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9話(高1ジュン三村1)『フリ』

 2024年6月3日。最近は、芯人は無帰が自分の意識に入ることに段々と慣れて、この日も学校に登校した時から無帰が意識に入っていた。

 授業中や休み時間などもいちいち口を出してくるので芯人は鬱陶しいと思う事もあったが、静かにしろ、というと意外と素直に言うことを聞いてくれたので芯人は許した。


 帰りのホームルームが終わったため、芯人はリュックを背負って帰ろうとしていた、すると教室前方のドアが三回ノックされた後、開いた。

 そしてノックをした人間、メガネを付け、身長は平均的、髪型はボブの女子生徒が教室に顔を見せた。


「失礼します、前島先輩はいますか!」


 教室がざわめいた。なぜなら教室に顔を見せたあのメガネ女子生徒は本来この学校では口にしてはいけない人間の名前を口にしたから。彼女は前島、先輩と言ったのだ。他の誰でもないあの『恐い不良』、前島竹だ。


 前島竹はこの学校史上の一番の問題児で、校内で目立ったら殺される、うるさくしてたら殺される、名前を口にしたら殺される、近くで同じ空気を吸ったら殺される、など様々な恐ろしい噂が流れている。


「あ、あれ?前島先輩はいますか!」


 クラスメイトの誰もメガネ女子生徒の真剣な問いかけに反応しない。前島竹に関わったらダメだ、殺される。皆そう思っているからだ。張本真実ともう一人の男子生徒を除いて。


「竹ならもう帰ったよ」


 そう男子生徒とは芯人のことだ。芯人は四月、前島竹とのいざこざで前島竹と親友になった。きっとお互い一番の親友だと思っているだろう。


 芯人がメガネ女子生徒に話しかける。メガネ女子生徒はそうですか、と言って肩を竦めた。


「先輩、って言うってことは一年生だよな?竹になんの用?」


 芯人や竹は二年生なのでこの学校で先輩と呼ぶ生徒は一年生だけだ。


 芯人はまさか彼女ということは、まあ竹だからないよな、と思った。かなりというか相当失礼な話だがそもそも友達がほとんど居ないのに彼女が出来るはずがないのも事実であった。


「正確には前島先輩じゃなくてもいいんですが……」


 メガネ女子生徒はそう意味深なことを言って黙りこくった。芯人はなんだか興味が湧いて。


「僕でいいなら話を聞くよ、特に用事もないし」


(……本当は妹の羅奈とショッピングに行く予定だったけど、スマホで連絡を入れればいいや)


 前島、というワードのせいでクラスの注目が物凄く集まっていたので芯人たちは学校を出て話すことにした。


「彼氏のフリをして欲しい?」


「はい、そうなんです」


 三村ひに、と自己紹介したメガネ女子生徒は校門を出てすぐにそんなことを言った。


「3年生に杉田航平先輩っていう人が居るんですけど、この前その人に告白されて、その時彼氏がいるので無理です、と断ったんです。そしたら彼氏を連れて来いと言われちゃって」


「だけど本当は彼氏がいないから困ってる、ということか」


 三村は驚いたように目を見開いて。


「どうしてわかったんですか!エスパーなんですか!?」


(いや、それくらい話の流れで分かるだろ……天然なのか?)


 こほん、と三村は咳払いをして話を本題に戻した。


「初めは学校一の不良と噂されている前島先輩に頼んで喧嘩になることなく事を済まそうとしたんですけれど、大丈夫ですかね?田宮先輩」


 田宮芯人、ともう既に自己紹介はしているので三村は芯人の名前を呼んだ。芯人は部活動をしていないので、後輩と関わる機会は少ない。そのため先輩と呼ばれることに若干違和感を覚えたがすぐに慣れるだろうと気にすることをやめた。


「喧嘩なんて想定してたのかよ」


「はい、どちらかが死ぬまで終わらないレベルの殴り合いになると思っています!」


 屈託のない笑顔でそんな恐ろしいことを言う三村に芯人はかなり引いたが、天然だから、と仕方ないかと割り切った。


(というかこの子は彼氏兼ボディガード役として竹に協力してもらおうとしていたのか……竹の恐ろしい噂とか知っているはずなんだけどな)


「そんなことになんないと思うけどもし、殴り合いになりそうだったら竹のことを口に出せば万事解決だ」


 大の友達をよくドラマで見る、ぼったくりバーのバックにいるヤクザ、みたいに扱うのはとてもとてもとても心苦しかったが、まっいいか、そう芯人は思った。




 本当は全然心苦しくないのはここだけの話だ。




 その次の日の放課後、三村に告白した杉田航平先輩、とやらと学校の体育館裏で待ち合わせをした。三村が喧嘩になると思う、みたいなことを言っていたので芯人は杉田先輩がどんな人間なのか内心ちょっとビビりながら杉田航平がやってくるのを待った。


 結果、結論から言うと、問題は一瞬で解決した。


 杉田先輩に三村がこの人が彼氏です、と言うと杉田航平はブツブツと芯人に文句を言ってきた。

 なんでこんなやつ、俺ほうが相応しい、みたいな事を言っていたが芯人は別に自分が三村ひにの彼氏として相応しいと思っていないし、そもそも本当の彼氏でもないので軽く受け流した。


 すると杉田航平は今にも殴ってきそうな感じを出してきたが、この学校のヤクザのような存在、否それよりも高度な存在である前島竹という名前を口にすると、杉田航平は一瞬で帰って行った。


 一つ、杉田航平という人間の容姿を見て、芯人は思った事があった。


「あの人凄いイケメンじゃないか」


三村はえへへ、と少し苦笑いをして答える。


「そうですよね、私もそう思います。あとあの人は女子からも男子からも相当人気だそうです」


 そんな凄い人を芯人は今日まで、見たことも聞いたこともなかった。芯人は竹と親友ということで友達が全く出来ないためしょうがない部分はあるのだが。


「へー、そんな人に告白される三村は凄いな、でもどうして断ったんだ?」


 三村は再び苦笑いをして。


「よく、分からないんですよ。あの人の事もあまり知らないし、あの人に取り巻く人達のことも知らない。知らないなら、知らないまま、関係を発展させる必要はないと思ったんです」


 あの人から逃げた、とも言えるかもしれません、と言って三村は俯いた。


「む、難しい話だな」


 お互い苦笑いというか、愛想笑いをした。しばらくお互い沈黙を守った後、気まずい雰囲気を切り裂くように、芯人が新しい話を切り出した。


「僕が言うのもあれだけど、竹ってそんなに怖がられているんだな」


 帰り道、三村に話しかけると、三村は笑って答えた。


「そうですね、うちのクラスでは入学して初日に二年生の先輩がやってきて、前島先輩の恐ろしさを伝えに来ましたよ」


 勇気があるやつもいるもんだな、と芯人は思った。前島竹の名前を出すのも恐れられているのに竹の恐ろしさを伝える、つまりは竹のことを悪く言うなんて相当勇気がないと出来ることではない。いや勇気がある人間でも基本的には出来るはずがない。その人間がどんな人間なのか、芯人は少し気になった。


「んー親友としてはあまり、いいことだとは思っていないけど、竹は喜ぶからいいか」


 三村は首を傾げて芯人に問いかける。


「どういうことですか?恐れられて、怖がられて喜ぶって」


「こっちの話だ。気にすんな」


 ふーん、と三村は言った。まだ芯人が言った言葉が気になっているようで、三村は歩きながら黙り込み、考え込んでいる素振りを見せた。が、しばらく歩くと。


「では私はこっちの道なので。本日は本当にありがとうございました、このご恩は、まあ、返せたら返します」


「それ絶対返さないやつだろ!」


「返しますよ返します、冗談ですよ」


 三村は口元を抑えて笑いながら言った。そして芯人に手を振りながらその場を後にした。




 その日の夜、芯人は夜ご飯を食べながら、妹の羅奈に今日の出来事を話した。田宮家、というか芯人と羅奈は夜ご飯中には今日あった出来事を話す子が日課なのだ。


「へー、そんな事があったんだね。良かったじゃんにーに、一瞬でも彼女が出来て」


「フリをしてただけだ。本当に彼氏彼女の関係になったわけじゃない」


 はあ、とため息をついて、羅奈は茶碗をテーブルに置き、熱血な感じを出しながら言った。


「わかってない、わかってないなーにーには。彼氏彼女のフリとかをすると、本当に好きになっちゃうもんなんだよ、本当に彼氏彼女に、なっちゃうんだよ!ラブコメとかで見たことない?」


この妹は脳が恋愛で出来ているのだろうか、そう芯人は思いながら答える。


「そんなことには絶対にならないし、僕には好きな子がいる」


「えぇ!にーに!私のことが好きだったの!?」


「そんなことは言っていない」


 羅奈は席をたち、リビングを飛び跳ねながら、興奮しながら芯人に訊いた。


「なら!それはどんな人で、何歳で、どこに住んでるの!見てみたい見てみたい見てみたい!にーにの好きな人!」


 年頃の女の子は恋愛の話になるとこうも興奮し、わくわくするものなのか、それは普通の男子高校生である芯人が知っているはずもなかった。が、芯人は多分きっとメイビー恋愛は興奮し、わくわくするものなのだろう。ならば妹には楽しんで欲しい、そう考えた。


 芯人は胸に手を当てて穏やかに答える。


「その子はいつもクールで、それでいて可愛くて、十四歳、十五歳くらいに見えるんだけど、堂々としているんだ。そしてその子は僕の意識の中にいるのさ」


「ああついに、にーには現実も見れなくなってしまったのか」


 事実だ。実際に芯人が好きな無帰は芯人の意識の中にいて、いつもクールで、可愛くて、ちょっとトゲトゲしいところもあるけど、芯人はそういう所も含めて全てが好きで、今でも芯人は無帰と付き合いたいと思っている。まあ付き合ってしまったら『魂の叫喚』が叶った、ということで奇怪である無帰は消えてしまうのだが。


 気持ち悪いです、お前


 冷淡な声が芯人の脳に響いた。噂をすれば、というか噂をしたから、意識の中にいた無帰が話しかけてきたのだ。


「もしかしたら、今後もその、三村ひに?っていう人がにーにを求めるかもしれないじゃん?一度あることは二度あるみたいな?そうしたら手を貸してあげるんだよ、にーに」


 一度あることが二度あるのなら、この世に存在する全ての事柄は二つ存在することになってしまうぞ、というツッコミは芯人にとって長くて面倒くさかったためしなかった。


「まっ、恐ろしい恐ろしい『恐い不良』前島竹の名前も出したし、もう僕は必要ないだろ」


 と盛大なフリを言って芯人は夜ご飯を食べた後、寝支度をして寝た。


 次の日、芯人が学校に登校すると。

ご読了ありがとうございました!!

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