典を決めろ、という神様の言葉に従い、僕はファンタジー世界で役立ちそうな能力を決めて伝えた。
『よかろう。では貴様が次に産まれるときにはそのような能力を持つようにしよう』
神様のその言葉を最後にして僕の意識は薄れ始めた。
とある剣と魔法が支配する世界に、一人の赤子が産まれた。その赤子は自分の思い描くあらゆる銃火器や化学兵器を一瞬にして自在に作り出せる魔法を生まれながらにして持っていた。
しかし、彼は生涯その魔法を使うことはなかった。銃火器や化学兵器など彼の頭に浮かびすらしなかったのだ。
事故で命を落としたあの青年は、神に魔法は願ったが記憶の継承は願い損ねていたのだ。
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