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16話 旅道中

 新幹線が滑るように天下の台所・大阪へと進む。


 車窓に広がる景色は、いつの間にかビルの群れに変わり、人の流れがまるで大河のように動いているのが見えた。まさに「活気」という言葉が具現化したような街。


「いやぁ、着いたねぇ。大阪。」


 住吉は、ゆったりと席を立ち、静かにホームへ降り立つ。


 人の波は滝のように激しく、サラリーマンや観光客が、ひっきりなしに動いている。改札の向こうには、関西弁の飛び交う商店街が待ち構えている。


 住吉は、すぅっとその流れに紛れ込む。


 彼の姿は、人間には認識できない。


 肩がぶつかっても、人々は何も気にしない。「あれ? ちょっと風が吹いたかな?」くらいの感覚で済まされる。


 便利といえば便利だが、どこか寂しさもある。


 ふと、たこ焼きの香ばしい匂いが鼻をくすぐる。


「……おやおや、これは。」


 住吉は匂いに誘われるように、駅の出口近くのたこ焼き屋へ向かう。


 屋台風の店には、湯気が立ち上る鉄板が置かれ、店主がリズミカルにたこ焼きをひっくり返している。


「いらっしゃい! アツアツやで!」


 観光客が列をなし、熱々のたこ焼きを頬張っている。


「いやぁ、これはまた、いい匂いだねぇ。」


 住吉は、カウンターの端にそっと立つ。


 神様は人間のものに触れることができる。


 だが、人間はそれを「都合のいい解釈」で処理する。


 もし住吉がここでたこ焼きをつまみ上げたとしても、「あれ? 手が滑ったかな?」とか「風で動いた?」くらいの認識しか持たない。


 けれど——


「いやいや、ボクは神様だからねぇ。食い逃げなんてのは、ちょっとねぇ。」


 さすがにそれは、神様としての矜持が許さない。


 とはいえ、落ちたものくらいなら話は別である。


 ——その時だった。


「おっと……!」


 店主が鉄板から取り上げようとしたたこ焼きが、一つコロンと転がり、地面へ落ちた。


「あぁ、もったいないなぁ……」


 住吉は、すっと腰をかがめ、そのたこ焼きを拾い上げた。


 どうせ捨てられる運命なら、貰っても罰は当たらないだろう。


「いやぁ、ちょうどいいねぇ。」


 ふぅふぅと息を吹きかけ、ひと口でぱくり。


「……んん!?」


 とろとろの生地に、じゅわっと染み込んだソースの旨味。外はカリッと、中はふわっと。


「いやぁ……うまいねぇ……!」


 しばらく味を堪能した後、住吉は満足げに頷く。


「ごちそうさま。」


 落とし物を拾っただけだから、これくらいなら問題ない。


 店の主人は、特に気にする様子もなく、たこ焼きを焼き続けていた。


「……しかし、大阪は本当にいい街だねぇ。」


 ふと、道頓堀の橋へ向かう。


 目の前には、巨大な看板。賑やかなネオン。


 人々が笑い、楽しげに通り過ぎる。


 住吉は、ゆるりと空を見上げた。


「いやぁ、やっぱり大阪は、いいねぇ。」


 しかし、ここでのんびりしている暇はない。


 次の目的地は、伊勢。


「さて、そろそろ行こうかねぇ。」


 住吉は、駅へと引き返す。


 けれど、その足取りは、ほんの少しだけ名残惜しそうだった。


 旅は徒然なんてよく言ったものでございます。人間の旅というのは、目的地に着くまでにいろいろ寄り道をするものでございますが、それは神様も同じでございます。いや、むしろ神様の旅というのは、人間のそれよりもっと気まぐれなものでしてね。


 ほれ、先ほどまで新幹線に揺られていた住吉命も、大阪に降り立ってたこ焼きを一ついただいて、さぁ次は伊勢へ……と行けばいいものを、まぁそう簡単にはいかない。


 なぜならば、ここで縁というものが、また新たに結ばれるからでございます。


 何の縁かと申しますと——


 大阪の、とある神様との出会い。


 さてさて、これはどんなお話になりますやら。


 乗り継いだ近鉄特急は、ひたすら東へと進んでいく。


 住吉は、車窓をぼんやりと眺めながら、静かに息を吐いた。


「いやぁ、旅ってのは、何が起こるか分からないもんだねぇ。」


 大阪では、たこ焼きのご縁に恵まれ、ほんの少し町の空気を楽しんだ。


 だが、こうして再び電車に乗ってしまえば、もうあとは目的地まで一直線——


 ……と、思っていた。


 だがしかし、そうは問屋が卸さないのが、この八百万の神の世界というものでして。


 前の席に、妙な神様が座っていたのでございます。


 それは、ひどく物静かで、ひどく根暗な空気をまといながらも、何やらギラリとした目をこちらに向けている神様。


 住吉は、なんとなく気配を感じてそっと視線を移した。


 すると、その神様は、じーーーーっと住吉を見つめたまま、口元に手を添えながら、低く呟くのでございました。


「……お前、ええなぁ……」


「……いやぁ、なんの話かねぇ?」


「金髪、ええなぁ……ちょっと錆びかけとるけど、それでもその発色はええわぁ……」


 住吉は、一瞬ギョッとした。


 ああ、この神様、どうやらオタク気質の神様でございますな。


 神様にもいろいろな性格があるもので、世の中にはこういう、妙にこだわりの強い神様もおるのでございます。


 住吉はそっと身を引きつつ、尋ねる。


「いやぁ、ボクの髪の色なんて、そんなに珍しくはないと思うけどねぇ?」


「ちゃうねん……色やない……その『属性』や。」


「属性……?」


「田舎の小さな神社で、信仰が薄れてくすんだ神様……これはもう、最高に推しがいがあるやん……」


「……はぁ。」


 住吉は、もうなんとなく分かってきた。


 この神様は、どうやら「特定の属性」に並々ならぬこだわりを持つ神様らしい。


 住吉の髪が金と銅のまだらになっているのを見て、「衰退の美学」みたいなものを見出しているらしい。


 いやいや、神様のくすみってのは、本人にとっては死活問題なんだけどねぇ……。


「で、キミはどこの神様かねぇ?」


 住吉がそう尋ねると、相手の神様はスッと胸を張り、小さく笑った。


「ワイは、大阪の恋愛成就の神や。」


「……恋愛専門?」


「そや。」


「すごいねぇ……。」


 神様というのは、大抵いくつかのご利益を兼ね備えているものである。商売繁盛と家内安全が一緒だったり、五穀豊穣と武運長久がセットだったり。


 だが、この神様は——


「ワイはもう、完全に恋愛だけや。恋愛特化型や。」


「ほほぉ、それはまた極端なねぇ……。」


「極端やない、専門や。ワイはもう恋愛以外の願いは聞かん。『金運アップ』とか言われても、『お金があると恋愛もうまくいくで!』って方向にしか解釈せん。恋愛至上主義や。」


「なるほどねぇ……。」


 ここまで特化している神様も、なかなか珍しい。


「で、キミの神社は、どこにあるのかねぇ?」


 住吉が尋ねると、恋愛神(ラブがみ)はどこか誇らしげに答えた。


「ワイの神社? そら、大阪のど真ん中や。もう恋愛成就のメッカみたいな場所や。」


「はぁ、それはまたすごい。」


「せやからな、お前のこと、ちょっと気になってたんや。」


「ボクのこと?」


「お前、まったく恋愛に興味ないやろ?」


「……いやぁ、神様だからねぇ。」


「それやそれや!」


 恋愛神は、膝を叩きながら続ける。


「ワイはな、最近ちょっと思ってるんや。恋愛っていうのは、相手がおるから成立するものやろ? けど、お前みたいに神として独立しとる奴にとっては、そもそも恋愛という概念が希薄なんとちゃうか?」


「……まぁ、そうだねぇ。」


「せやけどな、それはそれでまた、魅力的やと思わんか?」


「……?」


「孤高の存在、触れられぬ距離……そこにこそ、最上の恋愛ロマンがあるんや!」


 住吉は、静かに席をずれた。


「いやぁ……ちょっと、ボクにはよく分からないねぇ……。」


「分かるやろ! お前の存在そのものが、すでに『切ない系の恋愛物語』になっとるんやで!」


 住吉は、しばらく黙った後、ふっと笑った。


「いやぁ、恋愛専門の神様ってのは、やっぱり考えることが違うねぇ。」


「そらそうよ。恋愛に関しては、ワイ、どんな神よりも詳しい自信あるで!」


「はぁ、それは頼もしいねぇ……。」


 住吉は、少し考えながら、ふとこんなことを聞いてみた。


「じゃあさ、恋愛の神様としての目線で聞きたいんだけどねぇ。」


「おお、なんでも聞いてくれや!」


「……恋愛って、神様に必要なものかねぇ?」


 恋愛神は、一瞬だけ黙った。


 それから、じっくりと考え込むように腕を組み、そして小さく笑った。


「お前がそう思う時が来たら、それが答えや。」


 住吉は、目を瞬かせる。


 しかし、次の瞬間——


「……いやぁ、それっぽいこと言ったけど、正直ワイも分からん。」


「結局分かんないのかねぇ!!」


 こうして、住吉はまたひとつ、新しい縁を結ぶことになったのでございます。


 さてさて、この先どうなることやら。



「——で、結局、お前は恋愛に興味ないんか?」


 新幹線の座席に腰を下ろしながら、大阪の恋愛成就の神は、しげしげと住吉を見つめる。


「いやぁ、興味がないっていうかねぇ……ボクの担当は安産だからねぇ。」


「ほぉ、安産か。」


 恋愛神は、ふむふむと頷く。


「それはまた、恋愛の先にあるもんやな。」


「まぁ、そういうことになるねぇ。」


「せやけど、安産ってのは、元をたどれば恋愛があってこそやろ?」


 住吉は、少し考える。


 確かに、恋が実り、夫婦となり、子を授かる——そうして安産祈願に訪れる者がいる。


 つまり、恋愛神とは、根本的なところで繋がっていると言えなくもない。


「いやぁ、それもそうかもしれないねぇ。」


「やろ? せやから、恋愛の神と安産の神は、縁があるんや。」


「……いやぁ、でもボク、恋愛相談とかされたことないしねぇ。」


「なんや、もったいない話やなぁ。」


 恋愛神は、ぐっと身を乗り出してくる。


「じゃあや、お前の神社に参拝に来るやつ、恋愛成就を願うやつはおらんのか?」


「うーん……あぁ、いたねぇ。」


 住吉は、ぽんと手を打つ。


「毎日、ボクの神社に来る田中って高校生がねぇ、『彼女ができますように』ってお願いしてるよぉ。」


「おっ、ええやん! そういうの、ワイの専門分野やで!」


 恋愛神は、ぐいっと前のめりになる。


「で、その田中ってやつ、どんな男なんや?」


「いやぁ、なんていうかねぇ……普通の男の子だよぉ。」


「普通……」


 恋愛神は、じっと住吉を見つめる。


「それは、モテへんってことやな?」


「いやぁ、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないねぇ。」


「まぁ、分かるで。大体なぁ、毎日神社にお参りしとる時点で、ちょっと奥手やろ?」


「まぁ、確かにねぇ。願うばっかりで、行動はしてないみたいだねぇ。」


「アカンアカン、それが恋愛で一番アカンやつや!」


 恋愛神は、バン! と膝を叩く。


「恋愛ってのはな、勢いや!」


「勢い?」


「せや! どんなに相手のこと好きでも、何も言わんかったら伝わらん! どれだけお参りしても、相手に話しかけへんかったら恋なんか始まらん!」


「ふぅん……それはまた、ずいぶん強引な考え方だねぇ。」


「強引ちゃう! これは真理や!!恋は動いたもん勝ちや!!」


 住吉は、その言葉をゆっくりと噛みしめる。


「じゃあ、田中はどうしたらいいのかねぇ?」


「そらもう、一歩踏み出すことや。まずは、好きな子に話しかける! それができんかったら、何も始まらん!」


「なるほどねぇ。」


 住吉は、顎に手を当てながら考え込む。


 確かに田中は、毎日神社に来るものの、ただただ願いを繰り返すだけ。


 住吉からすれば、「願い続けることに意味はあるのかねぇ」と思っていたのだが——


「……恋ってのはな、タイミングや。人と人との出会いは、一瞬で決まることもあるし、一生かけて気づくこともある。」


 恋愛神は、ふっと微笑む。


「そやけどな、どんなに相性のええ二人でも、どっちかが動かんかったら、何も起こらんねん。」


「……ふぅん。」


「せやから、お前も本当にその田中ってやつの願いを叶えてやりたいなら、気張ることや。」


「ボクが?」


「そうや。お前、田中に何か言うたことあるんか?」


 住吉は、少し考えてから答えた。


「……何もないねぇ。そもそも、ボクのこと見えないからねぇ。」


 恋愛神は、目を見開く。


「……お前、それは神としてどうなん?」


「いやぁ、だって話しかけたって聞こえないしねぇ。」


「アカンアカン!! そんなこと言うてたら、いつまで経っても恋は実らんで!」


「うーん、そういうものかねぇ……」


 住吉が納得しかけた、その時だった。


 新幹線のアナウンスが響く。


「次は、大和八木〜大和八木〜」


 恋愛神は、すっと顔を上げた。


「おっと、ちょい待て。」


「?」


「今、実りそうな恋がある。」


「……ほぉ?」


 住吉が目を細める。


 恋愛神は、ふっと立ち上がる。


「せっかくの縁やし、お前に手本見せたるわ。」


「手本?」


「せや。どうやって縁を結ぶのか、神様がどう動くべきか……まぁ、見とけや。」


 そう言って、恋愛神はにやりと笑い、荷物を抱えて新幹線の出口へ向かう。


「神様はな、縁の神である以上、一番ええタイミングで動かなアカンのや。」


 ドアが開く。


 恋愛神は、片手を振りながら、新幹線を降りていった。


 住吉は、その背中をしばらく眺めていた。


 そして、ぽつりと呟く。


「……振袖触れ合うも、なんかの縁、かねぇ。」


 さてさて、この神様、一体何をしでかすのか。


 伊勢の神々が集うこの地で、住吉の旅は、まだまだ続くのでございます。


 新幹線が静かに停車し、扉が開く。


 大和八木駅——ここから先、伊勢へ向かうための乗り換え地点でございます。


 だが、住吉命すみよしのみことは、改札に向かうことなく、駅を出たところの広場で立ち止まることになった。


 なぜかと言えば——


「ほな、行こか。」


「どこへ?」


「広場や。お前に手本見せたるわ。」


「……手本?」


 ニヤリと笑う恋愛神が、ぐいぐいと住吉を引っ張っていく。


 駅の出口を抜けた先、広場には人が行き交い、ベンチに腰掛ける者、待ち合わせをする者、スマホを片手に歩く者——


 そして、その中に、ひと組の若い男女がいた。


 大学生くらいだろう。


 男はやや気恥ずかしそうにポケットに手を突っ込み、女はスマホをいじりながら、ちらちらと彼を伺っている。


「……まぁ、友達以上ってとこやな。」


 恋愛神は腕を組んでじっと観察する。


 住吉も同じように眺めながら、ゆっくりと呟いた。


「いやぁ、なんというか、まだ距離があるねぇ。」


「せやろ?」


 恋愛神は、バキバキと指を鳴らすと、ふっと笑った。


「ほな、くっつけるで。」


「えっ、今ここで?」


「せや。見とけや。力技の真髄を。」


 住吉が何か言う間もなく——


 はいどぉぉん!!


 恋愛神が勢いよく男の背中を押した。


「うわっ!?」


 男は突然の力に足元を取られ、グラリと前のめりになる。


「えっ、ちょ、ちょっと!」


 隣の女が反射的に手を伸ばす。


 だが、バランスを崩した男はそのまま女の方へと倒れ込み——


 ガシッ!!!


 そのまま、完全に抱きしめる形で激突。


「えええええええっっっ!?///」


「す、すまん!!!」


 二人は、まるで恋愛ドラマのクライマックスのように密着したまま固まる。


 女は顔を真っ赤にし、男も狼狽えながら必死に言葉を探している。


「い、いや、これ、その……!」


「い、いいから早く離れなさいよ!!///」


「す、すまん!! でも……えっと……!」


 男は完全に混乱しつつも、なんとかこの状況を乗り切ろうと口を開きかける——


 が、


 恋愛神は、その背中をさらに押した。


「ほら、もう一押しや。」


「ぐっ……!!」


 男は、一瞬の逡巡の後、ついに腹をくくった。


「お、俺……!」


 女の肩を掴み、真剣な目で見つめる。


「俺、お前のこと、ずっと好きだった!!!」


「……っ!!?」


 女は、目を丸くしたまま、固まる。


 男も、息を呑んで彼女の返事を待つ。


 住吉は、あまりの強引さに唖然としていたが、恋愛神は満足げに頷いていた。


 そして、最大の仕上げ。


 恋愛神が、女の背中に向かって、そっと囁く。


「好きって言えや。」


 ——その瞬間、女の体がビクリと震えた。


 ほんの一瞬の沈黙。


 女は、ぎゅっと唇を噛みしめ、顔を赤くしながら、ついに——


「……私も、好き……!!」


「えっ!? ほ、本当か!?」


「うるさい!!/// でも……ほんと……。」


 そう言いながら、女は小さく俯く。


 男は、その言葉に大きく目を見開き、次第に笑顔を浮かべた。


「……ありがとう!!」


「も、もう……ほんとに、もう……!!///」


 周囲に人がいることも忘れ、二人はただ見つめ合っていた。


 恋愛神は、住吉をチラリと見て、ドヤ顔を決める。


「な? こんなもんやろ?」


 住吉は、頭を抱えた。


「……いやぁ、強引すぎるねぇ。」


「ちゃうちゃう、恋ってのはな、こうやって押し切らなアカン時があるんや。」


「いやぁ、でも……。」


「ええか? こういうタイプの二人はな、こうでもせんと、永遠にダラダラして、気づいたらどっちかが別の恋に走るんや。」


「……なるほどねぇ。」


 住吉は、改めて二人を眺める。


 確かに、もしこのまま時間が経てば、どちらかが身を引き、「友達のままでいよう」なんて言っていたかもしれない。


 でも今、この瞬間、恋は確かに結ばれたのだ。


「恋は勢いや。動いたやつが勝ちなんや。」


 恋愛神は、満足げに腕を組み、ドヤ顔のまま広場を後にしようとする。


「……ま、ザッとこんなもんよ。」


 住吉は、軽く息を吐くと、その背中を見つめた。


「……なるほどねぇ。」


「せやろ? ほな、伊勢行くで。」


「いやぁ、ボクもちょっと考えちゃうねぇ……。」


「お?」


 恋愛神が振り返る。


 住吉は、穏やかな笑みを浮かべながら、ぽつりと呟いた。


「……ボクも、田中の願い、叶えてやろうかねぇ。」


 恋愛神は、それを聞いてニヤリと笑う。


「ええやん。ほな、どんな手使うか、そん時ワイが見たるわ。」


「いやぁ、ボクはそんな力技はできないけどねぇ。」


「いや、絶対に何かしでかすタイプやでお前。」


 そんなやりとりをしながら、二柱の神様は再び歩き出す。


 行き先は、伊勢。


 さてさて、恋愛専門の神と、のんびり屋の安産の神。


 この二人が一緒になって、一体どんな騒動を巻き起こすのか。


 神様たちの旅は、まだまだ続くのでございます。

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